【確認テスト付き】記憶の補助線で司法書士試験対策!―善意、悪意、過失の総まとめPart1―

司法書士コラム

こんにちは。
クレアール司法書士講座受験対策室の関口です。

今回は、「記憶の補助線で司法書士試験対策!」第2弾「善意、悪意、過失の総まとめPart1」を配信します。

今回のテーマは、先日実施したアンケートにて、受講生の方からご要望をいただきました。ご提案いただいた受講生の方、ありがとうございました。引き続き取り上げてほしいテーマについて、アンケートを実施しております。アンケートフォームを設置しておりますので、ぜひご要望をお聞かせください。

▼アンケートフォームはこちら!
https://forms.gle/mJWXPL6juRvTg1N99

今回は、ボリュームがかなり大きくなってしまったので、記事を2本に分けています

▼Part2の記事はこちらから!
https://www.crear-ac.co.jp/palette/shihou/5302/

民法では、要件として「善意無過失」が要求されているものもあれば、「善意と悪意」「過失の有無」で結論が変わるものもたくさんあります。これらを個別に習得することは難しく、横断整理することが攻略のカギとなります。

今回配信する記事(Part1Part2)では、試験で問われやすい主要な論点をまとめています。試験で問われた際には、自信を持って解答できるよう頑張っていきましょう!

なお、Part2の記事の最後には、確認テスト(全24問)もご用意しておりますPart1Part2の順に記事をご覧いただいた後、ぜひチャレンジしてください。自信のある方は、先に確認テストにチャレンジしていただいてもよいと思います。

では、スタートです!

善意無過失

まずは、「善意無過失」が要件となっているものを、条文ベースでみていきましょう!

1.心裡留保

(心裡留保)
第93条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。
2 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

👉解説
表意者の真意でないことにつき相手方が悪意又は有過失の場合、意思表示は無効です。つまり、心裡留保が有効となるには、意思表示の相手方が善意無過失である必要があります(民93条ただし書)。
※第三者との関係については、Part2で詳しく触れます。

2.錯誤

(錯誤)
第95条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2、3(省略)
4 第1項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

👉解説
第三者が善意無過失であれば、錯誤による意思表示の取消しを対抗することができません(民95条4項)。
※第三者との関係については、Part2で詳しく触れます。

3.詐欺による意思表示の取消し

(詐欺又は強迫)
第96条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

👉解説
・第三者による詐欺の場合、相手方が、詐欺の事実について善意無過失であれば、意思表示を取り消すことができません(民96条2項)。
・第三者が善意無過失であれば、詐欺による意思表示の取消しを対抗することができません(民96条3項)。
※第三者との関係については、Part2で詳しく触れます。

4.代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示

(本人のためにすることを示さない意思表示)
第100条 代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のためにしたものとみなす。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたときは、前条第1項の規定を準用する。
(代理行為の要件及び効果)
第99条 代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。
2 前項の規定は、第三者が代理人に対してした意思表示について準用する。

👉解説
代理人が顕名しなかった場合、相手方がその行為が代理行為であること(本人のためにしているということ)について善意無過失であれば、代理人が自己のためにしたものとみなされ、その行為の効果は本人に帰属しません(民100条ただし書)。

5.代理権の濫用

(代理権の濫用)
第107条 代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。

👉解説
代理権の濫用があった場合でも、代理人は代理権の範囲内で行動しているため、相手方が善意無過失であれば、代理行為の効果は本人に帰属します。ただし、相手方が代理人の目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は無権代理行為となります(民107条)。

6.表見代理

(表見代理)
表見代理とは、本人と無権代理人との間に、本人に責任を負わせるのが相手方保護の観点から妥当であるとされる特別な事情、すなわち、相手方が代理権の存在を信じるような一定の外観がある場合に、その外観を信じた相手方を保護するために、本人に有権代理行為があった場合と同様の責任を負わせるものです(表見法理)。

👉解説
本人と無権代理人との関係によって、表見代理は次の3つの態様があります。
①代理権授与の表示による表見代理(民109条)
 本人が代理権を授与した旨の表示をしながら、実は代理権を授与しなかった場合。
②権限外の行為による表見代理(民110条)
 代理人が与えられた代理権の範囲を逸脱して代理行為を行った場合。
③代理権消滅後の表見代理(民112条)
 代理権の消滅後に代理行為を行った場合。

