みなさんこんにちは。令和6年度司法書士試験の受験、お疲れ様でした。
近年は、本試験当日は猛暑か雨降りかで、体調管理や試験当日の準備が大変であったと思います。
暫くはゆっくりお休みください。
本日は、お試し受験された方や、早速勉強を再開されている方に向けて、令和6年度本試験の問題(択一式・午後の部)を題材として、「記述式ハイパートレーニング解説講義」でおなじみの米谷純講師に記事を執筆いただきました。
米谷講師は、現役の司法書士・行政書士としても活躍しておられます。
★これからは、使える受験知識に始まり、講師の独り言、実務ネタに至るまで、Palette「司法書士コラム」内にて、米谷先生に連載いただくことになりましたので、是非ご期待ください!
こんにちは。司法書士・行政書士の米谷と申します。
2年ほど前からクレアールの司法書士試験講座で、一部の講義や答練問題作成などでお手伝いをさせて頂いております。
今年も、7月7日の司法書士試験当日には、解答速報作成のお手伝いをいたしました。
私の長年(?)の司法書士試験受験の経験から、午後の部においては、択一式問題は可能な限りスムーズに、時間と頭の余力を残して基準点+αの得点をして、あとは記述式問題の解答に持てる全ての力を振り絞る、ことが大事であると思っています。
今年から記述式問題の配点が大きくアップされたこともあって、司法書士試験を何度か経験されている方も、そのことを強く実感されているのではないでしょうか?
よって、午後の部の択一式の解答方法の要諦は、次のとおりと思います。
(1)自分が知っている肢と知らない肢を峻別する
(2)可能であれば、自分が知っている肢のみを根拠に解答を導く
(3)自分が知らない肢については、決して考え込まない
上記の観点から、本年度の午後の部の試験問題からピックアップして、「私だったらこのように考えて解答する」という解き方を紹介したいと思います。
民事訴訟法等・供託法
第2問 複雑訴訟形態
複雑訴訟形態に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
ア 一の訴えで一人に対して数個の請求をする場合において、その訴えで主張する利益が各請求について共通であるときは、各請求の価額を合算せずに、訴訟の目的の価額を算定する。
イ 数人に対する一の訴えについては、訴訟の目的である権利又は義務が同種であって事実上及び法律上同種の原因に基づくときは、一の請求について管轄権を有する裁判所にその訴えを提起することができる。
ウ 一の訴えで一人に対して数個の請求がされた場合において、原告の申出があったときは、弁論及び裁判は、分離しないでしなければならない。
エ 相手方が本案について口頭弁論した後は、相手方の同意を得なければ、訴えの追加的変更をすることができない。
オ 裁判所は、当事者を異にする事件について口頭弁論の併合を命じた場合において、その前に尋問をした証人について、尋問の機会がなかった当事者が尋問の申出をしたときは、その尋問をしなければならない。
1 アウ 2 アオ 3 イウ 4 イエ 5 エオ
(コメント)
・全体にざっと目を通すと、肢オの〇がまずまず明確と思います。民事訴訟制度一般論として、証人尋問については、直接主義が強く要請されます。
→肢アと肢エの比較となります。どちらもテキストなどで明確な知識とまで言えないかもしれません。
・肢アについては「利益が共通であれば、訴額の合算はしないだろうな」と〇、肢エについては「口頭弁論した後でも追加的な変更はできるだろうな」と✖と推測できます。
一部推測も入りますが、2アオと正解できそうです。
第5問 少額訴訟
少額訴訟に関する次のアからオまでの記述のうち、誤っているものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
ア 公示送達によらなければ被告に対する最初にすべき口頭弁論の期日の呼出しをすることができないときは、裁判所は、訴訟を通常の手続により審理及び裁判をする旨の決定をしなければならない。
イ 被告は、最初にすべき口頭弁論の期日において弁論をした後であっても、口頭弁論の終結に至るまで、訴訟を通常の手続に移行させる旨の申述をすることができる。
