80.2%と1.4%__
さて、この数字は何を表す数字でしょうか。
80.2%は女性の育児休業取得率、1.4%は男女の介護休業取得率(*1)です。両者を簡単に比べることはできませんが、高齢化が叫ばれるこの世の中で、介護休業の取得率がなぜこれほど低いのでしょうか。
今回は、介護休業に関する補助金のニュースから、介護にまつわる法律改正や介護と仕事の両立について見ていきましょう。
介護休業、15日以上で同僚への手当補助を加算 厚労省
【2月10日 日本経済新聞より】
参照:介護休業、15日以上で同僚への手当補助を加算 厚労省
厚生労働省は2025年度に、中小企業が介護休業中の社員に代わる人員を補充したり、業務を代わった同僚に手当を支給したりする際の補助金を増額する。介護休業を取得しやすい環境を整え、労働力の流出を防ぐ。(以下省略)
報道された内容によると、ポイントは次の3点です。
- 現在、介護休業を5日以上取得した場合に会社に補助されている介護に関する補助金を拡充し、休業の利用日数に応じて増額する仕組みを導入する。
- 具体的には、介護休業を15日以上とった従業員1人につき、業務を代替した同僚への手当向けに10万円、新規雇用に30万円等の補助がある(正式には予算成立後に決定)。
- 制度拡充の背景には「介護離職」を防ぐねらいがある。
増える介護と、それに伴う離職の現状
近年、日本では高齢化が進み、介護を必要とする人が増加しています。
その結果、介護をしながら働く人は364.6万人にのぼり、10年前と比べて70万人以上も増えていることが調査(*2)で分かっています。
さらに、介護と仕事の両立が難しく、年間約10万人もの人が介護を理由に離職しているとのデータもあります。
10万人という数字は想像がつきにくいかもしれませんが、年間労働日数(240日)から平均すると、一日あたり約400人の方が離職している計算であり、決して無視できない数字であることが分かります。
法律はあっても、利用者が少ない現実
なぜ多くの介護離職が起こっているのでしょうか。介護と仕事の両立を図るための制度がないのかというと、実はそんなことはありません。
育児・介護休業法という法律では、介護と仕事の両立を図ることを目的として、介護休業や介護休暇、勤務時間外(残業)の免除、短時間勤務等の両立制度の措置といった様々な制度の導入を会社に義務付けています。
しかし、厚生労働省の調査(*1)では、介護をしながら働いている方のうち、実際に介護休業を取得した人の割合はわずか1.4%、介護休暇の利用率も2.7%にとどまっているのです。
介護に関する制度の利用率が低い3つの理由
それでは、なぜ「法律はあっても、実際に利用する人は少ない」という現状があるのでしょうか。主な理由として、次の3点があると考えています。
1つめは、個別の事情把握の難しさです。育児休業と異なり、介護は本人の申出が無ければ会社や上司が実情を把握しづらい特徴があります。周囲が気付かないため、本人からも相談ができず、結果的に無理をして(打ち明けることなく)働くか、退職してしまうという現実があります。
2つめは、認知度の低さです。育児についての各種制度は知っていても、介護に関する制度は知らない方も多いのではないでしょうか。
そして最後に、介護に直面する方の属性です。調査(*2)では、仕事をしながら介護をする方のうち、一番多い年齢層は「50~54歳」という結果が出ています。
会社から高いスキルや役割を求められている方も少なくない中で、両立させながら働くことの難しさがあると考えられます。
2025年4月の法律改正で介護と仕事の両立を図る
この状況を打開する策として、2025年4月、育児・介護休業法が改正されます。ねらいは「制度を知り、活用・理解を促す」こと。
例えば、社員から会社に介護に直面していることの申し出があった際や、(介護に直面してなくても)40歳になった段階で、介護と仕事の両立に関する制度の説明が義務付けられるほか、会社全体の雇用環境の整備も求められます。
さらに、勤続6か月未満の社員でも介護休暇を利用できるようになります。
また、冒頭にお伝えしたニュースであるように、会社に対する補助金を拡充することで、介護休業その他の制度活用の促進をより図っていこうと様々な施策が打ち出される予定です。
介護しながらも働ける環境づくり
介護は、いつ直面するか分かりません。また、育児と比べて長期化することも多い中で「介護をするか、退職か」という0か100かという選択肢ではなく、「どのように両立させるか」考えることはとても重要だと考えます。
そのために、まずは介護について「知る」こと、そして「言い出せる環境・雰囲気を作る」ことが必要であり、会社からの働きかけはもちろんのこと、社員同士の協力ができるような体制づくりが不可欠です。
法律改正や補助金の拡充をひとつのきっかけだと思います。
「自分には関係ない」という意識から「自分もいつかは直面するかも」と捉え、より一人ひとりに寄り添った体制づくりが実現されることを願ってやみません。
*1 厚生労働省「雇用均等基本調査」(2022年)
*2 総務省「就業構造基本調査」(2022年)