①~③のいずれにおいても、表見代理の成立の要件として「相手方が、善意無過失であること」があります。

7.無権代理人の責任

(無権代理人の責任)
第117条 他人の代理人として契約をした者は、自己の代理権を証明したとき、又は本人の追認を得たときを除き、相手方の選択に従い、相手方に対して履行又は損害賠償の責任を負う。
2 前項の規定は、次に掲げる場合には、適用しない。
一 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が知っていたとき。
二 他人の代理人として契約をした者が代理権を有しないことを相手方が過失によって知らなかったとき。ただし、他人の代理人として契約をした者が自己に代理権がないことを知っていたときは、この限りでない。
三 他人の代理人として契約をした者が行為能力の制限を受けていたとき。

👉解説
無権代理人が責任を負う要件のひとつに「相手方が、善意無過失であること」があります(民117条2項1号、2号)。ただし、相手方に過失がある場合でも、無権代理人が自己に代理権のないことを知っていた(悪意)場合は、無権代理人は責任を負います。

8.所有権の取得時効

(所有権の取得時効)
第162条 20年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2 10年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

👉解説
占有の開始時に善意無過失であった場合には、取得時効は「10年」になります(民162条2項)。なお、占有者が善意であることは推定されますが、無過失は推定されません(民186条1項)。占有の開始時点で、善意・無過失であればよく、以後、悪意等になっても、善意・無過失にはかわりはありません(大判明44.4.7)。

9.即時取得

(即時取得)
第192条 取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。

👉解説
即時取得の要件に「平穏・公然・善意・無過失に占有を取得したこと」があります。
なお、民法186条は、占有者は善意・平穏・公然に占有をなすものと推定しているので、即時取得の場合にも、その成立を主張する者においてこれを立証する必要はありません(民186条)。また、占有者が占有物の上に行使する権利はこれを適法に有するものと推定しているので、譲受人は譲渡人が無権利者でないと誤信することに過失はないものと推定され、無過失についても立証する必要はありません(民188条、最判昭41.6.9)。
この点については、上記の取得時効の場合と比較しましょう。

10.受領権者としての外観を有する者に対する弁済

(受領権者としての外観を有する者に対する弁済)
第478条 受領権者(債権者及び法令の規定又は当事者の意思表示によって弁済を受領する権限を付与された第三者をいう。以下同じ。)以外の者であって取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものに対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。

👉解説
債務者が、善意無過失で受領権者としての外観を有する者に対して弁済したときは、有効な弁済となります(民478条)。 なお、「外観を有する者」には、債権者の代理人と称する者(最判昭37.8.21)、債権者の相続権を有しない表見相続人(大判大10.5.30)、債権証書の持参人、預金証書と印鑑の持参人などが該当します。 

重過失

 続いて、「重過失」が要件となっているものを、条文ベースでみていきましょう!会社法では、「重過失」という言葉は多く出てくるのですが、民法では数えられる程度しかありません。

1.錯誤による意思表示の取消し

(錯誤)
第95条 意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤
二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤
2 前項第2号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。
3 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第1項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
4 第1項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

👉解説
錯誤による意思表示が、①意思表示に対応する意思を欠く錯誤(表示の錯誤)、②表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤(動機の錯誤)に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、表意者は取り消すことができます(民95条1項)。
しかし、錯誤による意思表示があった場合でも、錯誤が表意者の重過失によるものであった場合には取り消すことができません(民95条3項)。
ただし、次の場合には相手方は保護に値しないため、表意者に重過失がある場合でも取り消すことができます。
①相手方が表意者に錯誤があることを知り(悪意)、又は重大な過失によって知らなかったとき(民95条3項1号)
②相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき(民95条3項2号)

2.債権の譲渡制限特約

(債権の譲渡性)
第466条 債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2 当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。
3 前項に規定する場合には、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。
4 前項の規定は、債務者が債務を履行しない場合において、同項に規定する第三者が相当の期間を定めて譲渡人への履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、その債務者については、適用しない。

