夏の終わり、次の1年のはじまり

公認会計士コラム

監修:森 大地(公認会計士)

大学在学中に公認会計士の勉強をはじめ、公認会計士論文式試験に一発合格。現在は、クレアールの公式YouTubeチャンネル「公認会計士対策ワンポイントアドバイス」にて、監査法人での仕事や試験対策の学習法などを紹介している。

公認会計士 森 大地

公認会計士試験の終わり

8月は、公認会計士論文式試験、税理士試験、社会保険労務士試験といった年1回しかない国家資格の試験が多く実施される時期です。公認会計士試験を例にすると、論文式試験は実質的な二次試験で、一次試験である短答式試験の合格も難関であるうえ、論文式試験の受験にたどり着くまでに平均して2〜4年くらいかかります。他の試験でも、合格を目指せるレベルまで達した状態で受験に臨むためには、やはり複数年の努力が必要でしょう。学生、社会人、受験専念問わず、資格試験にエネルギーを費やすのは大変なことです。受験された皆さん、本当にお疲れさまでした。

公認会計士の世界では、論文式試験の直後から各監査法人の採用イベントが始まります(採用面接は11月の合格発表後、合格者のみが進めるという仕組みです)。特に9月は各監査法人がかなりタイトなスケジュールで説明会や座談会、各種キャリア系イベントなどを開催しており、会計士受験生は息つく暇もなく大忙しです。私も今年は監査法人の採用活動を担当しており、9月の初めの時点で多くの公認会計士受験生とお会いしましたが、ほとんどの方は数週間前までの本試験直前の勉強モードから、就職活動モードに切り替わっていました。本試験で手応えがあった人も、そうでなかった人も、9月からはまた次の1年がはじまります。今回は、次の1年の目標設定について考えていきます。

合格後の1年:ゼロからのスタート

公認会計士試験に合格すると、多くの場合は監査法人で専門家としてのキャリアがスタートします。監査法人の場合、公認会計士試験の合格発表から2、3週間後には採用面接があり、内定通知後、早いところでは翌月から監査法人に入所します。ほんの1ヶ月前までの合格お祝いムードから一転、監査法人に入所してすぐに「会計士1年目」がはじまります。研修を終えて監査の現場に出ると、会計士歴3年目〜5年目くらいまでのスタッフ、7、8年目の現場主査、10年以上の統括主査、20年以上の監査責任者がいます。スタッフの異常に早いパソコン操作に驚いたり、現場主査と統括主査が話す高度な監査論点に耳を傾けつつ、とにかくわからないことだらけの監査実務を一つ上の先輩につきっきりになって質問しまくる、というのがよくある光景です。監査法人の各種システムや実務のやり方に慣れていないこともありますが、わからないことだらけな一番の理由は公認会計士試験の知識だけでは監査実務をカバーしきれないからです。試験で得た知識は参考程度に、実際には実務で使用する監査マニュアルや会計基準(適用指針)を読み込みながら、手探りで一つ一つの監査手続を進めていくのです。1年が経ち、次の新人が入ってくる頃に、1年前の自分が実施した監査手続をすらすらと説明できるようになっていれば、順調な成長です。これを毎年繰り返し、専門家として1歩1歩、知識と経験を積み重ねていくことが求められます。

不合格後の1年:新たな勉強スタイルと再出発

残念ながら年1回の論文式試験に不合格だった場合、次回に向けて1年間で合格水準までレベルアップしなければなりません。不合格だった年と同じスタイルで試験に望んでも、基本的には同じ不合格という結果しか得られません。不合格の原因を改善するためには、勉強スタイルを抜本的に変える意識が必要です。たとえば、ある苦手科目が足を引っ張って不合格だった場合、苦手科目へのアプローチを修正します。各科目まんべんなく勉強時間を使っていては、苦手科目はなかなか改善しません。思い切って、丸1、2ヶ月は苦手科目特訓期間を設けるなど、メリハリをつけた勉強時間の活用が効果的です。

受験期間が長期化するほど自分の勉強スタイルに固執しがちで、特に長期の不合格者と短期合格者の間には勉強の目標設定に明確な違いがあります。長期の不合格者は膨大な試験範囲をもれなくカバーするために「広く、まんべんなく」勉強する傾向があり、短期合格者は「狭く、集中的に」勉強する傾向があります。具体的には、「重要度が高い論点を中心に、集中的に」勉強するのが短期合格者の思考回路であり、クレアールが提唱する非常識合格法でもあります。注意したいのは、後者が楽とかいう話ではないことです。不合格者も合格者も懸命に勉強時間を捻出して本試験に望んでいる人がほとんどで、ここでは勉強への意識の差によって本試験の得点力に差がついてしまうことを指摘しています。効果的・効率的に得点力を伸ばすため、勉強スタイルを一新して、合格者マインドで次の1年に臨みましょう。

点と点が結ばれる時

様々な事情によって資格学習を断念する人も一定数います。はじめから○年と決めて挑戦して叶わなかった人。想定外に長引いてしまい、悔しながらに断念した人。想像していた合格後の未来からの軌道修正が余儀なくされ、途方に暮れてしまうかもしれません。私の尊敬するアップル社の共同創業者スティーブ・ジョブズは、有名なスタンフォード大学の祝辞で以下を述べました。

「将来をあらかじめ見据えて、点と点をつなぎあわせることなどできません。できるのは、後からつなぎ合わせることだけです。」

これは、スティーブ・ジョブズが大学退学後に興味本位で受けたカリグラフィー(文字を美しく表現する手法)の授業が初代Mac PCに搭載されたことを例に、大学の退学やカリグラフィーの受講は将来を考えたものではなかったが、結果的に自分の財産となり、役に立つ時が来たという教訓を伝えたものです。

私にも似たような経験があります。今でこそ公認会計士として監査法人やクレアールで仕事をしていますが、大学時代は留年こそしなかったものの成績下位で就職活動では何十社も受験して1社も内定を貰えず、途方に暮れていました。見かねた父が公認会計士の資格を紹介してくれたことをきっかけに一念発起し、大学4年生の終わりからその後の浪人生活を経て公認会計士試験を受験しました。受験期間中は就活で味わった悔しさをバネに様々な本を読み漁り、これまでの人生を振り返る時間としても活用しました。その時に本で出会った様々な言葉が今の自分を支えてくれているし、いち合格者として受講生の皆さんのお役に立つための糧となっています。資格試験の結果に関わらず、本気で合格を目指した受験期間の努力は皆さんの人生の財産として残り続けます。その点がいつかまた別の点とつながることを信じて、新たな1歩を踏み出していきましょう。

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