非日常から、日常の質を高める

公認会計士 森 大地

待ちに待った、北海道バイク旅

上司との交渉の末に取得した一週間の夏休みで、念願だった北海道バイク旅にいきました。懸念だったプロジェクト対応は目標の進捗までは行かなかったものの、チーム全員で必死に働き、とりあえずの区切りをつけることができました。休暇後に残りの作業でまた忙しくなりますが、自然に囲まれる北海道で一週間たっぷりとリフレッシュをして、心身ともにフレッシュな状態で後半戦に挑もうと思います。

肝心の旅はというと、バイク一人旅らしい、山あり谷ありな一週間でした。一人旅では、常に自分が試されます。せっかく作った旅行計画も、当日の天候や体調、お店の臨時休業などで白紙になってしまします。こうした想定外をどう捉え、どのように対処するかによって、残りの旅の良し悪しが決まるではないでしょうか。今回は北海道バイク旅を振り返り、そこから得られた学びを考えていきたいと思います。

初日は、大雨と極寒に耐える

今回の旅では、事前に準備していたのは行き帰りのフェリーくらいで、宿泊先などはその日ごとに決めました。目的地も、職場の後輩からおすすめされた知床国立公園のある知床半島くらいで、あとは流れに身を任せようと考えていました。とりあえず、北海道の初日はできるだけ知床に近づこうと思い、日没までに到着できそうな帯広(苫小牧から約180km、約3時間)を最初の目的地にしました。

ところが、初日の天候はあいにくの雨。雨具をフル装備しての走行でしたが、高速道路での雨天走行は視界も悪く、なにより夏とはいえ北海道の郊外はとても気温が低いのです。ある程度の防寒は準備していたのですが、大雨の影響で予想を上回る寒さに震えながら走りました。最も不運だったのは、サービスエリアで休憩中に雨が止んだので雨具の一部(靴用の防水カバー)を外したら、そのあと再び大雨が降り出したことです。手袋はもともと雨具がなくびしょ濡れでしたが、靴は防水カバーでほとんど水を防げていたものの、先ほど外してしまったためにどんどん水が入ってしまいました。この状態で1時間以上走りましたが、手足から体温が奪われ、体力的に辛く厳しい時間になりました。

もう一つ、手袋とバイク用の靴は、1セットずつしか持ってきていなかったので、初日にびしょ濡れになってしまうと替えが効きません。ホテルへ到着したあとは、手袋と靴をドライヤーで必死に乾かしました。それ以外にも、バッグも雨ざらしになっていたため、一週間分の衣類、タオル類も初日にすべてびしょ濡れにってしまいました。ただ、旅行中に何かしらのトラブルが起きることは想定していたのと、幸い翌日以降がすべて晴れの予報だったので、体力は消耗しましたが気分はそこまで落ち込みませんでした。手袋と靴は乾燥し、衣類はホテルのランドリーで洗濯・乾燥すれば大丈夫です。問題には対処して前を向き、翌日に待つ晴れた北海道の景色に心を躍らせながら北海道の初日を終えました。

延々と続く北海道の一本道と、思索の旅

2日目の目的地はいよいよ知床半島(帯広から約270km、約5時間)です。予報どおり晴れたおかげで、ようやく北海道ツーリングの醍醐味を知ることができました。北海道の道は、大自然も然ることながら、とにかくまっすぐなのです。帯広の市街地でさえ一本道が多く、郊外に出た途端、果てしなく一本道が続きます。夏晴れの青空と相まって、ひとつひとつの田舎道が絶景でした。走っても走っても、飽きない。前日の苦労とは対照的に、最高のバイク日和になりました。

バイクに乗っている時、ヘッドホンに装着したスピーカーで音楽を聞いたり、ハンドルに設置したスマホで動画を流したりすることがあります。私も都内では割とYoutubeを聞き流しながら走ったりするのですが、北海道の旅ではそれらは不要でした。目に入ってくる大自然、延々と続く一本道を無心で走ることが何よりも楽しかったのです。無心になると、ふと日常のあらゆることが頭に浮かび上がってきます。今抱えている悩みや不満、課題、やるべきこと、やりたいことなどが、頭に浮かんでは消え、また浮かんでは消えの連続でした。

