受験を続ける?諦める?改めて、司法書士とは…

司法書士コラム

皆さんこんにちは。

クレアール司法書士講座を受講して令和4年度司法書士試験に合格したR.Nです。

10月10日に令和5年度司法書士試験の筆記試験合格発表がありました。

本日は、主に今回の試験で残念な結果であった方受験の継続を悩んでいらっしゃる方に向けて、改めて司法書士とは何なのか?について、書きたいと思います。
司法書士制度の歴史についても触れますので、初めて知ることもあるのではないかと思います。

司法書士試験の学習を始めたばかりの方や、司法書士を目指そうか悩んでいらっしゃる方にお読みいただいても、司法書士に対する理解が深まる内容になっていると思います。

また、令和5年度司法書士筆記試験に合格された方でも、口述試験に向けて気持ちを奮い立たせていただける内容になっていると思いますので、お時間が許すようであれば是非お読みください。

そもそも司法書士とは?

司法書士は、司法書士法の定めるところによりその業務とする登記、供託、訴訟その他の法律事務の専門家として、国民の権利を擁護し、もって自由かつ公正な社会の形成に寄与することを使命とします(司法書士法第1条)。

その業務内容は、他人の依頼を受けて、下記の事務を行うことです(司法書士法第3条)。
(※認定司法書士の業務を除いてお示しします。)

① 登記又は供託に関する手続について代理すること。
➁ 法務局又は地方法務局に提出する書類・電磁的記録を作成すること。
③ 法務局又は地方法務局の長に対する登記又は供託に関する審査請求の手続について代理すること。
④ 裁判所若しくは検察庁に提出する書類又は筆界特定の手続において法務局若しくは地方法務局に提出する書類・電磁的記録を作成すること。
⑤ ①~④の事務について相談に応じること。

司法書士の業務は、「法的な紛争が起こるのを未然に防ぐ」という側面が非常に強いと感じています。紛争が起こらないように「予め」、そして紛争が起こったときに「リスクを最小限にする」ように、たとえば不動産という高価な財産の取引について、法律の専門家として関与することによって「登記の真正」を担保するのが司法書士の仕事です。
既に紛争が起きている事案については、弁護士の領域ですので行うことはできませんが、司法書士は最も身近な法律家として、市民の目線に合わせた親身な法律相談を行うことができるのが魅力です。

日本司法書士会連合会会長 小澤吉徳氏による、司法書士の解像度が上がる非常に明快なコラムはこちら↓

教えて会長さん | 司法書士制度150周年記念サイト | 日本司法書士会連合会
小澤吉徳会長が、司法書士という仕事の使命、社会における役立ち、歴史、やりがい…など、司法書士に関するさまざまなご質問にお答えします。

司法書士の歴史

※ネタバレというほどでもありませんが、中央新人研修の内容と重複します。
(中央新人研修では効果測定問題が出題されるので、今年新人研修を受けられる方にとっては予習になるかもしれません。)
↓ ↓ ↓

司法書士の歴史は、明治維新の時代、1872年(明治5年)に定められた「司法職務定制」に遡ります。これはわが国最初の裁判所構成法ともいうべきもので、司法書士の前身である「代書人」と弁護士の前身である「代言人」が、裁判権の円滑な行使に不可欠な存在として位置づけられました。
当時、殆んどの国民が法的知識を有しない中、司法書士の前身である「代書人」は、法律の専門家として当事者の主張を書面化し、司法の運用を担うことを期待されました。
「代書人」は、1900年(明治23年)に「弁護士」と名称を変えた代言人と比較すると、法の表面に浮かび上がることはありませんでしたが、深く広く庶民の中で法律実務家として活動を続けました
なお、「司法書士」という名称は、1935年(昭和10年)の司法書士法の制定と同時に生まれました。当時、代書人は司法の補助機関として重要な司法事務関係の書類の作成に携わっていたため、単なる「代書」ではないことを理由に、名称変更がなされたようです。
2000年(平成12年)には、高齢者の生活を支える両輪として「介護保険制度」と共に「成年後見制度」が発足し、当時から現在に至るまで、第三者後見人のトップランナーとして、司法書士が選任されてきました。
2002年(平成14年)には、「認定司法書士」に、「簡易裁判所における訴訟代理権」が付与され、訴額140万円以下の民事事件について、弁護士と同様の裁判業務が行えるようになりました。これは、司法書士が、裁判における国民の権利擁護について、法律家の援助が不十分である状況を改善し、より多くの国民が利用しやすい法律サービスの提供を行うため、近代的な司法制度の創設当初から裁判に携わってきたことを理由に認められました。すなわち、司法書士の今までの裁判所提出書類作成業務の実績が評価されたことによる改正であると言えます。
2019年(令和元年)には、司法書士の使命を明らかにする規定が新設されました。これが冒頭に述べた、司法書士法第1条となります。
2022年(令和4年)には、司法書士制度150周年を記念して様々なイベントが実施されました。

