スマホ時間を減らして、生命力を高める

公認会計士コラム

公認会計士 森 大地

休日の大半をスマホに費やす異常

気づいたらスマホ依存症になっていました。スマホを手に取ることから一日がはじまり、移動中もスマホ、食事中もスマホ、仕事が終わってくつろぐ時間もスマホ。一日の締めくくりも当然、スマホです。もちろん、スマホ時間の内容によっては有意義なこともあるでしょう。私も読書の時間が激減している危機感から、最近、電子書籍の読み放題サービスに登録しました。おかげで少しは読書時間が回復しましたが、依然としてスマホ時間の大半は、見る必要のないニュースやSNS、浪費のもとになるオンラインショップのブラウジングでした。

そんな日々に嫌気が差していたある休日、ふと、スマホを眺めている自分を客観視しました。金属の塊を手にしてただベッドに寝転がって自宅時間の大半を過ごしているだけの自分の姿に、「なんて不自由な生活だろう」と思いました。それなりに自由なお金と時間があり、体力も十分にもかかわらず、休日の大半をベッドの上で過ごしていることの異常さを感じたのです。

スマホが時間を奪う理由

近年、スマホを通じたサービスは目覚ましく進化しています。SNSや動画配信サービス、ゲーム、オンラインショッピングから、勉強アプリ、家計簿アプリ、タスク管理アプリといった実用系まで多種多様です。勉強や仕事の効率化といった自己投資の分野も、書籍や講座より、スマホを選ぶ傾向がどんどん増えていると思います。

ただ、現実はどうでしょうか。スマホで講義を見ているとき、SNSの通知が気になり、気づいたらSNSに一時間を費やしていた。スマホで電子書籍を読んでいるとき、ふと頭に浮かんだ欲しいものをネットで調べだしたらあっという間に時間が過ぎていた。タスク管理のためにスマホを頻繁にチェックするつもりが、かえって無駄なスマホ時間が増えてしまった。少なくとも私には、これらの経験が数え切れないほどあります。

なぜ、スマホはこれほどまでに我々の時間を奪うのでしょう。それは、「消費者の時間」がスマホ側の利益になるからです。You Tubeや無料ゲームの広告時間は、ユーザーが15秒とか30秒の広告を視聴することにより、動画・アプリ配信会社へ広告料が入る仕組みになっています。基本料無料の課金ゲームでは、「デイリーログインボーナス」のように、毎日アプリを起動することに対してアイテムやポイントなどの報酬を与えることがあります。これは、課金をするようなヘビーユーザーを増やすために、毎日の報酬でプレイを日常化させ、プレイ時間を伸ばそうとする戦略です。新製品を紹介するネットニュースのほとんどは、「案件」と呼ばれる広告記事です。Webライターに新型スマホを発売日から2週間前くらいに貸与してレビュー記事を書かせるのは、「消費者目線の体験談」という形の広告宣伝活動なのです。

スマホ時間は、行動エネルギーを奪う

インターネットの世界は、自由です。検索ワード一つで、世界中を旅することができます。新しい知識を得たいと思ったら、世界のどこかの誰かが無料で動画やブログ記事で紹介してくれています。娯楽の世界は良質で低価格なサービスが溢れています。世の中は本当に便利になりました。でも、この中に一つ欠けているものがあります。それは、「現実」です。

You Tubeで何百回、キャンプ動画を観ても、たった一回のキャンプ体験とは比べ物にならない違いがあります。趣味の自転車修理の知識をネットでどれだけ得たとしても、ママチャリのパンク修理を試行錯誤してみることは大きく異なります。何度も観たくなるような素晴らしい恋愛ドラマも、素敵な恋人と過ごす何気ない一日とは全くの別世界です。

スマホ時間を過ごしていると、無意識のうちにあたかも画面の中の世界が現実であるような錯覚を感じます。自分が何でも知っているように思えたり、様々な経験をした気がすることがあります。スマホは、そのような誘惑で私たちの時間を一分でも一秒でも多く奪おうとしています。その結果、犠牲になるのは、「現実」の時間です。

「現実」は、失敗からはじまる

先日、はじめてソロキャンプをしました。1ヶ月前にバイク仲間と行ったのが初めてのキャンプ経験でしたが、「いつか手軽にソロキャンできるようになりたい」と思い、ソロキャンにチャレンジしました。新しいことには失敗がつきものです。まず、行きの高速道路でバイクの荷台に積んでいた特大キャンプバッグがずり落ちそうになりました。走行中に荷物が落下すれば自分だけでなく後続の車両の事故につながる大惨事になりかねません。慌てて路肩に停めて荷物を積み直し、出発前の安全確認を猛省しました。

