合格後4年目を迎える今、もっと勉強がしたい

公認会計士コラム

公認会計士試験合格者 森 大地

前期調書がベースのスタッフ業務、理解が問われる主査業務

監査法人に入所して、もうすぐ5年になります(最初の1年間は、試験合格前のアシスタント職でした)。監査法人に入ると、1年ごとに、ひとつずつ難易度の高い専門業務を任されていきます。専門職(公認会計士試験合格者)4年目になった私は、会計監査の現場リーダーである「主査」という役割を任されました。

これまでは、担当した財務諸表項目(勘定科目)の監査手続を行うため、例えば在庫(棚卸資産)なら、クライアントのビジネスの在庫部分について理解し、それらに対する監査手続を実施できていれば十分でした。必要な監査手続は、前年の監査調書や監査マニュアルを見ながら実施することが多いため、それらを参照しながら手続を進めていけば大きな問題はありませんでした。

主査になると、すべての財務諸表項目とともに、すべての監査手続に対する理解が求められます。すべての監査手続とは、実際の数値検証作業(実施段階)だけでなく、会社のどこに財務諸表を誤るリスクがあるか、それらに対してどのような手続を実施するのかという監査計画(計画段階)から、監査手続の総括や監査報告書の発行といった完了手続(完了段階)までの一連の過程です。計画段階や完了段階にも前期調書がありますが、安定した会社であっても、会社全体を見渡せば、毎年必ずどこかに変化があります。私が今年担当した会社では、新たな会計基準の適用初年度であったり、会社の内部統制(社内のチェック機能)が大幅に変わったりと、比較的大きな変化がありました。この場合、前期調書は、ほとんど参考になりません。

改めて感じる、資格試験の価値

このとき、一番頼りになるのが監査基準です。監査基準とは、財務諸表監査を実施する上で守らなければならない規則であり、公認会計士試験の試験範囲でもあります。受験生時代は監査基準を学んでも概念的な話が多く、なかなか理解できませんでした。一方、監査実務の経験を積み、より細かな個別の論点を習得していくと、「教科書で言っていた概念はこのことだったのか」と、ふと腹落ちする瞬間があります。棚卸資産の内部統制の整備評価手続、運用評価手続の違い、それが財務諸表監査に与える影響はどのようなものかなど、個々の実務ベースで学んでいくことで、会計監査のフレームワークを深く理解することができました。前述の内部統制の大きな変化に対しては、①財務諸表監査で依拠すべき内部統制は漏れなく評価されているか(リスク評価手続)、②新たな内部統制が会社のマニュアルどおりに適用されているか(整備評価手続)、③1年を通じて、新たな内部統制が実施されているか(運用評価手続)という、「監査論テキスト(公認会計士講座)」の視点から検討することで、混乱なく対処することができました。

資格試験の先の勉強

専門職に必要な資格試験を合格すると、その先は実務経験をどれだけ積めるかが、専門家としての価値になります。もちろん、実務を積み重ねるうえで、必要な専門知識は自然と増えていきます。それらは、製造業でいうところの、従来製品の生産活動です。必要な材料を仕入れ、決まった製品を作ることです。私が今、大切だと感じているのは、より良い製品を作るための「研究開発活動」です。原材料や生産方法を研究し、改良していくことです。

実務を積み重ねて感じた疑問を、業務の外で深く考える時間を設けてみる。上記の内部統制の話であれば、監査基準をもう一度読み込んでみる。過去の基準改訂の歴史を遡り、その背景を理解する。さらには他国の制度も調べ、概念の理解を深める。このように、資格試験で学んだ基礎をより深く堀り下げていくと、専門家としての教養が深まり、実務においては応用力が高まります。なにより、個々の作業に専門家業務としての意義を感じることができ、誇りを持って仕事に取り組むことができます。

もっと勉強がしたい

資格試験合格後の自主的な勉強が、日々の業務の充実につながることを述べました。私の勉強継続法は、「自分のためでなく、誰かのためにする」です。私には、クレアールの会計士受講生へのブログ配信、動画配信や相談対応で、生きた監査理論を伝えたり、会計士の魅力を本音ベースで語る機会があります。そこでのフィードバックが、何よりの勉強モチベーションになります。受講生の皆さんも、合格後の将来を想像し、自分以外の誰かのために勉強してみてはいかがでしょうか。同業の方も異業種の方も、合格後の継続的な勉強により、保有する資格の価値を、自らの努力で高めてみませんか。

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