【出典】司法書士制度の歴史について
・日本司法書士会連合会 司法書士の歴史 (※公式ページ)
・日本司法書士会連合会 司法書士150年の歩み(※公式YOUTUBE)

司法書士制度150周年について詳細はこちら↓

司法書士制度150周年記念サイト | 日本司法書士会連合会
司法書士制度は、今年8月3日に150周年を迎えます。感謝の気持ちを込めて、全国各地で開催されるさまざまなイベントや活動の様子をご紹介いたします。

司法書士実務の歩みについて ※新人研修ネタバレ注意

令和4年度中央新人研修にて、皆様ご存じ登記六法の編集等でご高名な、山野目章夫教授(早稲田大学 法学学術院 大学院法務研究科)から「司法書士制度150周年」に寄せたお話があり、大変感銘を受けました。
そこで、僭越ながら山野目教授のお話を自分なりに解釈して纏めましたので、是非共有させていただきたいと思います。
私の感想が混ざってしまっている部分も大いにあり、山野目教授にお話しいただいた内容を全くそのまま書いているわけではありませんので、その旨ご承知おきくださいませ。

新人研修のネタバレを含みますので、山野目教授の含蓄あるお言葉を他の人間の目を通して知るのがお嫌な方(特に令和5年度司法書士試験筆記試験に合格し、これから新人研修を受ける予定の方)は、「これからの司法書士業務(主にAIとの共存)について」にジャンプしてください。

↓ ↓ ↓

前提として…「弁護士」は、憲法上の文言として登場します(日本国憲法77条第1項「最高裁判所は、訴訟に関する手続、弁護士、裁判所の内部規律及び司法処理事務に関する事項について、規則を定める権限を有する。」)。ですが、「司法書士」はまったく登場しません。
これは、弁護士は憲法上理念的に想定される法律家であるのに対し、司法書士は民衆の需要に応じて帰納的に地位を確立して、職能を拡げていった法律家であるためです。
国家権力によって、すなわち”上から(お上から)”存在を規定されている弁護士とは異なり、司法書士は“下から”民衆の叫びを掬いあげる法律家であるということです。

 (※付言するまでもないですが、弁護士と司法書士のどちらが良い悪いではなく、あくまで役割の話として捉えてください。どちらも社会的に必要な法律家であることには変わりありません。)

司法書士実務を担われてきた先輩方の今までの活躍によって、上述の通り、後見業務簡裁訴訟代理等関係業務など、司法書士の職能は順次拡大されていきました
その経緯からも、「司法書士が最も市民に近く、市民の暮らしや権利を守り、権力と市民との距離を近づけるために尽力する法律家であること」を、先人の歩み、すなわち“歴史”が証明していると言えると思います。

山野目教授は「日本司法書士連合会 司法書士制度150周年記念式典」でもお話しされています。
現役実務家の方向けの動画ですが、司法書士業務の4つの柱である「不動産登記」「商業登記」「後見業務」「裁判業務」についてお話されています。
ご興味のある方は、是非こちらをご覧ください。

