【確認テスト付き】記憶の補助線で司法書士試験対策!―第1回 占有改定―

司法書士コラム

こんにちは。
クレアール司法書士講座受験対策室の関口です。

今回は、新企画「記憶の補助線で司法書士試験対策!」を配信します。

法律の学習に関する記事に「補助線」という言葉を使うことに、多少の違和感を覚えた方もいらっしゃるかもしれません。

数学ではよく用いられる「補助線」。一見難しく見える数学の図形問題であったとしても、たった1本の補助線を足すことによって、瞬時にその解法が閃くことがあります。これと同じように、一見個々に独立した関連のない知識のようであっても、ある視点でとらえ直すことで、一気に視界が開けるような感覚が得られることがあります。

司法書士試験が難関たる所以は複数あると思いますが、似通った知識が複数の分野に散らばっていることも要因のひとつであると考えます。皆さんには、司法書士試験の学習の「補助線」となる視点を提供することで、分野の枠を超えて知識を横断整理してもらおうというのがこの企画のコンセプトです。

記念すべき第1回は、「占有改定」です。
記事の最後には、確認テストもご用意しておりますので、ぜひチャレンジしてください(解答フォームからどなたでも何度でも解答可能です)。

占有改定とは

 占有権の譲渡には、①現実の引渡し、②簡易の引渡し、③占有改定、④指図による占有移転の4つの方法があります。司法書士試験では、占有改定が条文に規定する「引渡し」等の要件を満たすかについてよく問われます。

 そもそも占有改定とは、譲渡人が物を譲り渡した後も引き続きこれを所持する場合に、譲受人のためにその占有代理人としてその物を所持するという意思を表示することによって行われる占有権の譲渡方法です(民183条)。



それでは早速本題に入りましょう!

1.動産に関する物権の譲渡の対抗要件と占有改定

 動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができないとされています(民178条)。例えば、次のような事例で考えてみましょう。

【事例】Aは、Bから動産甲を買い受け、占有改定の方法で引渡しを受けたが、その後、Bは、動産甲をCにも売却し、現実に引き渡した。この場合、AはCに対して、動産甲の所有権取得を対抗することはできるか?
※ただし、Cは、BのAに対する動産甲の売却について悪意であったものとする。

 この場合、AはCに対して、所有権取得を対抗することができます。民法178条の「引渡し」には、占有改定も含まれます。多様な引渡し方法を広く認めた方が、一般的に当事者の便益になるためです。
 なお、上記【事例】で、Cが、BのAに対する動産甲の売却について善意無過失であると、Cに即時取得が成立する可能性があります。

第178条【動産に関する物権の譲渡の対抗要件】
 動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。        

👉ここがポイント!「引渡し」の意義
本条の「引渡し」
には、現実の引渡し(182条1項)だけでなく、簡易の引渡し(182条2項)、占有改定(183条)、指図による占有移転(184条)も含まれる。

2.即時取得と占有改定

 即時取得とは、動産を占有している者を真実の権利者だと信じて、その者と取引をした場合に、占有者が無権利者であったとしても、その取引をした者を保護するため、その者は権利を取得することができるとする制度のことです。例えば、次のような事例です。

【事例】Aが、Bの所有する動産甲を無権利のCから買い受け、現実の引渡しを受けた場合において、Cが無権利者であることについて、Aが善意無過失であるときは、動産甲を即時取得する。

 即時取得の制度は、動産取引の安全を図るため、物を占有しているというように、権利があるかのような外形を有している者に真実権利があると信じた者を保護するという「公信の原則」を採用したものです。

即時取得が成立する要件は次のとおりです。
⑴ 動産であること
⑵ 有効な取引によって占有を承継すること
⑶ 無権利者からの取得であること
⑷ 平穏・公然・善意・無過失に占有を取得したこと
⑸ 占有を取得すること

 要件の⑸に「占有を取得すること」とありますが、占有改定によって占有を取得した場合には、即時取得は認められないとするのが判例です(最判昭32.12.27)。占有改定は従来の占有事実の状態に何ら変更を与えるものではないので、このような場合にまで即時取得を認め、真実の権利者の権利を剥奪することは、かえって取引の安全を害することになるからです。

