みなさん、こんにちは。
先日、日本組織内司法書士協会の副会長を務められている平塚睦美先生に、クレアール卒業生の座談会を開催頂き、現在企業に勤められている方々から、受験生時代の話や就職・転職の話、そして司法書士資格や受験知識が実務でどのように活きてくるか等、貴重なお話を頂きました。
将来企業での就職も視野に入れている方、企業法務や内部監査の仕事に興味がある方、司法書士合格後の進路の選択肢が気になる方、身近に司法書士の合格者がいなくて先輩の話を聞いてみたい方は、是非ご覧ください!
参加者のプロフィール
★K.Tさん(以下「K」):2005年(平成17年)合格
・現在の勤務先・所属:サービス業(コンサルティング関連)/東証上場(PRM)/従業員数1,000名以上/所属部署:経営企画部
・主な業務:IRとの連携(決算説明会の質疑対応、統合報告書)、株主総会対応、重要会議体の事務局、業界の自主規制対応(契約書ひな形の改定、マニュアル作成等)
★A.Tさん(以下「A」):2006年(平成18年)合格
・現在の勤務先・所属:保険業/非上場/従業員数約80名/所属部署:監査室(課長)
・主な業務:内部監査、委託先の監査
★インタビュアー・執筆 平塚睦美先生:2006年(平成18年)合格
・合格後は、証券会社等の法務・経営企画部門にて15年勤務。
・現在の勤務先:株式会社Macbee Planet/東証PRM/従業員数約150名/取締役(常勤監査等委員)、司法書士あおば法務事務所 代表(2022年司法書士登録)、日本組織内司法書士協会 副会長
※平成17,8年当時、クレアール各校舎にて「合格ゼミ」の実施及び自習室の解放がなされていました。
座談会 本編
―本日は、日本組織内司法書士協会に所属する「クレアール出身者」の生の声をお届けする、というコンセプトで座談会を企画させていただきました。お忙しいところ、ご参加くださり、ありがとうございます。
私は、受験当時、お二人には「合格ゼミ」などで大変お世話になりました。久しぶりに顔を合わせることができて、本当に嬉しいです!たまたまですが、女性3人となりましたし、気楽に楽しくできればと思います。
司法書士試験合格を目指した理由
―さてさて、つい先日、今年の筆記試験が終わったところですね。受験生のみなさま、本当にお疲れ様でした。一息ついて、今後のことなど考え始める時期でしょうか。
K 受験者数は減っていると聞いていますが?
―足元では若干増加傾向ですが、私たちが合格したころは3万人程度でしたので、当時の半分くらいです。
K 今も合格率は低いのでしょうか?
―当時は3%未満でしたよね。今は4~5%程度と微増しているようですが、それでも合格率はとても低いですよね。
お二人は、このような難しい資格試験をどうして受けようと思ったのですか?
K 私は、いわゆる就職氷河期世代で、非正規雇用から脱却したいと公務員や行政書士資格にチャレンジしていました。ですが、一般教養的な分野が苦手で…。専門分野に特化した資格であれば戦えるのではないかと思い、知り合いに相談したところ、司法書士は平和的な仕事で女性にはぴったりだと勧められ、興味を持ちました。
ただ、最初は、派遣の仕事をしながら隙間時間に勉強する、という程度で、お稽古事の延長くらいのスタンスでした。ですが、クレアールでの自習室や、ゼミの仲間たちなど、周りの受験生が一生懸命頑張っている姿を見たり、話を聞いたりしている中で、本気で受かろうと思い始めました。
そう思い立ってからは、派遣の仕事を辞め、勉強に集中し、2回目の受験で合格できました。
A 私は、大学卒業後に就職した会社を退職し、語学留学をしましたが、帰国後は特許事務所に勤めていました。仕事をしていくうちに、弁理士のように自分も専門分野を持って仕事をしたいと思うようになり、文系の私は弁理士より司法書士の方がいいのではと考え司法書士資格を目指すことにしました。思い切って仕事を辞め、勉強に集中し、2回目の受験で合格しました。
受験生当時、効果的であった勉強法について
―お二人とも受験勉強に集中してから短期で合格されていますが、どのような勉強をされたのでしょうか?今振り返って効果的だったと思う勉強方法等あれば教えてください。