ウ 証人の尋問は、宣誓をさせないですることができる。
エ 裁判所は、相当と認める時は、裁判所及び当事者双方と証人とが音声の送受信により同時に通話をすることができる方法によって、証人を尋問することができる。
オ 少額訴訟に終局判決に対しては、控訴をすることができる。
1 アウ 2 アエ 3 イエ 4 イオ 5 ウオ
(コメント)
・まず肢オの✖が基本知識です。少額訴訟の終局判決に対する不服の申立ては異議の申立てによります。
→肢イと肢ウの比較になります。肢イの✖、肢ウの〇も基本知識と思います。
・肢イについては、原告に少額訴訟と通常訴訟の選択権があることから、被告にも口頭弁論の期日において「弁論するまでは」その選択権を与えるということになります。
・肢ウについては、少額訴訟は、ラウンドテーブル(打ち合わせテーブルのようなもの)の法廷で行うため、証人にも宣誓などをさせないという特則があります。
比較的容易に、4イオと正解できそうです。
第6問 民事保全
民事保全に関する次のアからオまでの記述のうち、誤っているものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
ア 裁判所は、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋の期日を経ることにより仮処分命令の申立ての目的を達することができない事情があるときは、その期日を経ずに、仮の地位を定める仮処分命令を発することができる。
イ 保全命令に対しては、その命令につき不服のある債務者は、即時抗告をすることができる。
ウ 保全命令が発せられた後であっても、保全命令の申立てを取り下げるには、債務者の同意を得ることを要しない。
エ 物の給付を命ずる仮処分命令の執行については、仮処分命令が債務名義とみなされる。
オ 不動産の占有移転禁止の仮処分命令の執行は、債務者に対してその不動産の占有の移転を禁止することを命ずるとともに、その旨の登記をする方法により行う。
1 アイ 2 アエ 3 イオ 4 ウエ 5 ウオ
(コメント)
・民事保全法については、出題される事項は限られていますから、直前にしっかり復習すれば、ほとんどの場合、得点できます。本年度の出題も全ての肢が基本知識です。
・肢イについて、保全命令に対する債務者の不服申立て手段は、保全異議と保全取消しです。即時抗告は、保全命令の申立てを却下する裁判に対する、債権者の不服申立です。
・肢オについて、「債務者に対し、係争物の占有の移転を禁止し、および係争物の占有を解いて執行官に引き渡すべきことを命ずること」です。皆さんも、不動産登記法の学習で、占有移転禁止の仮処分の登記、など見たこと無いと思います。
容易に、3イオと正解できそうです。
第7問 民事執行
民事執行における債務者の財産状況の調査に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
ア 債務者の財産について一般の先取特権を有する債権者であっても、その被担保債権について執行力のある債務名義の正本を有しない場合には、当該債務者について、財産開示手続を申し立てることができない。
イ 財産開始手続の申立人以外の者であっても、債務者に対する金銭債権について執行力のある債務名義の正本を有する債権者は、当該財産開示手続に係る事件の記録中財産開示期日に関する部分の閲覧をすることができる。
ウ 貸金返還請求権について執行力のある債務名義の正本を有する債権者は、第三者からの情報取得手続において、債権者の給与債権に係る情報の提供を求めることができる。
エ 債務者の預貯金債権に関する金融機関からの情報取得手続は、先に財産開示期日における手続が実施されていなければ、申し立てることができない。
オ 第三者からの情報取得手続の申立人は、当該手続において得られた債務者の財産に関する情報を、当該債務者に対する債権をその本旨に従って行使する目的以外の目的のために利用し、又は提供してはならない。
1 アウ 2 アエ 3 イウ 4 イオ 5 エオ
(コメント)
・あまり出題頻度の高くない論点からの出題です。どの肢もテキストに載っていないということはないのですが、力を入れて学習された受験生はあまりいないのではないでしょうか?
