2023年4月から電子マネーで給与の受け取りが可能に!?

講師が気になるニュース

監修:神野 沙樹 講師(社会保険労務士講座)

ニースル社労士事務所/株式会社Niesul(ニースル)代表。
社会保険労務士として会社の組織活性に携わる傍ら、年間50回を超える講師業をこなす。一方的に押し付ける講義ではなく、双方向のやり取りの中で気付きを生む研修・セミナーに定評がある。著書に『「社会人になるのが怖い」と思ったら読む 会社の超基本』(飛鳥新社)。労働基準法をはじめとする労働法の「基本のキ」が分かりやすく伝えられている。

最近話題になった出来事やニュースについて、社会保険労務士 神野沙樹 講師が解説!会社の組織活性に携わり第一線で活躍している社労士ならではの目線で、易しく読み解いていきます。【隔月連載】


いま、コンビニやスーパーをはじめとする様々な店舗で「○○Pay」や「○払い」といった電子マネーを使うことができます。その電子マネーについて、先日「デジタル給与、来年4月解禁へ」というニュースが出ました。デジタル給与、つまり、電子マネーで給与を受け取れるようになるというのです。今回は、このニュースの概要とデジタル給与導入に向けたポイントについて見てみましょう。

デジタル給与、来年4月解禁へ 厚労省がパブコメ開始
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【9月22日 日本経済新聞より】
厚生労働省は9月22日、給与をデジタルマネーで受け取れる制度を2023年4月に解禁する日程案を公表した。賃金の支払い方法を定めた労働基準法の施行規則(省令)を11月に公布する。制度開始に向けて意見募集(パブリックコメント)を同日、始めた。(以下省略)
参考:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA226CA0S2A920C2000000/
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パブリックコメントとは、法律を公布する前に、国民から広く意見や情報を募集する制度で、意見公募手続きともいいます。寄せられた意見をもとに法律内容を変更することもあれば、意見が反映されないこともありますが、この手続きを踏むことで、国や行政が一方的な制度を作ることなく、公正な運営・透明性の向上を図っていく趣旨で取り入れられています。

給料支払い5原則

そもそも、給料の支払いに関してはどのような法律(ルール)が決められているのでしょうか。労働基準法において定められている「給与支払い5原則」は次のとおりです。
(1)通貨で支払う
(2)直接(本人に)支払う
(3)全額を支払う
(4)月1回以上支払う
(5)一定期日に支払う
このなかで注目したいのは「①通貨で支払う」ルールです。通貨払いには主に2つの意味が込められています。1つ目は「日本円で支払う」という意味、2つ目は「現金で支払う」という意味です。実は、労働基準法上で給料は「現金手渡し」が原則とされています(「いつの時代だ!」と思いますよね…)。しかし、多くの場合、銀行振込で受け取っています。これは法律の例外として「働いている本人が“同意”したら銀行振込でよい」と決められており、入社した時に銀行口座を届ける際に同意をしているという建付けです。
今回取り上げたデジタル給与についても同じ考え方で「本人が同意した場合は電子マネーで支払うことができる」と法律が改正される予定です。ですから、みなさんの会社が仮にデジタル給与払いを導入したとしても、電子マネーでの受け取りが強制されないことはもちろんのこと、「銀行振込かデジタル払いか」を選択できるようにしなければなりません。

電子マネーで確実に給与を受け取るための法整備

デジタル給与の導入にあたって懸念されていることは、「電子マネーを扱う業者の信頼性」です。例えば、技術的に1円単位では引き下ろせませんといったことや、業者が倒産をしたので給与を受け取れませんということになれば困ります。ですから、パブリックコメントで出された法律案の内容を見ると、「指定資金移動業者」として国が定めた厳しい基準をクリアし、厚生労働大臣に認めた業者しか取り扱えないこととされています。その他、より利便性を図るために、少なくとも月に1回は手数料無料で引き出し可能とすることとされています。

デジタル給与スタートに向けた今後の流れ

冒頭のニュースにあるように、現時点において、デジタル給与は2023年4月からスタートすると予定されています。それまでに法律内容が決定され、公表されます。その後、各社においてデジタル給与を取り入れるかの方針を固め、実施するのであれば就業規則等の変更をしたうえで、社員の方に説明をすることになります。実施されれば、ますます利便性が高まる給与支払い。今後の動向に注目です。

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