「えっ!?あの企業まで?」相次ぐ雇用調整助成金の不正受給~助成金制度の光と闇とは~

講師が気になるニュース

監修:神野 沙樹 講師(社会保険労務士講座)

ニースル社労士事務所/株式会社Niesul(ニースル)代表。
社会保険労務士として会社の組織活性に携わる傍ら、年間50回を超える講師業をこなす。一方的に押し付ける講義ではなく、双方向のやり取りの中で気付きを生む研修・セミナーに定評がある。著書に『「社会人になるのが怖い」と思ったら読む 会社の超基本』(飛鳥新社)。労働基準法をはじめとする労働法の「基本のキ」が分かりやすく伝えられている。

 雇用調整助成金とは、会社が従業員に対して休業を命じたときに支払う休業手当の一部を補てんする国の助成金で、省略して「雇調金(こちょうきん)」と呼ばれます。
この助成金に対して、全国各地、数多くの企業が不正受給したというニュースが流れており、中には倒産につながるケースも出てきました。

今回は、雇用調整助成金の不正受給の報道から紐解く、助成金制度の光と闇について見ていきましょう。

TDR提携ホテルに7億円返還命令 コロナ雇調金不正受給で労働局
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【12月20日 Yahoo!ニュースより】
千葉労働局は19日までに、東京ディズニーリゾート(TDR)と提携しているホテルを運営する「ファーストリゾート」(東京都渋谷区)が、新型コロナウイルス対策の雇用調整助成金を不正受給していたとして、同社に2020年7月~22年8月に支払われた約7億3798万円の返還を命じたと発表した。(以下省略)
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(参照:https://news.yahoo.co.jp/articles/772fe44d48b13a0c73c9fe8ca3bc23ed1c6cf4dc)


報道された内容によると、ポイントは次の2点です。

  1. 労働局の見解では、休業したとの虚偽の申請書類を会社が作成し、助成金を不正に受給した。
  2. 会社は、休業としていた期間に一部社員が出社をしていたものの、社員の個人的理由と判断に基づく出社であり、上長から指示があったわけではないと主張。

雇用調整助成金の驚くべき不正受給の件数と金額

 “夢の国”とよばれるディズニーランドのオフィシャルホテルでおこった多額の助成金の不正受給疑惑は世の中に波紋を呼びましたが、ほかにも有名企業の不正受給がニュースとなりました。

一例を挙げると「名代富士そば」「みやびの宿 加賀百万石」といった一度は聞いたことがある店舗(施設)のそれぞれの運営会社。さらに、1900年創業の老舗総合衣料卸売業者「プロルート丸光」では助成金の不正受給が発覚後、粉飾決算も明るみに出たことで、最終的には会社更生法の適用を申請するに至りました。

雇用調整助成金の不正受給に関して、支給決定取消件数は2,263件、支給決定取消金額はなんと約427億2千万円にのぼると発表されています(2023(令和5)年9月末時点。厚生労働省発表)。

雇用に関する助成金は、雇用保険二事業として行われているもので、今回取り上げた雇用調整助成金以外にも多数あります。
しかし、私は10年以上社会保険労務士業を行っていますが、今回ほど不正件数・金額ともに大きい助成金は聞いたことがありません。なぜこれほどまでに多くの件数・金額もの不正が行われていたのでしょうか。

不正受給が増えた原因はなにか

 雇用調整助成金は以前から存在した助成金でしたが、新型コロナウイルス流行に伴い、休業を余儀なくされる企業が増え、助成金の申請件数も激増しました。また、急速な感染拡大を受けて、申請書類や条件が緩和されたのです。

例えば、以前は休業前に計画届において「いつを休むか」を申請する必要がありました。
休業日を変更するには、こちらも「事前に」変更届を出す必要があり、時に労働局の職員の立ち入り監査があったほどです。
しかし、コロナウイルスの特例(以下「コロナ特例」といいます)により、計画届を出す必要がなくなりました。

また、助成金額も引上げられました。
それまではどれだけ高い給料を支払う企業でも「休業一日あたり、ひとり約8,000円」の助成金額でしたが、コロナ特例により15,000円まで引きあげられたため、虚偽申請した場合の不正受給額が膨れ上がった一因と考えられています。

助成金制度の光と闇

 助成金は、職場環境や労働条件を改善して経費が増えたとき、業績が悪化したときの補填として、とてもありがたい制度です。しかしその一面で、「目先のお金」に目がくらみ、今回のように不正受給をしてしまう怖さもあります。

不正受給した場合は、その期間に正当に受け取った分も含め、全額返還を求められるほか、2割相当の違約金を支払うことになります。また、企業公表されてしまえばその影響は計り知れません。

助成金は、「お金をもらうために人事施策を行う」のではなく、「人事施策のその先にある助成金」であることを意識しておくとともに、少しでも疑念があるときには、火種が小さいうちに声を上げる勇気を併せ持っておくことが必要です。

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