50歳の司法書士試験合格者の実務スタート ~研修と初めての実務の思い出~

司法書士コラム

こんにちは、講師・司法書士・行政書士米谷です。
11月5日に令和6年度司法書士試験の最終合格発表がありました。

司法書士試験に合格し、まさにこれから司法書士登録をして業務を始めようとされている方、そして、もう1年間受験勉強を頑張って、来年または近い将来司法書士になる、と決意を固められている方もいらっしゃると思います。

私は令和元年のちょうど50歳のときに司法書士試験に合格し、すぐに25年くらい勤めていた会社を辞めて、「司法書士として食べていくのだ」との決意を持って、各研修に取り組み、司法書士事務所を開業しました。

今回は、補助者の経験もなく(もちろん司法書士業務の実際を見たこともなく)、司法書士試験を合格した者が、司法書士としての実務を始めるまでの経験談をしたいと思います。

新人研修は仲間づくり

司法書士試験合格者には、合格後すぐに、中央新人研修、ブロック新人研修、各司法書士会による新人研修の案内がきて、連続してそれに参加していくことになります。

中央新人研修は各自がネットで講義を視聴するEラーニングでしたが、ブロック新人研修や各司法書士会による新人研修では、それぞれ近隣都道府県や各都道府県の「同期」合格者の方々と初めて顔を合わせて、同じ研修に取り組みます。そして研修後の飲み会も盛んに開催されます。

「同期」合格者の方々とは、もちろん、年齢・性別、現在の職業、経歴等は様々ですが、「長く(人それぞれです)苦しくてつらかった司法書士試験を、同じときに、やっとの思いで、クリアした」という1点の共通点で、大変仲良くなることができます。本当に「同期」というものはいいものだと(私は学生時代や就職時からずいぶん経っているので久しぶりに)実感しました。

最初の研修ということもあり、研修内容の詳細はあまり覚えていませんが、飲み会が楽しかったことはしっかり覚えています。
大変良い機会になりますので、積極的に参加されることをお勧めします。

私の同期合格者は千葉県で25名くらいでしたが、今でも定期的に集まり(飲み会ですが)、業務で分からないことを聞いたりアドバイスしあったりすることができる、仕事をする上での「宝」のような存在です。

配属研修の思い出

私のように、司法書士の仕事の実際を見たこともなく、勤務してまずは見習い修行をする気もなく、すぐに開業したいと考えている司法書士試験合格者には、配属研修という制度があります。

1か月~3か月くらいの期間(各司法書士会の規定による)、無償で(指導する司法書士事務所には司法書士会から報酬が出ます)、同業者に仕事のやり方を体験指導して頂けるなんて、「いたれりつくせり」という感じで、本当に司法書士の世界は同業者に温かい、と実感します。

たしかに、司法書士同士で「仕事を奪い合うライバルとなる」場面は非常に少なく、お互いそれぞれの持ち場所や業務内容によって、それぞれのお客様がいて、それぞれを助け合う、という感覚です。この点だけは、司法書士試験が厳しい試験となっていて、合格者の数が限られていることをありがたく感じられます。本当にこの点だけですが。

この配属研修では、実務につながる貴重な経験をさせて頂きました。開業後の実務につながる主なものを挙げます。

不動産取引の決済業務

決済の現場に同席します新人研修でも司法書士、買主、売主等の立場を順に演じ合う、ロールプレイ研修があります。それだけ今も昔も司法書士の中心業務の1つといえるからだと思います)。

そして、決済後事務所に戻り、売主の名変、売主の抵当権抹消、買主への所有権移転、買主の取得した不動産への抵当権設定、の連件の登記申請を、オンライン申請の最後の送信ボタンを押す直前まで、体験します。

銀行との打ち合わせなど事前の準備が何より大事であることなどを学びましたが、開業後これを一人でやるのは、責任が大きくておそろしいことだな、と感じたのを覚えています。