終盤51分頃に、今回の記事で取り上げさせて頂いた内容について言及されています。

これからの司法書士業務(主にAIとの共存)について

これからの司法書士業務について、私の考えを書かせていただきます。

もしかしたら、司法書士業務の今後について憂慮されている受験生の方が少なくないのかもしれない、と考えております。
確かに、司法書士のメイン業務である不動産登記・商業登記の件数自体は減少傾向にあり、登記業務のみで見た場合には競争率が高くなってきている現状は否めません。
さらに、殆んどの司法書士業務がAI(人工知能)に取って代わられてしまうかもしれない、という話を聞いたことがある方もそれなりにいらっしゃるかもしれません。

ですが、超高齢化社会ある日本においては、成年後見分野空き家対策などの案件は増加傾向にあり、AIでは対応しきれない、血の通った人間が直接に対応しなければならないような案件、しかも日本全体における課題となる分野で、司法書士という法律家の需要は増すばかりです。
また、2023年(令和5年)4月1日に「司法書士倫理」から姿を変えた「司法書士行為規範」においては、「民事信託」に関する規定が明文化されるなど、これからますます実務での発展を見せるフロンティア業務について、司法書士は多大なる期待を背負っています
今後は、登記業務を適切かつ正確に処理していくのみならず、時流に合わせた、そして依頼人の納得のいく選択サポートしていくコンサルティング業務の比重が増していくと考えられます。

「司法書士行為規範」全102条を紐解くと、「依頼の趣旨」という言葉が8回も登場します(依頼人の意思の尊重(第10条)、受任の際の説明(第20条)、契約書の作成(第23条)など)。
AIに、依頼人と真正面から向き合い、その意思をしっかりと読み取り切る、「依頼の趣旨」に応える力が確実に備わっているか?と聞かれたら、簡単には頷けないのではないでしょうか。
また、専門家として未知の案件にぶつかったときに、AIに任せて機械的に前例踏襲をするか、あるいはAIの学習機能(予測)により処理をする等によって、問題解決を図ることができるかと考えると、どうしても人の手を加える段階は必要になってくるように感じます
AIには確かに学習能力があるかもしれませんが、マニュアル化・ルール化されたものしか実行することができません。
司法書士業務を突き詰めると、最終的には「法律」がルールとなっていると言えるかもしれませんが、それを機械的に当てはめていくだけで、絶対に最適解が示されるというわけではないと思います。
司法書士は、法律の専門家ですから、依頼人に対して、司法書士業務として行うことができる様々なメニューを網羅的に提示した上で、その依頼人にとって最適な提案を導いていかなければなりません。
付け加えて言うと、AIは膨大な知識を記憶し、その中から様々な“手”を模索していきますが、経験値を積んだ人間の方が、AIよりも早く”最善の手”にたどり着くこともあると思います。

現代の司法書士は、法律の専門家であると同時に、個々人が独立して資格を活かす自由業であり、依頼者の要望をしっかりキャッチして適切な解決策を導くサービス業でもあります。
確かに法律に関わる膨大な知識はAIにプログラムすることができ、いつでもその知識を呼び出すことが可能になるため、これまで人間が膨大な情報の中から調べ物などに費やしていた時間を大幅にカットすることができるようになる可能性があります。
ですので、AIの登場によって、これからの司法書士としての働き方に変化が出てくる可能性は高いと思いますし、AIに任せて楽をすることができる部分も間違いなく増えていくと思います。

しかし、AIに学習能力があり、依頼人の要望に合わせたより適切な答えを提示できるようにプログラミングしていくことは不可能ではないかもしれないとはいえ、現代のより複雑化した案件において、それぞれの依頼人の状況や要望について緻密な対応をすることはまず不可能に近いと思います。
面と向き合って話すことができる血の通った人間だからこそ、依頼人に寄り添って傾聴し、依頼の趣旨に沿った専門家としての提案ができるのではないでしょうか。
これは、司法書士業務を受任、遂行していく上で最も重要なことであると思いますし、AIでは決して賄いきれない大切な要素であると言えます。

