こんにちは!日本組織内司法書士協会の泉匡人です。
本日は、最近ニュースでも話題になっている「下請法違反」についてお伝えします。
下請法とは
「下請法(下請代金支払遅延等防止法)」とは、親事業者による下請事業者に対する優越的な地位の濫用行為を取り締まるために制定された法律です。
最近、この下請法に違反した企業のニュースを多く目にします。
①【全国初の勧告】下請けフリーランスらに無償でデザインやり直し2万4000回 食品などのラベルシール国内最大手の「大阪シーリング印刷」に公正取引委員会が勧告
【6月19日 Yahoo!ニュースより】
公正取引委員会は19日、大阪市天王寺区の「大阪シーリング印刷」に勧告を行いました。
同社は36人の下請事業者が作成した、ラベルなどのデザインの納品を受け、「問題ない」と受け入れたあとに、顧客である食品製造者などから、細部のデザインのやり直しなどを求められると、再び下請け事業者にデザインのやり直しを依頼して、結果的に、無償で計24600回、デザインのやり直しをさせていたということです。
②日産自動車に下請法違反で勧告、30億円不当減額 公取委
【3月7日 日本経済新聞より】
自動車部品を製造する下請け企業36社への支払代金約30億2300万円を不当に減額したとして、公正取引委員会は7日、日産自動車に下請法違反で再発防止を勧告した。減額の認定額としては過去最高となる。同社に下請法の順守のための定期的な監査などを求めた。
③トヨタ子会社を下請け法違反で勧告 不当返品や金型無償保管 公取委
【7月12日Yahoo!ニュースより】
下請け業者に対して納入品を不当に返品したり、金型を無償で保管させたりしたのは下請け法違反に当たるとして、公正取引委員会は5日、トヨタの子会社「トヨタカスタマイジング&ディベロップメント」(横浜市)に再発防止を勧告した。
普段の生活においてはあまり馴染みがないかもしれませんが、下請法は、「下請取引の公正化・下請事業者の利益保護」のために制定されている法律です。
比較的資本金の額の大きな企業に勤める場合、この下請法をしっかりと理解し、法律の規定を取引内容に落としこんで運用しないと、思わぬ不利益を被る可能性があります。
また、下請事業者側に立つ場合、親事業者側の義務内容や違反事由を認識することができれば、自社や取引の利益を守ることにもつながります。
下請取引の判定方法
下請取引に該当するか否かは、「取引当事者の資本金の区分」と「取引の内容の面」から判断します。
取引当事者の資本金の区分について
細かい区分があるところを大まかに説明すると、親事業者が資本金3億円以上である、あるいは3億円以下でも資本金1千万円以下の会社や個人事業者に外注すると、下請取引に該当します。
取引する会社間において資本金の差があると、どうしても親事業者側が優越的な地位を濫用しがち、弱い立場にある下請事業者は今後の取引継続のためにYESと言わざるを得ない状況になりがちだからです。
取引の内容について
対象となる取引内容としては、「製造委託」、「修理委託」、「情報成果物作成委託(ソフトウェアやデザインなど)」、「役務提供委託(運送やビルメンテナンスなど)」の4つに大きく区分されます。
例えば自動車メーカーが、自動車部品の製造を部品メーカーに委託する(製造委託)、広告代理店がクライアントから受注したテレビCMの制作を制作会社に委託する(情報成果物作成委託)、というとイメージしやすいでしょうか。
ここでいう自動車メーカーや広告代理店が「親事業者」にあたり、下請法上規定される義務を遵守し、禁止事項等に違反しないように下請取引を行わなければなりません。
義務の内容としては、「発注書に必要事項を記載して下請事業者に交付する義務」「下請代金の支払期日を定める義務」などがあります。
禁止事項としては「下請代金の減額禁止」「買いたたきの禁止」「不当な給付内容の変更・やり直しの禁止」「不当な返品の禁止」「不当な経済上の利益の提供要請の禁止」などが定められています。
最近のニュースで見る下請法違反
冒頭であげた事例の一つ目、大阪シーリング印刷は、下請事業者に何度も無償でデザインのやり直しを依頼していた点が、「不当な給付内容の変更・やり直し」に当たるとして公正取引委員会(公取委)から勧告を受けました。
事例の二つ目、日産自動車は、部品製造を委託している下請事業者に発注した代金から「割戻金」と称して一部を差し引いて代金を支払っていた点が、「下請代金の減額」に当たるとして、やはり公取委から勧告を受けています。
事例の三つ目、トヨタ子会社は、納入された車体パーツなどを下請事業者に不当に返品し、パーツの生産に必要な金型などを費用を支払うことなく保管させていた点が、「不当な返品」や「不当な経済上の利益の提供要請」に当たるとされました。
公取委によると、23年度、下請法違反の疑いやそのおそれがあるとして事業者に指導を行った件数は、2年度続けて8000件を超えているそうです。下請事業者への支払遅延や、不当な形で低い価格を定める買いたたきといった違反事例が多く発生しています。
親事業者は、昨今人件費の増加やエネルギー価格の上昇が続き、経営難に苦しむ状況が続きますが、それでも下請法に対する十分な知識を持ち、取引内容に留意して下請事業者との日々の取引に当たらなければなりません。下請法は親事業者側に課せられたルールだからです。
下請法違反の疑惑があると…
親事業者向けに公取委や中小企業庁による定期調査が行われたり、立入検査が行われたりすることがあります。
定期調査や立入検査では、親事業者として下請事業者との日頃の取引内容を精査し、違反事由が無いか確認します。そもそも法適用のある取引なのか、下請法の条文や解釈に沿って判断します。発注品の単価決定の推移、代金の支払い状況、買掛残高、注文書や基本契約書の有無も一つ一つ確認しなければなりません。
ですので、この定期調査や立入検査に社内で対応する際には、経営企画、経理、法務といった管理部門のメンバーらが協力し合って対処し、実際に取引を行う事業部門の担当者に聞き取りを行うことになるでしょう。
親事業者が下請法に違反した場合には原状回復し、再発防止などの措置を実施しなければならず、その旨勧告・公表されたり、行政指導が行われたりします。また、義務違反行為に対しては最高50万円の罰金に処せられる場合もあります。
「下請法を知らなかった…」と言い逃れすることはできず、適切な運用による取引が求められます。
下請法はビジネスパーソンとして、ぜひとも押さえておきたい重要な法律の一つと言えます。
ではまた次回!
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