★自分の知らない肢で考え込むことはできませんので、自分の知っている肢や、推測がもっとも正しいと考えられる肢を根拠にして、なんとか正解にたどり着きましょう。
・全体にざっと目を通すと、肢オがまさしく「もっともな」ことを言っており、〇であると推測できます。
→肢イと肢エの比較となります。先に述べたようにどちらもテキストには載っている知識であり、肢イが〇、肢エは✖と推測することは可能と思います。
いずれにしても、考え込まずに判断して、次の問題に進みたいです。正解は4イオです。
第11問 供託物払渡請求権の消滅時効
供託物払渡請求権の消滅時効に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
ア 受領拒絶を原因とする弁済供託における供託物還付請求権は、被供託者に供託の通知が到達した時から10年行使しない場合には、時効によって消滅する。
イ 弁済供託の被供託者から供託所に対し、供託を受諾する旨を記載した書面が提出された場合であっても、供託物還付請求権の消滅時効の更新の効力を生じない。
ウ 供託物取戻請求権の消滅時効の更新の効力が生じた場合には、同一の供託に係る供託物還付請求権の消滅時効は、その時から新たに進行する。
エ 家賃の5か月分につき一括してされた弁済供託の1か月分の供託金について取戻請求があり、これが払い渡された場合には、他の4か月の供託金取戻請求権の消滅時効は、その時から新たに進行する。
オ 供託者の請求により当該供託に関する書類の全部が閲覧に供された場合であっても、供託物取戻請求権の消滅時効の更新の効力を生じない。
1 アイ 2 アウ 3 イエ 4 ウオ 5 エオ
(コメント)
・まず肢イの〇が基本知識です。供託物払渡請求権の消滅時効が更新されるかどうか判断するのは、当該事項が「債務の承認」に当たるかどうかを考えるのがコツです。供託所が供託受諾書を受け取っても「債務の承認」には当たりません。
→肢アと肢エの比較となります。
・肢アについて、受領拒否による弁済供託において、払渡請求権の消滅時効の起算点は、「紛争の解決などにより、供託当事者間において払渡請求権の行使を現実に期待することができることとなった時点」です。通知が到達した時からではありません。よって、肢アは✖です。
・肢エについて、残りの4か月分についても取戻請求権の消滅時効はその時から新たに進行します。債務の一部の弁済は、債務の全部の承認に当たるからです。よって、肢エは〇です。
肢アまたは肢エのいずれかの先例を知っていれば、3イエと正解できます。
不動産登記法
第14問 代位による登記
代位による登記に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
ア Aが所有権の登記名義人である甲不動産について、AからBへ、BからCへと順次売買がされたが、Bが所有権の移転の登記の申請に協力しない場合において、CがBに代位してAと共同してAからBへの所有権の移転の登記の申請をするときに提供すべき代位原因を証する情報は、BからCへの所有権の移転の登記手続を命ずる旨の確定判決の正本でなければならない。
イ Aが所有権の登記名義人である甲不動産について、Bを抵当権者とし、Cを債務者とする抵当権の設定の登記がされている場合において、Cの住所に変更が生じたときは、Bは、Aに代位して、単独で、Cの債務者の住所の変更の登記を申請することができる。
ウ 売買を原因とするAからBへの所有権の移転の登記と同時にした買戻しの特約の登記がされている甲不動産について、その後、Cを抵当権者とする抵当権の設定の登記がされ、当該抵当権の担保不動産競売開始決定に基づく差押えの登記がされた場合において、CがBに代位してAと共同して買戻しの特約の登記の抹消を申請するときは、代位原因を証する情報の提供を要しない。
エ Aが所有権の登記名義人である甲不動産について、Aが死亡し、その相続人がBである場合において、Bの債権者であるCが、Bに代位して相続を原因とするAからBへの所有権の移転の登記を申請し、当該登記が完了したときは、登記官は、B及びCに対して登記が完了した旨を通知しなければならない。
オ Aが所有権の登記名義人である甲不動産について、Aが死亡し、その相続人がBである場合において、Bの債権者であるCが、Bに代位して相続を原因とするAからBへの所有権の移転の登記を申請し、当該登記が完了したときは、Cに対して登記識別情報が通知される。
1 アウ 2 アオ 3 イエ 4 イオ 5 ウエ
(コメント)
・全体をざっと眺めると、肢エが明確な〇です。登記が完了した旨の通知は、代位申請者に対してもなされます。
→肢イと肢ウの比較になります。
・肢イについて、抵当証券は別として、抵当権の債務者の変更登記が単独でなされることはありえず、明確な✖となります。
肢ウがわからなかったとしても、肢エと肢イが判断できれば、5ウエと正解できます。
第15問 不動産登記の申請の却下又は取下げ
