先日、大変興味深いニュースを目にしました。ソフトバンク社が、電話の相手の「怒鳴り声」をAIで穏やかな声に変換してオペレーターに届ける技術を開発したというものです。
これは、コールセンターなどで対応にあたる従業員の負担を減らす狙いで、2026年10月からスタートする「企業のカスタマーハラスメント(カスハラ)対策義務化」においても、有効な解決策の一つになると期待されています。
今回は、この最新技術のニュースを入り口に、カスハラ対策の「今」を紐解いていきましょう。
電話口の怒鳴り声を穏やかに ソフトバンク、AIでカスハラ対策
【2月2日 日本経済新聞より(抜粋)】
ソフトバンクは2日、顧客による迷惑行為「カスタマーハラスメント(カスハラ)」の被害を人工知能(AI)で減らすサービスを開始したと発表した。電話口での顧客の怒鳴り声を、内容を変えることなくAIで抑揚のない音声に自動変換する。(以下省略)
参照:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC0214G0S6A200C2000000/
報道された内容によると、ポイントは次の2点です。
・コールセンターなどで対応にあたる従業員の負担を減らす狙いで、電話対応で怖さを感じた場合、オペレーターの手元で音声を変換できる。
・抑揚を小さくすることで受け手の恐怖を和らげる効果が期待され、実証実験では恐怖心を30%減らせたという。
なぜ今、カスタマーハラスメント対策が叫ばれているのか
背景には大きなルールの変化があります。2025年6月に成立した改正法(労働施策総合推進法)により、企業にはカスハラから従業員を守るための措置を講じることが義務付けられました。施行は2026年10月の予定です。
ここで大切なのは、「何がカスハラにあたるのか」という線引きです。
厚生労働省のマニュアルによれば、カスハラとは「すべてのクレーム」を指すものではありません。たとえば、1時間を超える拘束や土下座の強要、言いがかりによる金銭要求、SNSでの氏名公表といった行為が該当します。
つまり、「手段や態度が、社会の常識に照らして行き過ぎているもの」であり、それによって働く環境が害されるものを指すのです。
「努力義務」から「義務」へ。法改正に込められた強い意志
今回の法改正では「努力義務」ではなく、より強制力のある「義務」と規定されました。その理由は、現場の深刻な実態にあります。
最新の調査*では、実に約86%の企業が「カスハラ該当事例があった」と回答しています。被害を受けた従業員がメンタルヘルス不調に陥ったり、離職したりするケースが後を絶ちません。深刻な人手不足が続く中、もはや個人の我慢に頼る「努力」の段階では限界です。
企業が責任を持って対策を講じることを「義務」とすることで、働くみなさんの心身の健康という権利を、社会全体で守ろうとする強い意志が込められていると言えます。
*職場のハラスメントに関する実態調査(2023年度・厚生労働省)
現場の葛藤、そして企業に求められる「盾」としての役割
今回の義務化により、企業には「方針の明確化」や「相談体制の整備」などが具体的に求められるようになります。
一方で、社会保険労務士として現場の経営者の方々とお話しすると、切実な不安の声も耳にします。
「中小企業が取引先にNOと言ったら、仕事がなくなるのではないか」
「カスハラという言葉を盾に、自社のサービス低下につながるのではないか」
こうした懸念は、これまで「お客様第一」で歩んできた企業ほど強く感じられるものです。
しかし、カスハラ対策は決して「お客様を大切にしないこと」ではありません。多くの企業様をサポートさせて頂く中で感じることは、不当な要求を適切に切り分けることは、むしろ誠実なお客様へのサービス品質を保ち、大切な従業員を守ることになるということです。
「NO」と言える勇気を持つ企業こそが、従業員からも、そして実は自社が望む「良い顧客」からも選ばれる時代が来ているのではないでしょうか。
まとめ
今回は、最新のAI技術から、カスハラ対策の義務化について見てきました。
カスハラ対策は、単なる法律のルールの話に留まりません。顧客との付き合い方を捉え直し、ひいては日本全体の労働環境をアップデートする転換点になると感じています。
時代が刻一刻と変化する中で、いかに「心も体も健康に」働き続けることができるか。どの企業においても重要なテーマではないでしょうか。
今後も社会保険労務士として「持続可能な会社づくり」を経営者の方、そこで働く社員の皆さんと共に考えていきたいと思います。


