「退職します」この言葉を自分の口で言わず、自分“以外”の口から伝えて会社を辞める「退職代行」。みなさんも一度はこの単語を聞かれたことがあるのではないでしょうか。
今回は、退職代行サービス(以下「代行サービス」といいます)に関するニュースから、その効果や是非、退職時に気を付けるポイントについて見ていきましょう。
退職代行サービス、大企業の2割が経験 全体の7割が「賃上げ」で引き留め TSR調べ
【6月25日 産経新聞より】
社員の退職希望を企業側に伝える「退職代行」サービスを巡り、連絡を受けた企業の7割が賃上げなどの対応で社員の引き留めを図ったことが、東京商工リサーチ(TSR)の調査で分かった。調査に答えた企業全体の1割が、退職代行からの要請を受けた経験があり、サービスの利用が広がっている実態も明らかになった。(以下省略)
https://www.sankei.com/article/20240625-FRIJCBHXD5O5TANXMR3LLQ4VUA/
報道された内容によると、ポイントは次の3点です。
- 東京商工リサーチ(TSR)が行ったインターネットアンケートによると、代行サービスを利用した退職は、退職者全体の9.3%を占めた。
- 代行サービスの利用について、資本金1億円以上の大企業では18.4%と、規模が大きくなるほど利用する割合が高く、また業種では接客業が目立った。
- 企業側の退職希望者を引き留める手立てとして、一位は「賃上げ」で73.5%が実施、「休暇日数の増加」「社内レクリエーションの実施」と続く
退職代行サービスとはなに?
代行サービスとは、その名のとおり退職手続きを「働く本人以外の第三者」が代行することです。
退職の意向を会社に伝えるだけでなく、退職書類等の事務手続き代行や、労働条件交渉や未払い残業代の請求を行うこともあります。
ただし、誰でも条件交渉が行えるわけではありません。代行サービスを取り扱うのは、主に弁護士、労働組合、民間企業の3タイプであり、本人に代わって交渉を行うことができるのは、弁護士に限られます。
なお、利用料は運営元によって約2~10万円と幅があるようです。
代行サービスを使った退職、トラブルも
私たちは、働くにあたり「会社(雇用主)」と契約を結びます。退職はその契約を解除することを言い、雇用契約時と同様に、互いに合意すれば自由に行うことができます。ですから、代行サービスを使ったとしても、合意のうえ退職をすることは、法律上特に問題がないといえます。
一方で、トラブルも起こっています。代表例は、違法な条件交渉です。前述のとおり、本人の代理人として退職時の条件等を交渉するのは弁護士の方しかできませんが、民間の業者が代わりに行ってしまい、会社との条件交渉が進まないことがあります。
他には、業務の引継ぎに関するトラブルです。代行サービスを通じて退職の意志を伝えたとしても、「引継ぎすることの責任」を免れるわけではありません。引継ぎするにあたって、結局会社と連絡を取ることになったという事例のほか、適切な引継ぎがなされず会社が「懲戒処分を下す」といったこともあります。
なぜ退職代行が普及するのか
代行サービスは費用が掛かるにも関わらず、なぜ利用が広がっているのでしょうか。
「退職代行実態調査(2023)」(エン・ジャパン株式会社)によると、代行サービスを利用した人のうち、一番多い理由が「退職を言い出しにくかったから」(50%)、続いて「すぐに退職したかったから」(44%)、「人間関係が悪かったから」(32%)と続きます。
また、別の質問では、「上司や人間関係が良ければ、退職代行サービスを利用しなかった」という回答が6割に上っています。
引用:https://corp.en-japan.com/newsrelease/2023/34896.html
働き方の変化と代行サービス
私自身、社会保険労務士として働き方の変遷を見ていますが、テレワークの普及で関係性が希薄になっていること、対面で話すことへの抵抗も生まれているように感じます。さらに、転・退職といった雇用の流動化が進むとともに、就職活動はエントリーボタン一つで応募することができる時代です。
そう考えれば、退職の意志を言い出しづらい職場環境や人間関係などの事情がある場合は、費用を払ってでも代わりに伝えてほしいと考えるのも、自然の流れなのかもしれません。
見方を変えれば、代行サービスを活用した退職があった時、会社として、あるいは一緒に働くメンバーとして「(退職という事象に限らず)意見や相談がしづらい環境ではないか」と振り返る機会を持つことで、よりよい職場環境づくりに活かすことが出来るのではないかと思います。
さて、みなさんは代行サービスを利用した退職を、どう考えますか?