不動産登記の申請の却下又は取下げに関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
ア 申請代理人が甲土地の所有権の移転の登記の申請を取り下げて、当該申請の際に納付した印紙の再使用証明を受けた場合には、当該申請代理人は、当該申請の申請人以外の者を申請人とする甲土地と同一の登記所の管轄区域内にある乙土地の所有権の移転の登記の申請のために、当該印紙を使用することはできない。
イ 法務大臣の定めるところにより電子情報処理組織を使用する方法により登記の申請をした場合において、当該申請を取り下げるときは、当該申請を取り下げる旨の情報を記載した書面を登記所に提出する方法によることができる。
ウ 「承役地の所有者は承役地の浸冠水その他の影響について一切異議求償等を申立てない」旨の特約を申請情報として地役権の設定の登記を申請した場合には、当該申請は却下される。
エ 書面申請の方法により登記を申請した場合において、当該申請が却下されたときは、当該申請の申請書は還付されない。
オ 外国に住所を有する登記義務者が登記識別情報を提供することができないために事前通知による手続を利用して登記の申請をする場合において、登記官が事前通知を発送した日から2週間内に当該登記義務者から申請の内容が真実である旨の申出がされなかったときは、当該申請は却下される。
1 アイ 2 アエ 3 イオ 4 ウエ 5 ウオ
(コメント)
・全体をざっと眺めると、肢エの〇が基本です。登記申請が却下された場合、添付書面は原則として返却されますが、申請書は返却されません。
→肢アと肢ウの比較になります。
・肢アは、実務を知っている身にとっては、「こんなのは当然使用できる」と思うのですが、受験生にとっては、もしかしたら迷うかもしれませんね。
・一方で、肢ウについては、知らない方が多いと思いますが、このような肢で考え込むことが最悪です。
肢アを✖と決断して、4ウエと正解したいと思います。
第23問 抹消された登記の回復
抹消された登記の回復に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
なお、登記官の職権による登記の回復については考慮しないものとし、租税特別措置法等の特例法による税の減免規定の適用はないものとする。
ア Aが所有権の登記名義人である甲土地について、Bによる滞納処分による差押えの登記がされ、次いでAからCへの所有権の移転の仮登記がされた後に、当該差押えの登記が抹消され、次いで当該仮登記に基づく本登記がされた場合において、Bが、抹消された当該差押えの登記の回復の嘱託をするときは、Bは、Cの承諾を証する情報を提供しなければならない。
イ 自然人であるAからBへの所有権の移転の登記がされたBが所有権の登記名義人となった甲土地について、当該所有権の移転の登記が抹消され、その後、当該所有権の移転の登記の回復を申請する場合には、Aの印鑑に関する証明書の提供を要しない。
ウ Aを抵当権者とし、Bを抵当権設定者兼債務者とする抵当権の設定の登記がされている甲土地について、Bが被担保債権の弁済をする前に、抵当権設定契約を適法に合意解除し、A及びBの申請により当該抵当権の設定の登記が抹消された場合には、A及びBは、抵当権の設定の登記の回復の申請をすることはできない。
エ Aが所有権の登記名義人であり、Bが抵当権の登記名義人である甲土地について、AB間の抵当権設定契約の解除を原因として抵当権の設定の登記の抹消がされ、その後、AからCへの所有権の移転の登記がされた場合において、当該抵当権の設定の登記の回復を申請するときは、Bを登記権利者とし、Aを登記義務者として当該申請をしなければならない。
オ 債権額を1000万円とする抵当権の設定の登記を回復する登記の登録免許税の額は、4万円である。
1 アウ 2 アオ 3 イウ 4 イエ 5 エオ
(コメント)
上から順に見ていきます。
抹消回復登記の出題は少なく考えにくいですが、要は、抹消登記と同様に、登記上の利害関係を有する第三者の承諾を証する情報を提供しなければ登記できない、ということが基本です。
・肢アについては、Bの差押えの登記を回復するときの、登記上の利害関係人は、現在の所有権の登記名義人であるCとなりますので、その承諾を証する情報を提供しなければなりません。よって肢アは〇となります。
→肢ウと肢オの比較となります。
・肢ウについて、AとBは抵当権設定契約を適法に合意解除して、その旨の登記申請をしているのですから、その登記を回復することはできず、あらためて、抵当権設定の登記をしなければならないと考えられます。よって、肢ウは〇と思いますが、この場合は念のため、肢オも検討することにします。
・肢オについて、学習の折りに、登録免許税法 別表第一をきちんと参照する習慣のある人には、簡単な問題です。抹消回復登記の登録免許税の額は、不動産1個につき、金1000円ですので、肢オは✖となります。
よって、1アウが正解です。
第25問 処分禁止の登記
Aを所有権の登記名義人とする甲不動産についての処分禁止の登記に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