第192条【即時取得】
 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

👉ここがポイント!「占有を始めた」の意義
① 占有には、占有者が現実に物を取得する現実の引渡し(182条1項)、簡易の引渡し(182条2項)、指図による占有移転(184条)が含まれる(最判昭57.9.7)。
② 占有改定(183条)によって占有を取得した場合、即時取得は認められない(最判昭32.12.27)。

3.動産上の先取特権と占有改定

 動産上の先取特権は、債務者がその動産を第三取得者(所有権の譲受人)に引渡した後は、その動産について先取特権の効力は及ばなくなります(民333条)。そして、この「引渡し」には占有改定も含まれます(大判大6.7.26)。先取特権は動産の占有を要しないため、第三者にとっては当該動産に先取特権がついているかどうか不明であり、動産取引の安全のために設けられた規定です。

第333条【先取特権と第三取得者】
 先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。

👉ここがポイント!「引き渡した」の意義
本条の「引渡し」には、占有改定を含む(大判大6.7.26)。

4.質権設定と占有改定

 質権は、被担保債権の存在を前提として、当事者による質権設定の合意と、目的物の引渡しによって成立します(民344条)。物の引渡しによって成立する契約であるので、質権設定契約は「要物契約」です。質権成立の要件としての引渡しには、占有改定は含まれません(東京高判昭35.7.27)。したがって、質権設定の合意をしても占有改定による引渡しでは質権は成立しません。占有改定では質権設定者のもとに現実の占有が残り、質権の留置的効力が損なわれてしまうからです。

第344条【質権の設定】
 質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。       
       

👉ここがポイント!「引き渡す」の意義
① 本条の「引渡し」には、現実の引渡しのほか、簡易の引渡し(182条2項)や、指図による占有移転(184条)も含まれる(大判昭9.6.2)。
② 占有改定(民183条)は、本条の「引渡し」には含まれない(東京高判昭35.7.27)。

5.書面によらない贈与と占有改定

 贈与は不要式の契約であるため、本来であれば、契約を書面化する必要はありません。しかし、口頭のみによる贈与は、明確な意思がなく行われることもあり、また真に法律的効力を認めるべきであったかを証明するのが困難な場合があります。そこで、贈与の意思が書面化されていないものについては、これを解除できるものとされました(民550条本文)。
 しかし、書面によらない贈与でも、履行の終わった部分については解除することができません(民550条ただし書)。民法550条ただし書の履行とは、贈与者の贈与の意思が明確にあらわれればよく、①動産については「引渡し」があれば足り、②不動産の場合には「引渡し」又は「登記」があればよいとされています(大判昭2.12.17、最判昭40.3.26)。そして、この「引渡し」には、占有改定による引渡しも含まれます(最判昭54.9.27)。

第550条【書面によらない贈与の解除】
 書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。

👉ここがポイント!「履行の終わった部分」の意義
書面によらない贈与であっても、履行の完了した部分については解除できない(民550条ただし書)。贈与の意思が外形的に明白な行為がなされれば、履行の完了とされる。
(1) 動産の贈与の場合
当該動産の引渡しがあれば、履行の完了とされる。引渡しは、占有改定でもよい。
(2) 不動産の贈与の場合
当該不動産の引渡し又は所有権移転登記のいずれかがなされれば、履行の完了とされる(大判昭2.12.17、最判昭40.3.26)。引渡しは、占有改定でもよい。

今回は以上となります。

確認テスト

今回の学習事項をまとめて復習することができる一問一答形式確認テストを作成しました。
どなたでも何回でも解答することができますので、日々の学習にぜひお役立てください!

↓確認テストはこちらから↓

【確認テスト】記憶の補助線 ―第1回 占有改定―
Paletteでの配信記事「記憶の補助線『占有改定』」で取り上げた内容を確認するためのテストです。 ・1問5点の30点満点です。 ・おひとりあたりの解答回数に制限はありません。どなたでも何回でも解答することができます。


記憶の補助線で司法書士試験対策! で取り上げてもらいたい補助線(題材)があれば、お答えください。科目は問いません。↓

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