こんにちは。
クレアール司法書士講座受験対策室の関口です。
今回は、債権者保護手続(債権者の異議手続)について記事をまとめました。この分野は、CROSS STUDYで集計した正答率等を分析すると、意外にも苦手な方が多いことがわかります。
原因のひとつには、おそらく複数の分野に知識が散在している点にあると思います。司法書士試験では、知識を横断的に整理することが非常に大切です。学習初期では、単元ごとに学習していく方法で構いませんが、習熟度を高めていく過程では、単元の枠にとらわれない広い視野を持っていただきたいと思います。
ひとつひとつの知識は決して難しくないため、この機会に知識を整理して得点源にしましょう!
なお、記事の最後には、債権者保護手続に関する知識をチェックすることのできる確認テストもご用意しておりますので、ぜひチャレンジしてください(解答フォームから何度でもどなたでも解答可です)。
債権者保護手続
債権者保護手続は、資本金の額の減少や組織再編など、債権者が不利益を被る可能性があるときに求められます。
例えば、資本金の額の減少であれば、具体的な減少額や債権者が一定の期間内に異議を述べることができる旨等を官報に公告し、かつ、知れている債権者には各別に催告します。この異議を述べることのできる期間は、1か月以上設けなければならないのが原則です。
◆官報公告の例◆ 資本金の額の減少公告 当社は、資本金の額を一千万円減少し五千万円とすることにいたしました。 効力発生日は令和6年3月31日であり、株主総会の決議は令和6年2月14日に終了しております。 この決定に対し異議のある債権者は、本公告掲載の翌日から一箇月以内にお申し出下さい。 なお、最終貸借対照表の開示状況は次のとおりです。 (省略) 株式会社〇〇 代表取締役 法務太郎 |
なお、例外的に各別の催告が不要となる「催告に代わる公告(いわゆる二重の公告)」もありますので、それについては記事の最後にまとめたいと思います。
資本金・準備金・剰余金の額の減少
まずは、資本金、準備金、剰余金の額の減少についてです。
表にもあるように、資本金の額の減少については、債権者保護手続を必ず行わなければなりません。
債権者への優先弁済枠である資本金を減少しようとするのですから、債権者に異議を述べる機会を与えることで保護しているわけです。
一方、剰余金の額の減少では、債権者保護手続は不要です。
剰余金は株主への配当に充てられます。したがって、剰余金の額が減少することによって不利益を被る可能性があるのは、債権者ではなく株主です。そのため、債権者保護手続は求められません。
★簡単に言ってしまえば、資本金は債権者のため、剰余金は株主のためにあるわけです。
準備金の額の減少では、原則として債権者保護手続を要しますが、例外的に不要となる場合があります。それが、
①減少する準備金の全額を資本金に組み入れる場合と、
②欠損てん補の場合です。
これらの場合であれば、債権者を害することはないだろうということです。
※②の欠損てん補では、減少する準備金の額等について定時株主総会で決定しなければならない点にも注意してください。
事業譲渡
続いて、事業譲渡、種類変更、組織変更についてです。
事業譲渡では、譲渡会社・譲受会社ともに債権者保護手続は不要です。
これは、事業譲渡では、会社が、譲渡された事業の債権者及び債務者と各別に債務引受及び債権譲渡の手続を行うためです。
種類変更・組織変更
続いて、種類変更です。いずれの種類変更でも、債権者保護手続は不要とされています。
★ひっかけ問題として予想されるのは、催告に代わる公告(いわゆる二重の公告)により債権者の各別の催告が不要となる場合との混同をねらった出題です(後述します)。
例えば次のような問題です。
【問1】 合名会社又は合資会社から合同会社に種類変更する場合は、一定の事項を官報に公告し、かつ、知れている債権者には、各別にこれを催告しなければならない。 |
【問1】の答えは「誤り」です。無限責任社員が有限責任社員となった場合や、無限責任社員が退社した場合であっても、その旨の登記をする前に生じた持分会社の債務については、無限責任社員として弁済する責任を負います。これらの規定により債権者の保護が図られているため、別途債権者が異議を述べる機会は不要とされています。
組織変更では、持分会社から株式会社になる場合も、株式会社から持分会社になる場合も債権者保護手続を要します。種類変更の場合と混同しないよう注意しましょう。
組織再編
組織再編では、(原則)と(例外)を押さえていただくことが大切です。