K 答練である程度点数が取れるようになると、さらにハイスコアを求めて細かい論点を抑えようとして逆に過去問から遠ざかってしまった時期がありました。今思えばそれが本当に良くなかった。
合格年の前年はあと1問というところで不合格になり、間違ったところを見直していたら、過去問からの出題(皆が取る問題)を落としていました。それで、初心にかえって過去問を徹底的にやり直しました。
また、クレアールの教えの中で、「絵を描きなさい」というのがあって、例えば役員の任期だとか、不動産の権利移転だとか、面倒くさがらずに絵を描いて解答するクセを付けていました。これは効果的だったと思います。
A 私は、法律の知識があったわけではなかったので、勉強を始めたときは、科目の多さに歯が立たず、全体の底上げをしなくてはと思いました。あまり手を広げずに条文や基本事項を丁寧に読み込み、みんなができる問題は落とさないようにと思って勉強しました。それから、書式も最初は苦手でしたが、これも基礎知識を繰り返し復習しました。
―Aさんは、受験勉強期間が非常に短いですが、どのように基礎知識を身に着けたのですか?
A 過去問の肢をばらして、その肢がテキストに載っているか調べました。もしテキストに記載があれば、テキストの該当箇所に出題年度をメモしていきました。テキストに出題年度が多くメモされている事項は落としてはいけない基本事項なので、そこを繰り返し読んでいきました。
―書式はどうされたのでしょう?
A 合格書式マニュアルを紙に書いたり、声に出して読んだりして、基本事項を覚えました。書式の過去問を見ていると、基本事項の組み合わせになっていることに気が付いたのですが、合格書式マニュアルは、まさしく基本事項に絞って掲載されていたので、私にとっては、その方法が合っていました。
余白も多かったので、間違えた点、注意すべき点を書き込んだりして、試験直前まで読み返していました。ほんとにお世話になった教材です。
―そうですね、合格書式マニュアルは、本当にポイントが絞られていて良かったですね。
実は、私は、今も登記実務で時々使っています(笑)。
苦手な受験生が多い会社法・商業登記法の組織再編分野について
―ところで、クレアールのスタッフのお話によると会社法・商業登記法が苦手な受験生が多い、とのことです。中でも組織再編が難しいという方が多いようですが、そのあたりどのように克服しましたか?
A 会社法・商業登記法が特別に難しいとか苦手と感じたことがなかったので、他の科目同様、先ほど言った通りの勉強をしていました。
K 私の頃は、まだ商法で、条文がカタカナでした。最後の受験の年は、翌年に会社法になることがわかっていたので、絶対に今年合格しなくては!と必死になりました。会社法は商法より説明文のようになって読みにくくなったと思っていましたし、制度も変わりましたので。
―そうでしたか、いや、羨ましいですね。私はまさしく商法から会社法をまたぎましたので、改正前から必死で条文を読み込みました(苦笑)。
たとえば、組織再編は、私も最初は苦手でした。私がやったのは、条文に書かれてある言葉を、解説本を見ずに、絵に描いてみて、自分の理解があっているか、解説本の図と照らし合わせる。何も見なくても「吸収分割」とか「株式移転」とかそういった文字を見ただけで、その図が正しく描けるようになるまで繰り返しました。
そのうち、組織再編として色んな選択肢がある理由(合併・分割・交換(移転)、吸収型・新設型が存在する理由)も理解できてくると、それぞれの手続きの相違点の理解が一気に進みました。
実は、この分野は、弁護士より司法書士の方が詳しいかもしれないです。司法書士試験で非常に細かいことまで勉強しなくてはいけないからだと思います。
例えば、不採算の子会社をどう整理するか、組織再編や事業譲渡、単なる清算など手段は沢山あるわけですが、その中で、今回どれを使うべきか、顧問弁護士と打合せする際、私の方で論点を整理して、見解を求めていた気がします。
実際、企業経営では、M&Aや事業承継など、沢山、組織再編の場面が出てきます。勉強した知識が大いに役立ち、能力が発揮できるチャンスだと思います。受験生の方々には頑張って克服してほしいですね。
なぜ司法書士事務所ではなく、企業で働く道を選んだか
―ところで、お二人は合格された後、どうして司法書士の仕事ではなく、企業で働きたいと思ったのでしょうか?
