前進するために、変化し続ける

公認会計士コラム

公認会計士試験合格者 森 大地

 

失敗体験から抜け出せない理由

人は大きな失敗を経験すると、自信を喪失し、それまでできていたことができなくなったり、行動を起こす気力がなくなったりすることがあります。私の場合は、約1年前に起きた所属する監査法人での大失敗により、文章を書くことへの自信を失いました。公認会計士試験合格後、クレアールでの合格者ブログや監査法人内での会計士受験生職員向けメールマガジンなどを執筆する機会を頂きました。内容を評価いただいたり、読者が少しずつ増えたりと、執筆活動は順調に進んでいました。ところが、監査法人のメールマガジン1年目を終えた頃、会計士受験生職員向けサポートを共に行っていた同僚から思いもよらぬ一言を聞いたのです。「メールマガジンは非常に評判が悪く、一定数は受信拒否をしている。このまま続けるのは難しい」。非常にショックでした。自分の経験を活かして人のために役立ちたいという一心で始めた活動を、全否定された感覚でした。同時に、これまで積み重ねてきた執筆活動のすべてを否定されたようで、とても悲しい気持ちになりました。それからしばらくの間は「善意で文章を書いても、また拒絶されるのではないか」と、執筆することに対して恐れを抱いていました。

心機一転、編集長として1年を過ごす

メールマガジンは結局、当初私が一人で執筆していたものから、編集部としてのチーム体制で複数の記事を掲載する形に変更されました。その際、上述の同僚から「内容は改善する必要はあるが、これまでの執筆経験を活かして編集長をお願いしたい」と、私を継続して使ってもらえることになりました。まずは徹底して前年度の配信を振り返り、徹底的に反省しました。ほとんど会ったことのない受験生職員に対して一方的に伝えたいことを書いている面が強く、本当に求めている情報が届いていないことがわかりました。受験生職員にとってほとんど知らない私から説教じみた話を聞くのも苦痛だったということがわかりました。同じメッセージでも、相手を知り、相手の真意を汲み取れる関係でなければ、意図が伝わらないことを知りました。こうした反省点をもとに、合格したてのフレッシュな編集部員を中心に新メールマガジンの配信を開始しました。新体制で配信を毎月継続し、合格発表の2月でようやく今年度の配信を締めくくることができました。

一度失った自信は取り戻せないが・・・・・・

編集長としての1年を振り返ると、私自身はほとんど記事を執筆せず、月に2回行われる企画と編集の会議の準備や進行、編集部員が執筆した記事をレビューし、全体の編集を行うという役割を中心に行いました。編集長とはいえ前年度に執筆で失敗していることから、編集部員からの信頼はゼロからのスタートでした。編集部員からは「レビューのコメントが長過ぎる」「意図がわからないコメントが多すぎる」など、批判も多く受けました。ただ、執筆への自信を失っても、新たな役割が順調に進まなくても、一つだけ貫いていたことがあります。それは、一人でも多くの受験生職員に役に立ち、一人でも多くの合格者を輩出したいという思いでした。その情熱から、時には先の同僚と1時間以上にわたり口論になることもありました。でも、彼にも熱い思いがあり、それが同じ方向を向いているから、話の終わりには必ず合意し、お互いの熱意に感謝し合っていました。なんだか文字にすると気恥ずかしいですが、本音で語り合う仲間を得られたことは大きな財産でした。次第にその思いが少しずつ編集部員にも伝わり、私自身もレビューに対して工夫をすることを続けた結果、メールマガジンのコンテンツの質も向上させることができました。

失敗を乗り越えるとは、新たな自分を見つけること

監査法人での大失敗、すなわちメールマガジンでの執筆での自信喪失は、私の執筆活動において未だにトラウマになっています。「大失敗」までは傍若無人な性格から自由きままに執筆していましたが、それ以降は慎重に文章を書くようになりました。こうあるべき、というメッセージから、こういうケースでうまくいく場合もある、という文脈に変わったように思います。精神的な支柱を求める受験生にとっては、前者の方がかえって励まされるかもしれません。一方で、経験談という事実を淡々と述べ、読み手の受験生がそこから何か学びを得られるのであればそれでよしとする後者も、一つの正解ではないかと思います。私がこの経験から学んだのは、人生とは不可逆的だということです。自分にとって大きな失敗を経験したとき、それ以前の自分に戻ることはできませんでした。でも、失敗を経験したからこそ得た学びは確実にありました。あとは、それを活かすかどうか。私は前進を続けるために、これからも変化し続けようと思います。

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