「無理をして会社勤め」はもう終わり?~大転職時代が到来するかもしれない法律改正~

講師の注目ニュース

監修:神野 沙樹 講師(社会保険労務士講座)

ニースル社労士事務所/株式会社Niesul(ニースル)代表。
社会保険労務士として会社の組織活性に携わる傍ら、年間50回を超える講師業をこなす。一方的に押し付ける講義ではなく、双方向のやり取りの中で気付きを生む研修・セミナーに定評がある。著書に『「社会人になるのが怖い」と思ったら読む 会社の超基本』(飛鳥新社)。労働基準法をはじめとする労働法の「基本のキ」が分かりやすく伝えられている。

会社を退職し、新しい職場を見つける…人生一度はご経験があるのではないでしょうか。
ひと昔前は、長く勤めることが良きこと、終身雇用が当たり前の時代でしたが、いまや退職や転職に対する意識がずいぶん変わったように感じます。

実は、さらにそれら転・退職を促す契機になる可能性のある法律改正が2025年4月に行われます
今回は、離職率に関するニュースから、法律改正からみる働き方の変化について見ていきましょう。

21年新卒の離職率34.9%、16年ぶり高さ 転職増加が影響
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【10月25日 日本経済新聞より】
厚生労働省は25日、2021年に大学を卒業して就職した人のうち、3年以内に仕事を辞めた人の割合が前の年から2.6ポイント高い34.9%だったと発表した。05年卒以来、16年ぶりの高水準だった。(以下省略)
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https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA251UX0V21C24A0000000/

報道された内容によると、ポイントは次の4点です。

・調査は2021年3〜6月に学校を卒業して雇用保険に新規加入した人のうち、2024年3月末までに離職した割合を調べたもの。
・離職率が高かった理由について、厚生労働省担当者は「コロナ禍による行動制限で2020年は転職の求人数が少なく、2021年から反動で求人が増えたことが響いたのではないか」とみている。
・離職率が高かったのは「宿泊業・飲食サービス業」で56.6%(+5.2ポイント)や「生活関連サービス業・娯楽業」の53.7%(+5.7ポイント)。

買い手市場と売り手市場

転・退職の状況を見る際に、よく使われる「買い手市場」「売り手市場」という言葉があります。
買い手市場とは、企業の求人数より職を探す人の方が多い状態です。買い手(企業)から見た時に選びやすい状況であるということです。

一方、売り手市場とは職を探す人より企業の求人数の方が多く、いわば売り手(応募者)の方が、会社や仕事を「選びやすい状態」を指します。

売り手市場が進む世の中

それでは、2025年1月時点においては、買い手市場・売り手市場どちらでしょうか。
これらを知る指標として「求人倍率」があります。有効求人倍率が1以上であれば売り手市場、1未満であれば買い手市場と言われていますが、最新*の有効求人倍率は1.25倍と、まさに売り手市場であるといえます。

今回取り上げたニュースは、3年以内に仕事を辞めた人の割合が、前の年より高かったということでしたが、売り手市場だからこそ転・退職に踏み切る方も多いのは言うまでもありません。
*記事執筆時点での最新。一般職業紹介状況(2024年11月)より

失業後に給付(基本手当)を受ける場合

会社を退職した後、すぐに転職する方もいれば、しばらく期間が空くこともあります。

転職しない場合は、失業の給付である基本手当を受け取る方が多いわけですが、まず退職後にハローワークに行き、「求職の申込み」をすることになります。求職の申込みとは「私、会社を辞めましたので、仕事を探しています」と登録するわけですね。
その後、7日間の待期期間を経た後、失業状態であることが認められれば基本手当が支給されることになります。

しかし、もし自己都合で退職した場合、7日間の待期期間後、「給付制限期間」が設けられており、さらに2か月過ぎるのを待つか、ハローワークが紹介する職業訓練を受講しないと基本手当を受けることができないため、転職先が決まっていないとなかなか退職に踏み切れない方もいらっしゃいました。

売り手市場を加速させる可能性のある法律改正

2025年4月、雇用保険法が改正されます。
前述した給付制限期間が短縮されることになり、これまで2か月間制限されていた期間が、改正後は1か月**経過すれば受け取れることになります。
さらに、離職後もしくは離職日前1年以内に、自ら「雇用の安定及び就職の促進に資する教育訓練」を受けていれば、1か月すら待つ必要がなく、給付制限期間が「無し」となることとされます。

人によっては、「1か月待てば基本手当がもらえるなら退職しようかな」あるいは、「給付制限期間なく基本手当をもらうために、いまから離職を見据えて教育訓練を受講しておこう」と考える方がいらっしゃるかもしれません。

上記から、今回の法律改正は転・退職を促し、売り手市場を加速させる可能性のある内容であると言えるのです。
**離職日前5年のうち3回以上、失業の給付を受けている場合は、給付制限期間は3か月となります。

会社は魅力ある会社づくりが求められ、求職者は選べる時代に

今回は、新卒の離職率が高くなっているニュースをもとに、転・退職の状況と法律改正について見てきました。変化の流れがはやい今の時代、一社にとどまるメリットも少ないのかもしれません。

しかし、転・退職は非常にエネルギーがいることであり、「良い会社だったら続けたい」という考えが、今なお大半なのではないでしょうか。
そう考えると、売り手市場で求職者が選べる現在においては、会社が魅力ある職場づくりをしていくことが急務なのかもしれません。

さて、みなさんは、いまお勤めの会社を続けますか?

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