ア Bが売買によりAから甲不動産の所有権を取得したが、甲不動産について、AからBへの所有権の移転の登記が未了の間にCを仮処分の債権者とする所有権の移転の登記請求権を保全する処分禁止の登記がされた後、Bの債権者であるDの代位によりAからBへの所有権の移転の登記がされた場合において、Cが、AからCへの所有権の移転の登記の申請と同時に、単独で当該処分禁止の登記に後れるBのための登記の抹消を申請するときは、その旨をB及びDに対しあらかじめ通知したことを証する情報を提供しなければならない。
イ 甲不動産について、Bを仮処分の債権者とする所有権の移転の登記請求権を保全する処分禁止の登記がされた後、Cを登記名義人とする抵当権の設定の登記がされた場合において、Bが、AからBへの所有権の移転の登記の申請と同時に、単独で当該抵当権の設定の登記の抹消を申請しなかったときは、当該所有権の移転の登記の申請は却下される。
ウ 甲不動産について、債務者の表示として「被相続人A相続人B」と記載された仮処分命令の決定書の正本を提供して所有権の移転の登記請求権を保全する処分禁止の登記が嘱託される場合には、当該処分禁止の登記の前提として、当該登記請求権の債権者であるCは、Bに代位して相続を原因とするAからBへの所有権の移転の登記を申請しなければならない。
エ 甲不動産について、Bを仮処分の債権者とする所有権の移転の登記請求権を保全する処分禁止の登記がされた後、登記官が、Bの申請に基づきAからBへの所有権の移転の登記及び当該処分禁止の登記に後れる登記の抹消をするときは、職権で、当該処分禁止の登記を抹消しなければならない。
オ 甲不動産について、Bを仮処分の債権者とする所有権の移転の登記請求権を保全する処分禁止の登記がされた後、当該登記請求権について保全の必要性が消滅したときは、A及びBは、解除を登記原因として当該処分禁止の登記の抹消を申請することができる。
1 アイ 2 アエ 3 イオ 4 ウエ 5 ウオ
(コメント)
・ざっと全体に目を通すと、まず肢エが基本事項であり、〇です。
→肢アと肢ウの比較となります。
・肢アについて、書き方は少しごちゃごちゃしていますが、問われている内容はそれほど難しいことではありません。仮処分による失効を登記するとき、通知をしたことを証する情報を提供しなければなりませんが、抹消される登記の登記名義人とあわせて、その登記の代位者にも通知を要しますか?ということが問われています。正解は、代位者にも通知を要しますので、登記名義人Bと代位者Dに通知すべきとなり、肢アは〇ということになります。
→肢アの〇に確信を持てない場合、肢ウも検討します。
・肢ウについて、「被相続人A相続人Bと登記義務者が表示されていれば、処分禁止の仮処分の登記の前提として、相続登記をすることを要しない(A→Cへの登記を保全しているのであり、A→Bの相続は発生していないから)」という先例を知っていれば、肢ウは✖と判断できます。
肢アまたは肢ウのどちらかが正しく判断できれば、2アエと正解できます。
商業登記法
第31問 資本金の額の変更の登記
株式会社の資本金の額の変更の登記に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
ア 減少後の資本金の額を0円とする資本金の額の変更の登記を申請することはできない。
イ 剰余金の資本組入れによる変更の登記の申請書には、当該組入れに係る剰余金の額が計上されていたことを証する書面を添付しなければならない。
ウ 資本金の額の減少による変更の登記があった場合において、当該資本金の額の減少に係る株主総会の決議に無効の原因があるときは、資本金の額の減少の無効の訴えに係る請求を認容する判決書の謄本及び確定証明書を添付して、当該変更の登記の抹消を申請しなければならない。
エ 定時株主総会において、当該定時株主総会の日における欠損の額を超えない範囲で資本金の額を減少する旨の決議が普通決議によりされた場合であっても、資本金の額の減少による変更の登記の申請書には、一定の欠損の額が存在することを証する書面を添付することを要しない。
オ 特例有限会社は、準備金の資本組入れを決議した株主総会の議事録を添付して、資本金の額の変更の登記を申請することができる。
1 アエ 2 アオ 3 イウ 4 イオ 5 ウエ
(コメント)
・上から順に見ていきますと、肢アは明確な✖です。皆さんも資本金の額を0円とする変更登記の記述式の練習を何回かされていることと思います。
・肢イは明確な〇です。これで、肢ウと肢オの比較となります。
→肢ウは、一旦判断を保留します。
・肢オについて、特例有限会社は、法令に別段の定めがある場合を除き、株式会社に関する会社法の規定が適用される、という理解が基本となります。よって、特例有限会社においても準備金の資本組入れによる資本金の増額の手続きができ、肢オは〇となります。
肢ウが判断できなかったとしても、4イオが正解であると導くことができます。
