SOGI(ソジ)ハラで労災認定~変化する世の中で増え続けるハラスメント問題の対策とは

講師が気になるニュース

監修:神野 沙樹 講師(社会保険労務士講座)

ニースル社労士事務所/株式会社Niesul(ニースル)代表。
社会保険労務士として会社の組織活性に携わる傍ら、年間50回を超える講師業をこなす。一方的に押し付ける講義ではなく、双方向のやり取りの中で気付きを生む研修・セミナーに定評がある。著書に『「社会人になるのが怖い」と思ったら読む 会社の超基本』(飛鳥新社)。労働基準法をはじめとする労働法の「基本のキ」が分かりやすく伝えられている。

最近話題になった出来事やニュースについて、社会保険労務士 神野沙樹 講師が解説!会社の組織活性に携わり第一線で活躍している社労士ならではの目線で、易しく読み解いていきます。【隔月連載】

みなさんは「●●ハラ」と聞くと、どのようなハラスメントが思いつくでしょうか。セクハラやパワハラ、マタハラなど、以前から聞かれる言葉に加え、カスハラ、スメハラ、リモハラなど、いまや数えきれないほどのハラスメントがあります。先日、「SOGIハラで労災認定」というニュースがありました。
今回は、そもそもSOGIハラとは何かという解説に加え、ハラスメントに関連するルールや実際の対応方法について、見ていきましょう。

トランスジェンダーの社員に上司が「SOGIハラ」で労災認定

――――――

【11月10日 NHK NEWS WEBより】

男性として生まれ、今は女性として社会生活を送っているトランスジェンダーの会社員が、職場の上司から性別に関する発言を繰り返されて休職に追い込まれたとして、労災と認定されたことが分かりました。(以下省略)

(参照:https://www3.nhk.or.jp/shutoken-news/20221110/1000086645.html

――――――


報道された内容によると、ポイントは次の3点です。
・労災の請求をしていたのは、戸籍上は男性、性自認は女性の方で、社内でも公表されていた。
・上司から「君付け」や「彼」と呼ぶ、「不満は戸籍上の性別を変えてから言いなさい」などの発言を受け、精神障害を発症して休職(一時仕事を休むこと)に。
・労働基準監督署は、病気を発症したのは上司の嫌がらせが原因だとして労災を認めた。

SOGIハラスメントとは?ハラスメントに関するルール

SOGIとは、性的指向「Sexual Orientation(セクシュアル・オリエンテーション)」と、性自認「Gender Identity(ジェンダー・アイデンティティー)」の頭文字を取ったもので、SOGIハラスメントとは、「性に関するいじめ・嫌がらせ」を指します。
それでは、ハラスメントに関してはどのような法律(ルール)が決められているのでしょうか。まず大前提として、労働契約法5条には「会社は、働く人たちが安全・健康に働ける環境づくりを行わなければならない」という「安全配慮義務」が定められています。
そのうえで、ハラスメントの内容ごとに定める法律が存在します。例えば、セクシュアルハラスメント(セクハラ)は男女雇用機会均等法に、パワーハラスメント(パワハラ)は労働施策総合推進法に規定されているという建付けです。

労災かどうかを判定する時の認定基準

さらに、労災かどうかを判断するにあたって指針となる「認定基準」もあります。今回のSOGIハラに関連する項目でいえば「性的指向・性自認に関する侮辱的な言動は“精神的な攻撃”にあたる」と決められています。
労災認定にあたっては、個別具体的に事実確認や状況把握されるわけですが、ご紹介した法律や基準をベースとして、今回の上司の発言などが原因で精神障害が発症したと判断されたと言えるでしょう。

変化がはげしい世の中でのハラスメント対策

ハラスメント対策が難しいと考えられる理由は「自分との価値観との違い」から起こるトラブルであり、絶対的な正解がないという点です。特に今回のSOGIハラなどは、「頭では(なんとなく)理解できても、心で理解できない」という状態ではないでしょうか。
では、何も対策できないかというとそうではありません。実は簡単にできるコトがあります。それは「相手に関心を持つ」ということ。つい私たちは「自分の価値観が普通だ」と考えてしまいますが、「普通」という基準はありません。ですから、自分と違う価値観に出くわしたとき、「自分と違うから、あの人は間違っている」ではなく「自分と違う人がいた」と認識するとともに、可能であれば少しだけ相手に関心を持つ「心のゆとり」があれば、ハラスメント問題は起こらないと感じています。
変化が激しい今の世の中で、すべてを理解し、共感することは難しいでしょう。だからこそ、「理解しよう」ではなく「認識しよう」とすることから始めてみてはどうでしょうか。

タイトルとURLをコピーしました