ニュースで最低賃金引き上げの話題を見聞きする機会が増えています。アルバイトやパートタイムで働いている方はもちろん、正社員として働いていても、生活に直結するこの制度は、私たち全員に関わりの深いものです。
今回は、2025年に引き上げられる最低賃金と社会保険の加入基準に関するニュースから、その背景と私たちに与える影響について見ていきましょう。
最低賃金上昇で「年収106万円の壁」が事実上撤廃へ
【8月26日 時事ドットコムニュースより(抜粋)】
2025年度最低賃金の上昇に伴い、パートなど短時間労働者の厚生年金加入要件の一つで、働き控えを招く要因とされてきた「年収106万円の壁」(時給換算1016円)が今年度中に解消される見通しとなった。最低賃金が全国で最も低い秋田県が80円増の1031円になるのが25日に決まるなど、全都道府県で106万円の壁を越える公算が大きくなったためだ。(以下省略)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2025082500758&g=eco
報道された内容によると、ポイントは次の2点です。
- 政府は、短時間(週20時間以上)で働く方の社会保険加入基準のひとつである「月額88,000円(年収換算106万円)」について、最低賃金が全国で時給1016円以上になった時点で、この要件を正式に撤廃するとしている。
- 中央最低賃金審議会から「2025年の最低賃金について全国平均で63円引上げる目安」を提示されたことを受け、秋田県をはじめとする他の都道府県も時給1016円以上となる見込みである。
2025年の最低賃金は過去最大の上げ幅へ
2025年8月4日、中央最低賃金審議会は、2025年の最低賃金について全国平均で63円引き上げる目安を提示しました。これは、昭和53年度以降で最も高い上げ幅です。
その後、目安額を参考に各都道府県の地方最低賃金審議会での審議のうえ、都道府県労働局長により決定されます。
仮に、目安額どおりに決定した場合であっても、過去最高の引上げ額でしたが、冒頭に取り上げた秋田県(80円増の1031円)のほか、群馬県(78円増の1063円)、鳥取県(73円増の1030円)など、各都道府県から続々と発表されている妥結額はそれを上回る内容です。
今回の最低賃金引き上げが過去最大規模になった背景には、主に以下の二つの要因があります。
(1)長引く物価高騰への対応
物価上昇に賃金が追いついていない現状を是正し、生活の安定を図るため。
(2)人手不足の解消
企業が慢性的な人手不足に直面する中、賃金を上げ、働き控えを解消することで労働力を確保したいため。特に「年収106万円の壁」の撤廃は、収入の上限を気にせずにより多くの時間働いてもらいたい、という狙いがあります。
もう一つの異例措置「引上げのタイミング」
例年、最低賃金は9月〜10月に引き上げられることが一般的でした。しかし2025年度の引き上げは、12月や2026年3月から適用する都道府県も出てきています。これは、企業、特に中小企業が賃上げに対応するための準備期間を与えるという、政府の配慮がうかがえます。
この背景には、最低賃金引き上げによる中小企業の負担増があります。2025年3月に日本商工会議所が公表した調査(※)によると、仮に最低賃金が政府目標のとおりに引き上げられた場合、地方・小規模企業では2割が事業継続が困難になると回答しました。
最低賃金の引き上げは、給与の増加だけでなく、社会保険料や残業代の負担増、さらには生産性向上のための設備投資など、企業にとって大きな影響をもたらします。
※「中小企業における最低賃金の影響に関する調査」(2025年・日本商工会議所)
まとめ~働く私たちへの影響と今後のキャリア
最低賃金引き上げは、給与額が上がるという、働く私たちにとって直接的なメリットがあります。特に転職を検討している方にとっては、より良い条件で仕事を探せる有利な状況といえるでしょう。
しかし、すべてが良いことばかりではありません。企業は増えた人件費を捻出するため、雇用を控えたり、人員削減を行う可能性があります。これにより、給与は上がっても、一人当たりの業務量が増え、より効率や成果が求められるようになるかもしれません。
さらに、最低賃金の引き上げは、単なる金額以上の意味を持ちます。それは、企業が生き残るために、「給与額だけでなく、この会社で働きたい」と思わせるような魅力づくりを迫られているということです。
これは、私たち働く一人ひとりにとっても、「どんな会社で、どんな働き方をしたいか」を考える機会になるのではないでしょうか。キャリアは、雇用条件だけでなく、会社の将来性や働きがい、スキルアップの機会など、多角的な視点から考えることができます。
資格取得を目指す皆さんにとっては、自身の市場価値を高め、より良いキャリアを築くための重要なヒントとなるはずです。