K 私は、先ほどお伝えしたとおり、もともと司法書士になりたかったというわけではありませんでした。以前、派遣をしていたとき、資格の勉強を活かして契約書のチェック業務を担当させていただき、その時に相談していた法務の方の仕事ぶりがとてもかっこよく、憧れていました。
ですので、合格したら企業法務の道に進みたいと思っていたのです。
―実際に法務の仕事はすぐに見つかりましたか?
K ベンチャー企業の法務担当の仕事がすぐに見つかりました。その会社では初の法務担当ということで、自分で創意工夫しながら自由に仕事ができました。会社登記の添付書面を作成したり、司法書士試験で勉強したことがそのまま役に立ちました。
そのあと、福祉サービスの上場企業に転職し、契約書チェックや新サービスのコンプライアンス対応、登記申請、株主総会・役員会の運営、ストックオプション管理など、法務業務全般について、幅広く経験できました。
少し違う仕事もしてみたいと思い始めたころ、今の会社の募集があり、ホールディングス化のプロジェクトがあって、採用後そのプロジェクトに参加しました。先ほどの話ではないですが、受験勉強で培った会社分割の知識が大いに役に立ちました。
―司法書士資格を持っていたことが就職や配属にも有利に働いたように思えますね。
K 間違いないと思います。司法書士資格があったことで、私のスキルセットについて一々説明するまでもなく、信頼していただけました。
今の仕事でも、資格のことを知っている人が、他の部署の人に「法務のことなら彼女に聞いてみれば」と言ってくれて、登記や謄本の読み方などのことを尋ねてくる人もいます。
―頼られているのですね。Aさんはどうでしょうか?
A 元々それほど独立志向があったわけではなく、企業の法務関係の仕事ができればと思っていました。
ですが、せっかく資格が取れたのだからと、合格後約2年間は司法書士の事務所で不動産登記、商業登記の仕事に従事しました。勉強した知識がダイレクトに使えましたし、例えば、委任状には捨印が必要だとか、依頼を受けた際の仕事の進め方だとか、受験勉強ではわからない実務も知ることができ、法務の経験値としてはとても良かったです。その後、今の会社に就職しました。
―今の会社は、司法書士事務所からの転職なのですね。企業法務経験がないのに、すぐ採用されるなんて、すごいですね。
A やはり司法書士の資格が、有利に働いたと思います。法務担当者がいなかったので、入社後、会社の組織体制が変わり、事業譲渡手続や定款変更等が必要な際は、即戦力としての対応を期待されました。
その後、経営企画部や営業企画部、総務部で、株主総会や役員会の運営、外部の委託契約書の作成、社内規程や業務マニュアルの整備、リスク管理、コンプアライアンスなどを担当し、現在は、監査の業務を行っています。
―なるほど、司法書士がどんな分野が得意なのか、会社側が理解しているのは良いですね。
司法書士資格に対する企業の評価について
―会社におけるプレゼンスの観点から、司法書士の資格保持者として何か感じることはありますか?例えば、処遇だとか、昇進・昇格などで有利に働いていると感じる(感じた)ことはありますか?
A 会社の中で、司法書士資格を持っているのは私だけですが、役職が上がるかどうかは、資格はあまり見られていなくて、仕事ぶりだと思います。資格手当は、合格時の一時的なものはありますが、それだけではなく、毎月支給される資格手当とかあれば良いなとは思います。
K 私は、資格取得のおかげで、非正規雇用を脱却できたと思っています。仕事も、やりたかった法務業務ができましたし、今も色んな重要なプロジェクトに携われています。
また、人事評価においても、プラスに働いていると思います。例えば、前職では資格手当はありませんでしたが、昇給などのペースは速かったように思います。評価会議で「どんな実績を上げたか」を説明してもらうのに、実績の裏付けとして「司法書士」の資格があることで周囲も納得しやすいのだろうと想像していました。今の会社では、士業の方が多く、資格手当をいただいています。
―そうですか、資格がキャリア形成に意味があることがわかりました。
企業で働く上で、司法書士資格取得が役立っていること
―そのほか、企業で仕事をするうえで、資格取得が役に立っているな、と思う場面はありますか?