★意外と盲点となるのが、(原則)不要、(例外)要のパターンはあっても、(原則)要、(例外)不要のパターンはないということです。
例えば次のような問題であれば、「誤り」と即断できなければなりません。
【問2】 吸収合併における存続会社では、債権者保護手続が不要となる場合がある。 |
【問2】のような問われ方をすると、「たしか不要となる例外的なパターンもあったような…」と悩んでしまいそうですが、(原則)要、(例外)不要となるパターンはないと分かっていれば、自信をもって解答することができます。
清算
最後に清算です。結論から言うと、債権者保護手続を要するのですが、注意点もあるので条文を見てみましょう。
第499条(債権者に対する公告等) 清算株式会社は、第四百七十五条各号〔清算の開始原因〕に掲げる場合に該当することとなった後、遅滞なく、当該清算株式会社の債権者に対し、一定の期間内にその債権を申し出るべき旨を官報に公告し、かつ、知れている債権者には、各別にこれを催告しなければならない。ただし、当該期間は、2か月を下ることができない。 (以下省略) |
注意していただきたいのは、この債権申出期間は、2か月以上設けなければならないとされている点です。
先に触れたとおり、債権者保護手続の期間は「1か月以上」が原則です(会449条2項ただし書、会779条2項ただし書等)が、これは例外です。
なお、清算持分会社の場合も同様に「2か月以上」となります。
以上、債権者保護手続の要否についてでした。
催告に代わる公告(二重の公告)
続きまして、債権者保護手続の要否と併せて押さえていただきたい催告に代わる公告(二重の公告)について見ていきましょう。
これまで見てきたとおり、債権者保護手続では、官報公告+各別の催告が原則として必要となります。しかし、各別の催告が省略できる場合があります。これが催告に代わる公告(二重の公告)です。
官報公告に加え、会社が公告をする方法として定款で定めた時事に関する日刊新聞紙による公告又は電子公告をもって行った場合は、各別の催告を省略することができます。2種類の公告を行うため、二重の公告などと呼ばれることもあります(こちらの表現の方がイメージが湧きやすいと思うので、以下「二重の公告」と表記します)。
★なお、もともと官報を公告方法として定めている会社では、二重の公告は認められず、各別の催告を省略することはできません。
パターン① 官報公告+日刊新聞紙による公告 パターン② 官報公告+電子公告 ⇒債権者への各別の催告を要しない |
二重の公告が認められない主な場合
原則は、二重の公告によって各別の催告を省略することができますので、各別の催告を省略できない場合(二重の公告が認められない場合)を中心に覚えていくとよいでしょう。
▼二重の公告が認められない主な場合
1 | 清算株式会社の債権者への公告 |
2 | 合名会社または合資会社が株式会社に組織変更する場合の債権者への公告 |
3 | 合名会社または合資会社が合併の消滅会社、合同会社または株式会社が合併の存続会社(設立会社)となる場合の消滅会社の債権者への公告 |
4 | 会社分割の分割会社の不法行為によって生じた債務の債権者に対しての公告 |
1は、清算株式会社の場合です。会社が消滅に向けて動き出すわけですから、債権者への各別の催告によって確実に周知する必要があります。
2と3は、一言で言えば、無限責任社員がいなくなってしまう場合です。
4は、会社分割の場合で、分割会社の不法行為によって生じた債務の債権者に対しては、二重の公告が認められません。会社分割は、会社の不採算部門を分離して、他の部門を再建する手段として用いられるといった悪用がされるなど、他の組織再編に比べて債権者を害する危険が大きいといった事情もあります。
【問1】の解説でも触れたとおり、債権者保護手続の要否と、二重の公告の可否ついては混同しやすい部分ですので、ご注意ください!
それでは、最後に二重の公告についての問題です。
【問3】 清算中の株式会社は、原則として、債権者に対し2か月以上の一定の期間内にその債権を申し出るべき旨を官報に公告し、かつ、知れている債権者には各別にこれを催告しなければならないが、この公告を官報及び定款の定めに従い電子公告をもって行った場合、知れている債権者に対する催告を省略することができる。 |
【問3】の答えは、「誤り」です。
確認テスト
今回の学習事項をまとめて復習することができる一問一答形式の確認テストを作成しました。
どなたでも、何回でも解答することができますので、日々の学習にぜひお役立てください!
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