物事には二面性があるので、AIに仕事を奪われてしまうと悲観的に捉えるのではなく、AIが長けている部分をうまく活用するため、つまりAIの能力を司法書士業務に活かしていくためにデジタル能力を高めていき、「AIとの共存」を目指すことによって、「司法書士業務の効率化を図ることができる」と前向きにと捉えた方が良いと考えます。
現代の司法書士として生き残るためには、顧客一人一人に向き合う傾聴力・折衝力・説得力の向上、それを裏打ちする最新の法律知識の研磨など、AIには行い得ない強みを高めていくと共に、AIが得意な部分はAIに任せてそれを監督するという「分業スタイル」で運営していくと良いのではないかと考えます。
司法書士業務は在庫を抱えることのない、専門家である自分自身が売上原価である数少ない職業
ですから、AIを馴らし、時間を節約して、提供するサービスの質の向上と、専門家としての弛まぬ自己研鑽を実践していくことが非常に重要であると言えます。

現在、民間における法律に関わる案件は複雑化しており、全く同じ案件というのはほぼないと言えます。
そのような時に、市民の目線で、依頼人の立場に寄り添ったコンサルティングができる司法書士はやはり重宝されますし、需要もやりがいもアップすることが予想されます。
また、親切、丁寧なサービスだけでなく、正確性がありスピード感もあることによって、依頼人からの信頼感もますます深まります。
このような正確性やスピードは、AIの得意分野ですから、AIの能力をうまく活用して、司法書士の能力とAIの能力それぞれを組み合わせた精度の高い仕事を実現することができると思います。
逆を言うと、これからの時代は、従来の方法に加えて新しい技術を柔軟に取り入れながら変化していくことが求められるのではないでしょうか。
この先の未来に、どんな風に社会環境や法制度が変わっていったとしても、生き残っていくのは環境に順応できる司法書士だと思います。

司法書士という資格の価値が今まで磨かれてきたのは、先輩実務家の方々の努力により、実務の世界における知識や経験が積み上げられてきたからであると言えます。
ですので、これからもますます司法書士の価値を磨いていくためには、専門家としてその時代に合った正しい努力重ねていくことが必要です。
そして、専門家として正しい努力を重ねていけば、拓ける道はいくらでもあると思います。
新しい時代に向けて、この先の未来も、司法書士の活躍の場は大きく広がっていくと想像します。

最後に…(残念な結果であった方へのメッセージ)

司法書士は、弁護士と異なり、受験資格に限定がなく、誰にでも目指すチャンスがある法律家です。
それは、司法書士が市民の中から生まれ、市民と共に歩むことにより職能を拡大してきたという歴史を踏まえると、当然の帰結であると思います。

合格まであとほんの少しだけ、それこそ総合点は超えたのに記述の基準点が足りなかった方や、手応えはあったものの択一1問分の点数で総合落ちしてしまった方は、心底やりきれないと思います。
試験結果の分布図を見ると、そのような方が100人以上もいて、司法書士試験の残酷さを改めて思い知り、胸が痛くなります。

残念な結果であった方は、今は何も考えられない…という方が殆んどであると思いますので、執筆者としても正直なところ、こんな記事を書いても誰も読んでくれないのではないかな?と思いながら書いている部分もあります。
なら書くな、という話ですが、いつ誰が読んで、誰の胸に刺さるかわかりませんので、その可能性を信じて執筆しました。

気持ちが少し前を向いたときにでも、この記事を目にして、改めて「司法書士を目指そう」という気持ちを思い出していただければ、これ以上嬉しいことはありません。
ですが今は、気持ちの整理に努めてください
気持ちの整理がつき、そして気持ちを切り替えることができたのであれば、前向きに令和6年度司法書士試験の合格を目指してほしいです

最近は肌寒い日も増えてきましたね。年末まであっという間だと思います。
心身の健康を一番に、ご自分のタイミングで、できることからスタートしてください。

執筆:R.N(司法書士有資格者)

クレアールの初学者向け司法書士講座を受講し、令和4年度司法書士試験に一発合格。
大学在学中は司法試験を目指していたが、挫折してしまい法科大学院に進学しなかった経験あり。法律難関資格への想いを断つことができず、司法書士試験を目指すことに。
現在は、クレアールの司法書士教務担当として受講生のサポートなどを行う。他に行政書士、宅建士、日商簿記2級、漢検準1級等を保有。

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