悩んだり考え込んだりしたわけではないので特に答えは出ませんでしたが、「自分が日常で大切にしていること」をぼんやりと認識できた気がします。日常を過ごしていると、どうしても目の前のことに囚われ、いわゆる「緊急ではないが、本当に重要なこと」が見えづらくなります。大自然の中でのバイク走行を通じて、そうした近視眼を取り払うことができたのではないかと思います。もっともっと、大きな意味での大切なことに注力しなければと、気を引き締めた一日になりました。

日本最北端の地から、手紙を送る

宗谷岬は、日本最北端の地として一般に有名ですが、バイク乗りの中では聖地として憧れる場所です。当初の目的地は知床半島のみでしたが、せっかく道北に来たので行ってみようと、知床から宗谷岬まで約370kmを2日かけて目指しました。海沿いの一本道は町と町の間の1、2時間ぐらいは信号がゼロで、ずーっと走りっぱなしです。晴れ渡る日に海を横目にひたすら一本道を走るのは、本当に気持ちが良かったです。

宗谷岬に到着した時、ちょっとした達成感はありましたが、それ以上にやりたいことがありました。宗谷岬のある稚内から、家族や友人に手紙を送ってみたかったのです。消印に「稚内」と付くだけなのですが、少し考えるとその重みに驚くはずです。そんな好奇心から、はがきを書いて彼らに送ることにしました。早速、投函の2日後くらいに大阪の友人から連絡があり、稚内の消印に驚いていました。ついでに、職場の人たちへのお土産も、稚内で買いました。メジャーな白い恋人や六花亭のリクエストがありましたが、そんなのはいつでも食べられると思い、勝手な判断で試食してとても美味しかった稚内のお菓子を買いました。手紙もお土産も、日頃の感謝の気持ちを伝える手段だと思います。受け取った人たちが喜ぶ姿を思い浮かべながら、温かい気持ちで日本最北端の地を後にしました。

札幌で、旅から現実に戻り、港町の小樽へ

稚内の次は、約310km先の札幌までを1日で目指しました。相変わらず北海道の一本道は美しいのですが、1日に300km超(高速なし)は初めてだったので、100km、約2時間ごとに休憩をしながら進んでいきました。札幌市内に入ると、これまでほぼゼロだった信号が、数百メートルに1つくらいの頻度で現れ、急に、都内を走っているような感覚に戻りました。東京とは異なるものの、ビルの多さは北海道の他の都市とは段違いです。目的地に着く安堵感以上に、なんともいえないもやもやした気持ちになりました。

帰りは小樽港から新潟港のフェリーを予約していたので、翌日の目的地は札幌から約30kmの小樽です。北海道に来てはじめて移動の少ない日になったので、翌日はチェックアウトぎりぎりまでホテルで大浴場に行ったりとのんびりし、札幌で昼食を取った後、道内最終目的地の小樽へ向かいました。ただ、そこでも信号の多さにはうんざりでした。心の中で、次回のバイク旅行では札幌には近づくまいと誓った瞬間でした。

そして、東京へ

行きは茨城県大洗港から苫小牧港、帰りは小樽港から新潟港としたのは、単純に好奇心からです。今回は奮発して和室の個室を予約したので、船の個室は旅館のような部屋でした。そして今(8月30日)、その和室で真っ暗な海を眺めながらこの原稿を書いています。明日の9時に新潟港に着き、そこから約340kmの東京を目指します。

「北海道の旅から学んだこと」と題して、淡々と旅を振り返りました。北海道バイク旅行という事実だけ見れば、珍しいことでもなければ、何かすごいことでもありません。でも、私が自分自身で初めて目で見たもの、肌で感じたもの、心に響いたものなどは、言葉で表せないほど貴重な体験になりました。北海道旅行という非日常を通じて、今後の日常をより深めることができるのではないかと、手応えを感じました。

受講生の皆さんは、働きながら、あるいは大学に通いながら資格学習をしている人も多く、旅行にいく時間がなかなか取れないかもしれません。でも、休日の一日でいつもと違った景色や自然に触れる機会をつくることは、そこまで難しくないと思います。日々、こつこつと日常を繰り返していくことは資格学習の基本です。同時に、僅かでも非日常を感じられる日があると、日常の質が着実に上がっていくのではないでしょうか。近くの河川敷でぼんやりと川を眺める、公園の芝生でささやかな自然を感じながら昼寝をしてみる、ママチャリでできるだけ遠くまで行ってみるなど、次の日曜日からできることはたくさんあります。非日常を通じて、日常の質を高めていきましょう。

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