「好き」を、努力の原動力にする

公認会計士コラム

公認会計士試験合格者 森 大地

努力が苦にならない瞬間

やりたいこと、できるようになりたいことがあっても、その過程の努力が苦でチャレンジを躊躇してしまうことがあります。一方で、趣味を好きで続けていくうちに、いつの間にかかなりの腕前になっていたということもあります。私の場合、現在、海外出向に向けた語学習得を目指していますが、英会話レッスンや単語、文法の自宅学習を継続させるのに苦戦しています。一方で、会計士受験生時代に始めた趣味の自転車整備は、いつの間にか、古くなったクロスバイクのレストア作業(部品交換や分解整備などで古い自転車を新品同様にする作業)を人から請け負うほどのスキルになっていました。「語学学習も、自転車整備のように楽しく努力ができればいいな」と思い、なぜ「苦にならない努力」が生まれたのかを考えました。

きっかけは、興味本位

会計士受験生時代、毎日自習室に通うための交通費を節約するため、実家のある練馬から水道橋までの自転車通学を決めました。今でこそ、長距離も走れるロードバイクに乗っていますが、当時は小6から乗り続けるシティサイクル(ハンドルがまっすぐのママチャリ)だったので、約12kmの道のりはかなりの負担でした。通学用にクロスバイクが欲しかったのですが、大学卒業して浪人生活を始めようとしていた私にそんな余裕などありません。そこで考えたのが、「ママチャリ改造計画」です。今、乗っている自分のシティサイクルをお金をかけずにクロスバイク仕様にすることができれば、もっと楽に通学できるのではないか。もともと機械いじりに興味があったこともあり、ワクワクした気持ちで計画を立てました。

自転車屋さんに頼りつつ、スキルを習得

パンク修理もしたことのない全くの素人だったので、ネットの情報だけを頼りに改造計画を進めました。重量削減のためにカゴや泥除けを取り外す、乗車姿勢最適化のためのステム(ハンドルを支えるパーツ)交換などは順調に進みましたが、ホイールの脱着、タイヤ交換は苦戦しました。中でも、ホイールの回転を潤滑にするためのメンテナンスである「ハブベアリングのグリスアップ」は、素人には難しいものでした。車軸の内部のベアリングを洗浄し、新しいグリス(潤滑油)を注油する整備なのですが、車軸の締め付け具合を絶妙にしないと、ホイールがガタついたり抵抗が強くなり過ぎたりしてしまいパーツを傷つけることになります。車軸の締め付け具合がどうしても決まらず自転車の調子も悪かったので自転車屋さんに持っていくと、やはり車軸の締め付け過ぎだったとのことでした。自転車屋さんからは締め付け過ぎは最悪、ホイール交換(約1万円)になるので、加減をしっかりと覚えておくようにと教えてもらいました。

ママチャリ改造からママチャリ修理、そしてクロスバイクのレストアへ

こうして自転車屋さんの力も借りつつ、車体の軽量化、クロスバイク仕様のタイヤ装着、乗車姿勢の最適化、その他パーツの分解整備といった一通りの改造をなんとか終えました。素人整備なので、その後いくつかの小さなトラブルはありましたが、「片道12kmの自転車通学を、改造ママチャリで快適にする」との目標も、一応は達成しました(改造の効果は実感しましたが、さすがに毎日片道12kmは大変でした…)。また、副産物として、ママチャリ改造の過程で学んだブレーキ・シフトケーブルの交換やタイヤ・チューブ交換、パンク修理といった一般的な修理スキルのおかげで、家族の自転車に何か不具合があると私が点検をしたり必要なメンテナンスを行うようになり、自転車屋さんに行く機会がほぼゼロになりました。そして、これらの経験をもとに、知人の古くなったクロスバイクのレストア作業の依頼を引き受けました。ママチャリ整備の延長線上のものがほとんどでしたが、中には初めての作業に挑戦したりと困難もありました。ただ、今回はロードバイクのプロショップのメンテナンスDVDに基づき整備を行ったので、ママチャリ改造時代よりは精度が上がりました。対象のクロスバイクの状態が比較的良かったこと、もともとのポテンシャルが高かったこと(頑丈なクロモリ製フレームや信頼製の高いシマノ製コンポーネントなど)があり、部品代2万円で見違えるほど美しく、速い自転車になりました。

自転車への情熱を支えたもの

私が自転車整備に熱中できたのは、はじめは「ママチャリ改造」というチャレンジへの興味と、「自転車通学で節約する」という環境によるものでした。そこで学んだ経験が自転車の修理代(工賃)を節約できたり、自転車の整備を通じて家族や知人を喜ぶ姿につながることで、自転車整備がスキルとして実感できるようになりました。その後、プロショップが出している有料のメンテナンスDVDを購入して、より本格的な整備方法やプロの考え方を学ぶことで、「次はこんなことに挑戦したい」と、好奇心と向上心を刺激されました。そのおかげで、その後の複数のレストア作業を通じてさらに整備スキルが向上したのだと思います。

「苦にならない努力」の秘訣

自転車整備の経験談を通じて「苦にならない努力」の考察をしてきましたが、私にとっては「好きなこと」と「人が喜ぶこと」の2つがキーワードのようです。好きなことだから、失敗したり大変な作業でも前を向いて取り組める。人を喜ばせたいから、新しい知識や技術を学んだり、整備の精度を上げる努力ができる。冒頭の語学学習の例に当てはめると、「英語で面白そうなこと」と「英語で人に役立つこと」です。英語で面白そうなこととは、まさにこの自転車整備など、英語の世界で自分の趣味を学ぶということでしょうか。英語で人に役立つこととは、仕事で英語が苦手な同僚や上司を助けることかもしれません。そう考えると目標がぐっと近くになった気がして、今日から少しずつ前進しようと思えました。

資格試験に挑戦する受講生の皆さん一人ひとりにも、何かしらの「苦にならない努力」の経験があると思います。その背景にある努力の原動力が日々の学習へヒントになるのではないでしょうか。机に向かって勉強を続けることは、いくつになっても退屈になりがちで、エネルギーを要するものです。でも、その向こう側に何か大きな目的があれば、その目的自体が大きなエネルギーを生み出します。一歩ずつ、一日ずつ、前進していきましょう。

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