相続登記

被相続人の出生~死亡までの戸籍謄本収集と相続関係説明図作成を体験しました。職務上請求書を使用して、各市役所に戸籍謄本を請求していきます。
戸籍謄本の記載内容を読み取るための手引書を数冊購入しましたが、今でも明治~昭和初期の戸籍謄本を読み取るのはなかなか大変です。

受験生時代は、記述式試験についても「登記原因証明情報」とだけ書いて済むことが多いですが、実務では、登記原因証明情報を正確に準備、作成することこそが重要で時間を要するものなのだな、と思いました。

その他

主要な登記業務においては、上記の2つの登記を体験させて頂くことが中心でしたが、それに付随する手続きの経験も貴重でした。

1)不動産や法人の登記情報を、登記情報検索サービスから取得する
2)登記簿謄本を法務局から取得する
3)オンライン申請ソフトを使って、登記申請をする
4)法務局とのレターパックを利用した郵送でのやりとり
5)法務局に出頭し、登記識別情報や登記完了証を受領する
6)公証役場の利用

50年の人生経験においても、公証役場はおろか法務局にも行ったことがなかったので、配属研修でこれらを経験できたことで、開業するためのベースができたように思います。
配属研修をさせて頂いた司法書士事務所の先生方やメンバーの方々には大変感謝しています。

いざ開業、実務スタート

相続登記

事務所を開業したその日に、近所のお客様が「相続登記をしてほしい」と訪ねてこられました。
「司法書士になるとこんなに簡単に仕事がくるのか」と思ってしまいましたが、もちろんそんなことはなく、飛び込みで来て下さるお客様はほとんどいないので、今でも、例えばチラシの配布、無料相談会の開催などの、集客は頑張らないといけません。

配属研修で学んだとおり、戸籍謄本を集めて、遺産分割協議書等に署名、押印を頂いて、どきどきしながら、登記申請をしました。
なぜかオンライン申請をするのが怖くて書面申請をしました。それ以降は全てオンライン申請をしているので、最初で最後の書面申請になるかもしれません。
登記が完了し、またしてもどきどきしながら、法務局に行って、登記識別情報などを受領してきました。

ご依頼を受けてから1か月弱かかりましたが、私が最初にした司法書士業務(業務事件簿1番の事件)として強く印象に残っています。

決済立会

司法書士が複数在籍する決済事務所でないかぎり、決済の依頼が頻繁にくるわけではないですが、他の登記事件で知り合いになったお客様から、個人取引等の決済のご依頼を頂くことがあります。
私も縁あって、ときどきご依頼を頂くのですが、最初の決済は、やはりものすごく緊張したのを覚えています。

しかも最初から、売主の名変→売主の抵当権抹消→所有権移転→買主の抵当権設定4件連件申請です。
名変の登記原因証明情報(住民票の写し)の入手、抹消金融機関との打ち合わせ、設定金融機関との打ち合わせなど事前の準備は前日までにしっかり済ませて、登記申請書(オンライン)も完成手前まで打ち込んでおいて、決済当日に臨みました。

決済当日は、午後1時に決済を開始し、本人確認(実際は事前打ち合わせで済んでいて当日は儀式のようなものですが)と書類の最終確認をして、設定金融機関に融資の実行を促し資金の動き(融資金の入金、売買代金の移動、抹消金融機関への弁済)を確認して、決済終了として解散します。午後2時くらいです。
ここから抹消金融機関に走ります。このときは千葉県内から東京都区内への移動になりました。一人事務所はこの対応が結構大変です。
無事に抵当権抹消登記のための書類(抹消金融機関の委任状、解除証書、登記識別情報など)を受け取り、事務所に戻った時には午後4時になっていました。

決済の登記は、決済当日に申請する必要があります。締め切りの午後5時までに登記申請の送信ボタンを押して受理してもらわなければなりません。
オンライン申請書に、登記原因証明情報をPDFにして添付し、入手した登記識別情報を打ち込み、何度も何度も誤字やインプット等の忘れがないかを確認して、送信ボタンを押し、受理されたときには、午後5時近くになっていました。そして、添付書面はすぐに登記所に持参提出するか、赤レターパック(速達書留)で郵送します。
このあたりはまさしく「半ライン」ですね。

