2025年10月、税理士・行政書士の方が逮捕されるという、衝撃的なニュースが報道されました。
どのような行為で逮捕に至ったのかと記事を読んでみると、そこには弁護士、司法書士、税理士、社会保険労務士、行政書士などの法律専門職(士業)の間にある、業務範囲の壁が深く関わっていました。まさに、いま資格取得の勉強をされているみなさんも関心の高いテーマではないでしょうか。
今回は、税理士の方が不法行為で逮捕されたニュースから、その背景と専門職の線引きについて見ていきましょう。
無資格で社会保険労務士の業務をした疑い、税理士と行政書士を逮捕
10月20日 朝日新聞より(抜粋)】
無資格で社会保険労務士の業務をしたとして、大阪府警は20日、大阪市の税理士法人の代表で税理士と、法人の従業員で行政書士を社会保険労務士法違反容疑で逮捕し、発表した。(以下省略)
https://www.asahi.com/articles/ASTBN2DJTTBNPTIL005M.html
報道された内容によると、ポイントは次の2点です。
- 2人は共謀し、顧問先3社からの依頼で計4万円の報酬を得て、社労士資格がない中で大阪労働局などへの労働保険の申告業務を代行した疑いがある。
- 大阪府警は今年9月の家宅捜索で押収した資料などから、容疑者らが2022年4月以降、同様の業務を340件ほど引き受け、計約400万円を得ていたとみて調べている。
各士業に設定されている「独占業務」
みなさんは「独占業務」という言葉を聞かれたことがあるでしょうか。
独占業務とは、その資格を持つ者だけが法律で許された業務のことです。具体的には、弁護士は法律事務全般(訴訟代理など)、税理士は税務代理・申告、社会保険労務士は労働・社会保険の手続き・相談などを専門に行います。
言い換えれば、これらの業務で報酬を得ることができるのは、法律で定められた資格を持つ者だけということになり、本来はその区分に沿った業務を行い、報酬を得ることとされています。冒頭のニュースでは、この独占業務の範囲を超えて業務を行い、報酬を得たことが法律違反とされました。では、なぜこのような事件が起こるのでしょうか。
なぜ権限の「あいまいさ」が生まれるのか?
現実のビジネスや生活で起こる問題は、複数の法律分野にまたがることがほとんどです。
例えば、会社設立時には、定款作成(行政書士・司法書士)、税務署への届出(税理士)、社会保険の加入手続き(社労士)など、多くの士業の知識が必要です。各士業の権限は法律で定められていますが、その隙間や、複数の業務が関連する部分は「あいまいなグレーゾーン」として残ってしまいます。
このあいまいさのため、お客様(クライアント)側も、どの専門家に何を依頼すべきか明確に区分できていないことが多くあります。結果として、依頼を受けた士業が、お客様の要望に応えようとして、本来の権限を超えた業務に踏み込んでしまうケースが発生するのです。
デジタル化する社会がもたらす弊害
もう一つの原因が、デジタル化する社会です。
いまやインターネットで法律知識が手軽に入手できるようになり、DX化で業務効率の推進、オンライン申請環境の整備が進められています。
これまでは専門家だけが行っていた仕事が、AIやシステム、あるいは一般の人でもできるようになりつつあることも、本来の権限を超えて行ってしまいかねない一つの要因といえるでしょう。
時代が求める「線引き」と「オールインワン」の狭間で
お客様の利便性を考えれば、複数の士業が連携し、複雑な手続きをまとめて引き受ける「オールインワン」型の士業事務所をつくるのが理想的です。しかし、すべての士業事務所でこれが可能になるわけではありません。規模や専門分野によっては、オールインワンでの対応が難しい場合もあります。
では、専門家はどうすべきでしょうか?
最も重要なのは、「自分の専門分野を極め、できないことは素直に認め、専門外のことは信頼できる他の士業に繋ぐ」という線引きを徹底することです。
そのためには、お客様の要望に「No」と言う勇気、専門外の業務には手を出さない倫理観が必要であり、専門家自身が線引きをもって業務にあたるほかないのではないかと、私は考えています。
まとめ
今回は、税理士の方が社会保険労務士法を違反したというケースを取り上げましたが、当然ながら、逆もあり得ます。私自身、社会保険労務士としての仕事を行う中で、あらためて業務範囲と自身の倫理観の重要性を意識する機会となりました。
資格勉強中のみなさんは、将来、専門家としてどのような業務でお客様をサポートしていきたいでしょうか。また、信頼できる他の専門家との連携する「プロとしてのネットワーク」を築くことも、この時代を活躍するカギとなるでしょう。
法律知識に加え、高い倫理観と線引きを持つプロ意識を共に磨いていきましょう。