K 取締役会の議事録の記載事項や株主総会の招集通知の記載事項など、細かい条文まで見てきたおかげで、チェックができます。登記などで外部の司法書士に依頼するときにも、役に立ちます。
それから、受験勉強のおかげで、コツコツ地味な作業もやりきる力がつきました。これは企業で仕事をするうえで、とっても大事です。
A そうですね、例えば新しい法制度ができたり、法改正があったりして、社内の業務フローや規程を見直す際、1つ1つ根拠条文を探したりすることが苦ではないですね。
―それは、確かにそうですね。根拠もなく、インターネットの情報などで適当に対応してしまって、後で会社に大損害が生じる、なんてことになりかねませんが、意外と軽んじられることは多いですね。生産性だとか効率が求められるし、働き方改革で就業時間も短い。コツコツと正確に、しかも素早く、ができる人は本当に希少なんですが。
そういった観点からも、ぜひ司法書士資格者の能力がもっともっと社会に認知されて、活躍の場が広がってほしいと思います。
今後の展望について
―お二人の今後の展望があれば、お聞かせください。
A 私は、異動してまだ1年余りなので、監査業務を勉強中です。公認内部監査人(CIA)の資格をめざすかはまだわかりませんが、この7月に新たなグローバル内部監査基準(日本語版)が公表されたこともあり、少しずつ内部監査についても勉強していければと考えています。
K 私は、今の仕事はやりがいもあるし、色んなプロジェクトが次々にあって、退屈しないので、あまり具体的なものはないのですが…最近は上場準備のサポートを業務委託で受けるといった事業もあるようですので、今までの知識や経験を活かして(司法書士の登録もして)そういった仕事をしてみたいです。また、今は、女性役員のニーズがとても高いので、将来的には、監査役などもやってみたいです。
受験生へのメッセージ
―最後に、今頑張っている受験生のみなさまに、励ましのメッセージをお願いします。
K 司法書士は、ドラマにもほとんどなってないし、一般にはあまりメジャーではないかもしれないけど、会社はその価値を理解してくれていると思います。資格バイアスもあって、プラスアルファで見てもらえる。自分次第で、会社で居場所を自分なりに作ることもできるし、多様な仕事のチャンスがある。女性も活躍の場が広がると思います。
企業の場合は、職域に縛られず、色んな選択肢があると思います。もちろん、今は司法書士事務所も色んな形態があります。受験生時代の自分に「もっと早く受かれ」って言いたいくらい(笑)。
大変だと思いますが、人生が変わりますので、希望を持って頑張ってください。
A 私は通信でしたので、普段は一人で勉強していました。今はないと聞いていますが、当時は合格ゼミというのがあって、その合格ゼミに参加したり、ゼミが終わった後に仲間内で行われていた自主ゼミにも参加させていただきました。他の受験生と交流できたことで、「みんながんばっているなぁ、私もがんばろう!」と思えたし、気分転換にもなりました。合格できたのは、そのおかげだろうと思ってます。
今は受かっていて当時を振り返るから、合格が当たり前かのように錯覚してしまいますが、試験勉強している当時は、「ほんとに受かるのかな…」と不安に思う時もありました。そのような時は、少し気分転換をして、リフレッシュして、「絶対合格するぞ!」と自分の気を引き締めなおしていました。
ですので、受験生の皆様、是非とも「絶対合格するぞ!」という気持ちを強く持って、頑張ってください。皆様のご健闘を心よりお祈り申し上げます。
―本日は、とても貴重な良いお話を沢山いただき、ありがとうございました。
★平塚睦美先生が副会長を務められている「日本組織内司法書士協会」に関する記事はこちら!
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