第33問 持分会社の登記
持分会社の登記に関する次のアからオまでの記述のうち、誤っているものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
ア 業務執行社員が2人以上ある場合には、合名会社における支店の設置の登記の申請書には、業務執行社員の過半数の一致を証する書面を添付しなければならない。
イ 合名会社においては、退社する社員の退社届及び退社する社員以外の社員全員の同意書を添付して、総社員の同意による社員の退社による変更の登記を申請することができる。
ウ 業務執行社員が2人以上ある場合には、合資会社における支配人の選任の登記の申請書には、業務執行社員の過半数の一致を証する書面を添付しなければならない。
エ 合同会社の代表社員が株式会社となる場合には、当該代表社員の職務執行者を当該株式会社において選任された当該株式会社の役員でない者とする設立の登記を申請することはできない。
オ 合同会社において、業務執行社員が業務を執行しないこととなった場合には、業務執行権の喪失による変更の登記を申請しなければならない。
1 アウ 2 アオ 3 イエ 4 イオ 5 ウエ
(コメント)
・全体をざっと眺めると、肢ウの✖が基本事項です。業務執行社員を置いた場合であっても、支配人の選任と解任は、社員の過半数で決定しなければならないことは頻出です。
→肢アと肢エの比較となります。
・肢アについて、業務執行社員を置いた場合は、このような業務は、業務執行社員の過半数の一致で決定します。よって、肢アは〇です。
・肢エについて、持分会社の代表社員が株式会社である場合に、職務執行者をその株式会社の役員から選ばなければならない、という規制はありません。肢エは明らかに✖です。
容易に、5ウエと正解したいです。
第35問 一般財団法人の登記
一般財団法人の登記に関する次のアからオまでの記述のうち、正しいものの組合せは、後記1から5までのうち、どれか。
ア 設立の登記の申請書には、登記すべき事項として、評議員の氏名を記載しなければならない。
イ 公告方法として「主たる事務所の公衆の見やすい場所に掲示する方法」を登記することはできない。
ウ 解散後も監事を置く旨の定款の定めのある一般財団法人が、定款で定めた存続期間の満了により解散した場合において、清算人の登記をするときは、監事設置法人である旨をも登記しなければならない。
エ 基本財産の滅失その他の事由による一般財団法人の目的である事業の成功の不能により解散する旨を定款で定めた場合には、当該解散の事由を登記しなければならない。
オ 貸借対照表の内容である情報につき不特定多数の者がその提供を受けるために必要な事項を登記する場合には、その申請書には、当該事項について決議した理事会の議事録を添付しなければならない。
1 アウ 2 アオ 3 イウ 4 イエ 5 エオ
(コメント)
・まず肢アの〇が基本です。一般財団法人の登記事項は完璧にしておきましょう。
→肢ウと肢オの比較となります。
・肢ウについて、一般社団法人と一般財団法人が清算法人となった場合、必置機関は社員総会・評議委員会と清算人です。また、定款の定めにより、清算人会と監事を置くことができます(ただし、清算開始の時点で大規模法人であった場合は、監事は必置機関となります)。よって、一般財団法人が清算法人となった場合、清算人会、監事を置くのであれば、その旨が登記事項となり、このことは重要かつ頻出ポイントです。上記を理解していれば、肢ウは〇と判断できます。
・肢オについて、一般社団法人と一般財団法人の登記については、「一般社団法人等登記規則3条は、商業登記規則の株式会社の規定のほとんどを準用している、すなわち、株式会社の登記とほとんど同じである」と理解して良いと思います。よって、株式会社の登記で、URLを決定した議事録の添付が不要であるように、一般社団法人の登記においても、URLを決定した議事録の添付は不要です。よって、肢オは✖です。
この問題も比較的容易に、1アウと正解したいです。
如何でしたでしょうか?
午後の部においては、とにかく、あせらないこと、落ち着くこと、決してあきらめないこと、が大事です。
私も、自信のない問題が何問か続いて、心が折れそうになりながらも、「落ち着け、あきらめるな」と深呼吸をしながら、何度も自分に言い聞かせたことを思い出します。
また、普段から、午後の部の問題への取り組み方を練習しておくことも大切だと思います。
模試や過去問演習において、自分で時間を短めに設定して、自分の知っている肢を根拠にして考え、考えても仕方がない肢については決して考え込まない、という練習をします。
普段の学習においては、出題頻度の低い、いわゆる難問の肢に拘ることは、百害あって一利なしと思いますが、本試験に近い緊張感を持った練習には使いましょう。 皆さん、がんばってください。
★米谷先生は、ご自身の司法書士・行政書士事務所HPでも、
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