それからも、決済業務の経験を重ねることができていますが、今でも登記業務の中では最も緊張して気をつかう業務の1つです。

商業登記

私は司法書士になって初めて個人事業主になり、確定申告や各種納税手続きを自分でやるようになりましたが、世の中には、個人事業主から、自分で会社を設立して法人として事業をする方もたくさんいらっしゃいます。
個人で司法書士をしている私たちの商業登記のお客様となるのは、このような社長さんの方々です。

商業登記についても、最初に本店移転登記のご依頼を頂いたときは、やはり緊張してしまって、管轄外の移転なのに登録免許税を3万円と案内するミスなどをしましたが(あとで訂正してちゃんと6万円を頂きました)、それこそ、ご依頼を受けてから、法務省のホームページ、商業登記ハンドブック、受験用テキストなどをしっかり確認すれば、ほとんどのことに対応可能です。

その後、目的変更、有限会社の変更登記、増資(募集株式の発行)、解散と清算結了、合同会社から株式会社への組織変更、吸収合併、合同会社の設立、株式会社の設立など様々なご依頼を頂きましたが、ときどき法務局から補正指示の電話はかかってくるものの(本当にドキッとします)、何とか登記を完了させることができています。

どのような商業登記においても、ご依頼者(大株主であり、代表取締役である場合が多い)のお話と希望(自分の会社をどうされたいか)をよく聞いて、会社法等の知識から適切なアドバイスをして、適切な登記をするための書類を作成し、適切な登記申請をする、という仕事の進め方が本当に大事である、と日々実感しています。

最後に

司法書士試験合格者には、すでに、実際の登記業務をするためのベースはできています。

不動産登記の名変、所有権移転(相続、売買)、担保権抹消登記等においても、商業登記の各登記においても、すでにその骨格となる部分については持っていて、それらを自ら実際の案件で経験していくことで、どんどん本当の身がついていくような感覚があります。
一方で、実際の案件で使わない知識についてはすぐに忘れていきますが。

だからまだやったことがない登記について、お客様から問い合わせなどがあった場合は、もともとやりたくないと考えている仕事でなければ、
「実際にやるのは初めてですが、しっかり調べてやってみます。やらせてください。」正直に伝えて、やってみることを第一方針としています。

誰でも、初めてやる業務というものはあるはずですし、失敗した(できなかった)としても、その結論を出すのが速やかで、きちんと理由を説明すれば、ご依頼者に責められることはほとんどありません。
まがりになりにも登記ができて、ご依頼者の役に立つことができれば、その分野での自信もでき、どんどん自分のできる分野も広がっていきます。

今回は、主に登記業務のことについて書きましたが、不動産登記法、会社法・商業登記法の他にも、民法、民事訴訟法、民事執行法、民事保全法、供託法、司法書士法なども、合格するレベルになれば、すぐに司法書士業務に直結し、そのベース、骨格となるものばかりです。

その分、必要な労力は大きなものですが、勉強する価値の大きいものですので、頑張ってほしいと思います。

~関連記事はこちら~

~米谷先生のブログのご紹介~
配属研修に感謝(2021年11月24日)
即独の良いところ、つらいところ(2021年11月20日)
 是非こちらのブログもご覧ください!

執筆:米谷純講師(司法書士・行政書士

1969年新潟生まれ。父の転勤のため全国を転々とする。1994年大阪大学大学院基礎工学研究科修了。環境装置メーカーにてエンジニア、その後は営業として26年間勤務していたが、組織マネージメントがいやになり、一人で直接的に顧客と関わる仕事がしたい、という一念で、2019年に司法書士試験合格。2021年に司法書士・行政書士事務所を開業。
よねや司法書士事務所・行政書士事務所のHPはこちら

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