奨学金の返済を肩代わりする企業が増加 ~会社の本音と応募者として気を付けること~

講師が気になるニュース

監修:神野 沙樹 講師(社会保険労務士講座)

ニースル社労士事務所/株式会社Niesul(ニースル)代表。
社会保険労務士として会社の組織活性に携わる傍ら、年間50回を超える講師業をこなす。一方的に押し付ける講義ではなく、双方向のやり取りの中で気付きを生む研修・セミナーに定評がある。著書に『「社会人になるのが怖い」と思ったら読む 会社の超基本』(飛鳥新社)。労働基準法をはじめとする労働法の「基本のキ」が分かりやすく伝えられている。

みなさんは、学生時代に奨学金を借りたご経験はあるでしょうか。
先日、「奨学金の返済を肩代わりする会社が増えている」というニュースがありました。奨学金の返済は長期間かつ多額であるために、返済できないケースが増え、社会的問題にもなっていました。ですから、会社がその返済をしてくれる制度は非常に有難い制度である反面、不当に拘束する手段にもなりかねません。

今回は、奨学金代理返還制度の事例紹介やその目的の考察に加え、応募者として気を付けたいことについて見ていきましょう。

奨学金の返済、会社が肩代わり 企業・社員、双方のメリットは?


【4月21日 ITmedia ビジネスオンラインより】
社員が学生時代に借りた奨学金の返済を、勤務先の企業が福利厚生の一環として、一部または全額を返済する制度の導入が全国の企業に広がっている。(中略)企業の奨学金返還支援(代理返還)制度は従来、各企業が社員の給与などに返済分を上乗せして支援していたが、2021年4月から制度が改正され、企業が奨学金を貸与する日本学生支援機構に直接送金できるようになった。(以下省略)
(参照:https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2304/20/news163.html

制度の詳細はこちら


報道された内容によると、ポイントは次の3点です。

  • 社員の奨学金を企業が返済する企業は2023年4月1日時点で700社を超える。
  • 会社から機構に直接返済することで、社員は所得税が原則かからず、会社は法人税の減税につながる。
  • 会社が希望すれば、機構の公式Webサイトに社名や返還制度内容が掲載されるため、求人の宣伝効果としても期待できる。

奨学金代理返還制度は会社によってさまざま

実際に機構のホームページを見てみると、多くの企業が紹介されています。その制度の一例をご紹介します。

(1)返済する金額
月々返済するケース(例:月2~3万円)、まとめて返済するケース(例:入社から3年目に30万円・5年目に50万円)など

(2)上限額
奨学金額によるケース(例:残金の2分の1)、金額を定めるケース(例:200万円)など

(3)対象者
多くの場合「既卒○年目までの正社員」という条件を設けている。一部、正社員だけでなく契約社員やパートタイマーも対象とする会社も。

(4)会社での働きぶり
「業務内容・成績が優秀」「将来幹部社員となる期待を有する者」といった条件を付ける会社もある。

会社が返還制度を採り入れる狙いは「人材確保」

なぜこのような制度が増えているのでしょう。
機構のホームページに掲載されている各社のメッセージには「経済的不安から解放されて仕事に専念してほしい」といった言葉が綴られています。もちろん、これら社会的意義を果たす目的もあるでしょう。

一方で、本音は「人材確保」にあります。
少子化が進み、人材不足が叫ばれる中で、会社は採用難で苦しんでいます。実際に「マイナビ2023年卒企業新卒内定状況調査」によると、約半数の会社が「前年より厳しかった」と回答しています(※下記URL参考)。

その中で、会社は奨学金代理返還制度という目新しい制度を取り入れることで、学生やその親御さんの目に留まり、応募につながる効果を期待しているというわけです。
仮に、200万円の奨学金を肩代わりしたとしても、人材紹介の手数料や求人広告に掛ける費用と比べれば決して高い金額ではないのです。

応募者はより軸を持った選定を

もし皆さん(もしくはお子さん)が奨学金を返していく場合、奨学金の代理返還は嬉しい制度ではないかと思います。
事実、新制度を導入して、新卒の皆さんに活躍してほしいという会社は、受け入れる体制と意識のある会社さんだと思いますし、大多数は優良企業でしょう。

ただし、気を付けたいのは目先の利益に惑わされないこと。たとえ制度に魅力を感じて入社しても、すぐに辞めてしまったのでは元も子もありません。
また、労働基準法には「強制労働の禁止」「前借金相殺の禁止」という規定があります。
奨学金の代理返還は会社に対する借金ではありませんが、心理的に「奨学金を返してもらったから不当な要求(仕事)を飲まなければならない」と感じることもあるかもしれません。しかし、決してそのようなことはありません。

応募する前の企業選定、そして働いてからもご自身の「軸」を大切に、道を選んでいきたいものですね。

参考記事:多くの企業が採用難! 24年卒はさらに「人材獲得競争が激しくなる」と予測(マイナビニュース)

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