悩みは、長所で解決する

公認会計士コラム

公認会計士試験合格者 森 大地

マルチタスク型と、1点集中型

受験生時代から私は、どうしても計画的に物事をすすめることができません。計画をしてすぐのやる気があるうちは勢いよく勉強を進めていくものの、次第に勉強時間が短くなり、気づけば計画を見直してまた火をつける…ということの連続でした。計画性もそうですが、複数の試験科目を同時並行的に進めていくマルチタスクが苦手だったのだと思います。その裏返しとして1点集中は得意で、ある時期、会計士試験の法律科目である企業法を特訓しようと肢別問題集(○×問題集)だけを丸2ヶ月くらい毎日繰り返し解いていたことがあります。試験の対象で700~800条くらいあるその問題集を来る日も来る日も解き続けた結果、直後の短答式試験では100点満点中、9割近くの点数を取ることができました。

悩みは、短所から

監査法人でキャリア5年目を迎えようとしている私は、昨年頃から任され始めた主査(監査の現場責任者)の仕事にようやく慣れてきました。一方、メインで担当する大規模上場会社では、監査責任者を巻き込む会計論点が発生したり、IFRS導入支援業務が並行したりと、忙しさは増していきました。同時に、他のクライアントの主査業務も現場責任者として回していかなければいけません。やることが雪だるま式に増え、気づけばほとんどの業務が遅延しているという事態になっていたのです。普段は監査業務にやりがいを持つ私も、とにかく目の前のタスクに追われる毎日でモチベーションも何もなく、溜まりに溜まった業務に鬱屈する日々を送っていました。

1枚のA4用紙に救われる

業務が溜まる日々に悩んでいたある日、キャリアコーチ(所属部署の管理職)に相談してみることにしました。3年間の米国出向経験や大規模上場会社の統括主査を担当するなど、非常に優秀な会計士であるため、私より遥かに計画的で正確な仕事の進め方をしているものだと思っていました。ところが話を聞いていくと、私と同じ時期に同じような悩みを抱えていたといいます。タスク管理のためにエクセルや手帳、仕事ノートなど様々な手法を試しては失敗してを繰り返したどり着いたのが、「1枚のA4用紙」でした。白紙のA4用紙に手書きでクライアント別のタスクを期日をつけて記載するというシンプルな方法ですが、タスク一覧が一目瞭然になること、仕事用PCに挟んでおくことで業務の開始時と終了時に必ず見ることになり、その日のやるべきことの確認と一日の振り返りができるなど、多くのメリットがあったとのことでした。優秀なこの方がタスク管理に悩んでいたことに驚きつつ、「すぐに試してみます!」と伝え、翌日からこの方法を取り入れてみました。

効果は、抜群でした。まずは、キャリアコーチが言っていたようにタスクを一覧化することにより、「仕事が溜まっている…」という悩み(感情)から「これとこれを、いつまでにやる」という解決策(事実)に変わったことで、仕事に対する意識がかなりポジティブになりました。さらにこの紙には、タスクが終わったら線を引き、かけなくなるまで使ったら捨てる、というルールもありました。終わったタスクに線を引くというシンプルな作業は、意外にもかなりの達成感があり、その日の終わりに見返す時、ちょっとした自信になっています。また、タスク管理で仕事量が減るわけではないものの、明らかに取り組む意識が変わりました。「あれもこれも終わらせなきゃ」から、「この時間はこれをじっくり仕上げよう」と、本来あるべき働き方が実践できるようになったのです。

自分の活躍しやすい環境を整える

ほんの1ヶ月前までの鬱屈が嘘のように、A4用紙を使うようになってからの仕事は集中して取り組めました。その甲斐あってか、内部統制に関する助言に対してクライアントから感謝されたり、大規模上場会社チームの上司から労いの言葉を頂くことがありました。自分の活躍しやすい環境を整備し、自分の出せる力を発揮し、周囲から感謝される。仕事の悩みが多かった1年でしたが、キャリアコーチへの相談をきっかけに、自分が思い描く理想形の働き方が実践できました。

人は誰しも、強みと弱みがあります。悩みがあるときはどうしても弱みにばかり目が行きがちですが、弱みを解決するには、強みを発揮しやすい環境を整備する方が大切だと思うのです。私のように計画が苦手な受験生も、前述のように細かく期間やタスクを区切ってなるべく1点集中の計画にすることで、勉強時間を稼ぐことができます。何度も書いて暗記する作業が苦手な人も、暗記箇所をカラフルに線引して繰り返し読むようにすることで、効率的に記憶を定着させることができます。最後に問われる試験問題は受験生共通でも、試験勉強のスタイルは自由自在です。自分の長所を生かした勉強計画で、自分の活躍しやすい環境を整えましょう。

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