👉解説
債権は、原則として自由に譲渡することができますが、債権者と債務者との間で債権譲渡を禁止することや制限すること(譲渡制限特約)もできます。
譲渡制限特約の付された債権が譲渡された場合でも、その債権譲渡は有効です(民466条2項)。しかし、第三者(譲受人や債権の質権者)が、譲渡制限特約が付されていることを知り(悪意)、又は重過失によって知らなかったときは、債務者は譲渡制限特約を主張して履行を拒絶することができます。また、債務者は、譲渡人に対する弁済や相殺、その他の債務消滅事由をもって、悪意又は重過失の第三者に対抗することができます(民466条3項)。
このように、譲渡制限特約につき悪意又は重過失がある債権譲渡も有効ですが、債務者は譲受人からの履行請求を拒むことができます。他方、譲渡人は既に債権者ではないので、債務者に対して履行請求することはできません。その結果、債務者が任意に履行をしない場合、債権の回収が困難となってしまいます。そこで、債務者が履行しない場合に、悪意又は重過失の譲受人は、相当の期間を定めて債務者に対し、譲渡人に履行するよう催告をすることができます。そして、債務者がその期間内に履行をしないときは、債務者は譲渡制限特約をもって履行を拒絶することはできなくなります(民466条4項)。

3.預貯金債権に譲渡制限が付されていた場合

(預金債権又は貯金債権に係る譲渡制限の意思表示の効力)
第466条の5 預金口座又は貯金口座に係る預金又は貯金に係る債権(以下「預貯金債権」という。)について当事者がした譲渡制限の意思表示は、第466条第2項の規定にかかわらず、その譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対抗することができる。
2 前項の規定は、譲渡制限の意思表示がされた預貯金債権に対する強制執行をした差押債権者に対しては、適用しない。

👉解説
預金等は残高が流動し、特定が困難であるという特殊性があるため、特則が設けられています。預貯金債権に譲渡制限特約が付されていた場合に、譲渡制限特約について悪意又は重過失ある譲受人への債権譲渡は無効です(民466条の5第1項)。

4.緊急事務管理

(緊急事務管理)
第698条 管理者は、本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない。

👉解説
事務管理とは、義務がないのに他人のためにその事務を処理する行為です。たとえば、怪我をした迷子の手当てをするとともに、その子を家に送り届けたり、火災になった家から家財を搬出するような場合です。
管理者は、原則として善管注意義務を負います(軽過失で債務不履行となる)。ただし、管理者が本人の身体、名誉または財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理(緊急事務管理)を行った場合には、悪意又は重過失がなければ債務不履行責任を負いません(民698条)。

5.当事者の意思表示によって相殺を禁止した債権の要件等

(当事者の意思表示によって相殺を禁止した債権の要件等)
第505条 2人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2 前項の規定にかかわらず、当事者が相殺を禁止し、又は制限する旨の意思表示をした場合には、その意思表示は、第三者がこれを知り、又は重大な過失によって知らなかったときに限り、その第三者に対抗することができる。

👉解説
相殺とは、債務者がその債権者に対して自分もまた同様の債権を有する場合に、その債権と債務とを対当額において消滅させる一方的意思表示です。相殺が有効にされるためには、一定の要件を満たさなければなりません。一定の要件を満たし、相殺が許される状態のことを「相殺適状」といいます。
しかし、当事者の意思表示によって相殺を禁止した債権のように、相殺適状にあっても、相殺することができないものもあります。ただし、この意思表示は善意・無重過失の第三者(債権の譲受人や債務の引受人)には対抗することはできません(民505条2項)。

6.責任無能力者の監督義務者等の責任

(責任無能力者の監督義務者等の責任)
責任を弁識する能力のない未成年者の行為により火災が発生した場合において、失火責任法にいう重過失の有無は、未成年者の監督義務者の監督について考慮され、監督義務者は、その監督について重過失がなかったときは、火災により生じた損害を賠償する責任を免れる(最判平7.1.24)。

👉解説
自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていない未成年者(民712条)、精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く者(民713条)は、責任無能力者として、不法行為の責任を負いません。責任無能力者が賠償責任を負わない場合に、これを監督すべき法的義務のある者(親権者、後見人など)があれば、その者が、責任無能力者の行為による損害を賠償しなければなりません(民714条)。
なお、「失火」とは、故意ではなく過失から火事を起こすことです。上記判例では、監督義務者は、監督について重過失がなかったときは、民法714条の責任を免れることができるとされました。

Part1の記事は、以上となります。

確認テスト

今回の学習事項をまとめて復習することができる一問一答形式確認テストは、Part2の記事の最後に掲載しています。

Part2の記事は、こちらから!

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