キャンプ場に到着してからは、BBQをやるつもりが炭を買い忘れ、やむを得ず焚き火で食材を焼いて食べました。焚き火は温度が高すぎるのでBBQのような網焼きには向いておらず、丸焦げになったり、早く上げ過ぎて半生の状態で食べたりしました。今回の旅先である「ふもとっぱらキャンプ場」(静岡県富士宮市)では夜の冷え込みが厳しく、夜中は氷点下と極寒でした。冬用寝袋や寝袋用毛布などの対策をしたものの、寒さで何度も目が覚めました。体を縮めて少しでも体温と必死になりながら、朝日を待ちました。

また目が覚めてしまったかと思っていたら、テントの外が明るくなっていました。時刻は7時前。テントを出ると一面、銀世界でした。氷点下で霜が降りていただけなのですが、広大な土地が真っ白になった姿は圧巻でした。暖を取るために薪を焚べていると、富士山から朝日が差し込んできました。「あ、もう朝か。日が暖かいなあ」と、しみじみと富士山の日の出を味わいました。

だんだんとキャンプにも慣れてきて、朝食はガスコンロと調理器具で用意したご飯と目玉焼き。焚き火をしばらく楽しんだ後の早めの昼食は、事前に食材を用意して作ったペペロンチーノ。夜の極寒を乗り越えたこと、限られた道具で工夫を重ねて調理したこと、富士山と広大な自然を目の前にしていることなどから、普段の何倍も美味しく感じました。

「現実」とスマホの違い

You Tubeのキャンプ動画は面白いです。センスのあるキャンプ道具や美味しそうな料理たち、テント設営から焚き火、調理、撤去までさくさくと進めていくかっこよさ、映像から伝わる大自然の美しさ。これらが凝縮されているから、短時間で満足感を得ることができます。「現実」のキャンプは、前日に大量のキャンプ道具を必死にバッグに詰め込むところからはじまり、テント設営・撤収や調理器具の準備・洗い物、長時間の移動や帰宅後の後片付けまでフルコースです。要所要所で「楽しい!」と感じる瞬間がありますが、大半の時間は淡々と時間が過ぎていきます。ソロキャン初回の今回は、失敗やピンチに対してどう対処するかに頭を悩ませる時間が多かったように思います。

それでも、「現実」は素晴らしかった。富士山の日の出を見る直前、焚き火をしながらコーヒーを淹れていました。コーヒーが大好きなので、キャンプにもお気に入りのコーヒー豆を持ってきて、現地で豆を挽きました。「おいしくなれ、おいしくなれ」と気持ちを込めながら携帯用の小さなコーヒーミルでゴリゴリと豆を削り、ペーパードリップでマグカップにコーヒーを注ぎました。日の出前でまだ薄暗く、霜による銀世界が広がる中、焚き火で暖をとりながらチェアに深く座りコーヒーを一口飲んだ瞬間、「来てよかったなあ」と心から思いました。前日の苦労も日常のすべても忘れて、ただこの瞬間、今という瞬間をじっくりとかみしめました。

スマホ時間を減らして、生命力を高める

はじめてのソロキャンプを終えてから、スマホに対する意識が少しずつ変化しました。You Tubeで自転車整備動画ばかりを観て先送りしていた、自分の自転車のメンテナンスをする。何となく暇つぶしに適当な動画を観ていた時間を、読書の時間に充てる。Uber Eatsを使いたくなった時、近所の飲食店に食べに行く。スマホの時間を減らすと、「現実」の時間が増えます。現実の世界には失敗や煩わしさも多いですが、行動そのものが体験として財産になる点が大きく異なります。体験自体が達成感になったり、体験を繰り返すことによってスキルや能力を身につけることもできます。

スマホは、時間を奪うことを目的にしている道具です。無料で便利なサービスを使っているうちに、「スマホに使われている」状態になっていませんか。時間だけでなく、行動力まで奪われていませんか。行動力を奪われ続けると、無気力になってしまいます。逆に、少しずつ「現実」時間を増やしていくと行動が増え、行動を積み重ねるほど生命力(生きている実感、エネルギー)が高まります。やりたいことを実現するためには、モチベーションが高い日も低い日も、淡々とやるべきことをやるためのエネルギーが必要です。スマホ時間を減らして、生命力を高めましょう。

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