1. はじめに
2019年11月17日(日)の第153回日商簿記検定まで、残り僅かとなりました。この記事では、日商1級について、私の個人的出題予想を示すとともに、本番に向けてのアドバイスを書いていきたいと思います。最後まで諦めずに取り組む際の一助になれば幸いです。
2. 商業簿記・会計学の出題予想
(1) 過去15回における商業簿記・会計学の出題傾向
商業簿記 | 会計学 | |
---|---|---|
第131回 | 連結財務諸表の作成 ・子会社が3社 ・一部売却 ・在外子会社の換算 ・その他の包括利益 など |
問1:理論(穴埋め) … 正規の簿記の原則、長期前払費用、 C/F、持分法、為替予約 問2:転換社債型新株予約権付社債 問3:株式交換 |
第132回 | 決算整理後残高試算表の作成 ・不渡手形の処理 ・長期貸付金の譲渡 ・リース取引 ・銀行勘定調整 など |
第1問:理論(誤りの指摘) … 固定資産、減価償却、売上計上基準など 第2問:有価証券 第3問:負ののれん(記述問題) |
第134回 | 連結財務諸表の作成 ・連結B/Sの作成が中心 ・連結包括利益計算書の作成もあり ・事業分離含む (分離先企業が子会社となるケース) |
第1問:理論(○×) … 転換社債、資産除去債務、その他有価証券、 自己株式処分差額、工事契約 第2問:減損会計 第3問:理論(穴埋め)…会計上の変更等 |
第135回 | 損益勘定と繰越試算表の作成 ・割賦販売、未着品販売 ・セール&リースバック取引 ・ソフト・ウェア など |
第1問:理論(誤りの指摘) … 自己株式、繰延税金資産の回収可能性、 貸倒の見積り、資産除去債務 第2問:リース会計(借手&貸手) 第3問:理論(穴埋め)…純資産の部 |
第137回 | 本支店会計 ・在外支店 ・外貨建有価証券 ・為替予約 など |
第1問:理論(穴埋め) … 持分法、退職給付、債権評価、税効果、 包括利益 第2問:株式移転 第3問:資産除去債務 |
第138回 | 決算整理後残高試算表の作成 ・為替予約 ・売価還元法 ・貸倒引当金 ・リース取引(中途解約) など |
第1問:理論(穴埋め) … ヘッジ会計、正規の簿記の原則、 消費税、割賦販売の収益認識 第2問:連結包括利益計算書 第3問:理論…減損会計(穴埋め) |
第140回 | 前T/B残高の推定、決算整理 ・商品売買(会計方針の変更) ・有価証券 ・固定資産(リース、減損含む) ・ストック・オプション など |
第1問:理論(穴埋め) … 為替換算調整勘定、共有支配下の取引、 退職給付、資本連結、後発事象 第2問:分配可能額 第3問:連結C/F |
第141回 | 決算整理後残高試算表の作成 ・長期貸付金の売却(回収業務は残存) ・リース取引 ・一般商品売買(原価率の推定含む) など |
第1問:理論(語句の関連性) … 取替法、退職給付引当金、 株式報酬費用、自己株式 第2問:包括利益、現先取引、事業分離 第3問:連結P/L |
第143回 | 損益計算書作成など ・代理店販売による手数料 ・退職給付 ・リース取引 ・税効果会計 など |
第1問:理論(穴埋め) … 使用価値、時価ヘッジ、希薄化効果、 移転損益、実績主義(四半期決算) 第2問:在外子会社の連結 第3問:工事契約会計 |
第144回 | 決算整理後残高試算表の作成 ・商品売買(委託販売を含む) ・為替予約の独立処理 ・固定資産、有価証券、新株予約権 など |
第1問:退職給付会計、圧縮記帳、 耐用年数の変更 第2問:連結貸借対照表の作成 (評価・換算差額等の取扱い含む) |
第146回 | 損益計算書作成など(注記金額も一部出題) ・受注制作のソフトウェア ・その他有価証券 ・退職給付 ・税効果会計(評価性引当額含む) など |
第1問:理論(穴埋め) … 修正再表示、総合償却、償却原価法、 直接法(C/F)、共用資産 第2問:通貨オプションに係るヘッジ会計 第3問:事業分離(連結F/Sの作成含む) |
第147回 | 本支店会計 ・国内支店と在外支店 ・商品売買は売上原価対立法 ・セールアンドリースバック ・200%定率法など |
第1問:正しい文章の選択 第2問:税効果会計 第3問:共同新設分割 (連結F/S上の取り扱いを含む) |
第149回 | 連結財務諸表の作成 ・B/S、P/L、S/S(利益剰余金のみ)、 包括利益計算書 ・その他有価証券評価差額金あり |
第1問:理論(穴埋め) … 独立処理、区分法、評価・換算差額等、 トレーディング、見積現金購入価額 第2問:退職給付会計 第3問:吸収合併、のれんの減損 |
第150回 | 決算整理後残高試算表の作成 ・未着品販売 ・為替予約 ・事業承継 ・資産除去債務 など |
問題1:関連する語句の選択 問題2:文章選択、語句と金額の穴埋め …商品の評価、リース取引、 自己株式、税効果、連結 問題3:記述(財務報告の目的) |
第152回 | 損益計算書作成など ・受注損失引当金 ・役務収益 ・自社利用ソフトウェア ・過去の誤謬の訂正 ・退職給付 ・法人税等および税効果 など |
第1問:語句の穴埋め 第2問:リース会計 第3問:持分法 |
(2) 商業簿記・会計学の個人的出題予想
第1予想 | 第2予想 | 第3予想 | |
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商業簿記 | 連結財務諸表 | 決算整理後残高試算表 | 貸借対照表など |
会計学 第1問 |
誤りの指摘 | 語句穴埋め | 〇×問題 |
会計学 第2問・ 第3問 |
資産除去債務 | ストック・オプション | 減損会計 |
キャッシュ・フロー計算書 (連結キャッシュ・フロー計算書を含む) |
連結包括利益計算書 | 税効果会計 |
(3) 商業簿記について
一般的な総合問題が前回(第152回)、前々回(第150回)と2回続きましたので、連結会計の対策を欠かすわけにはいきません。会計学で連結会計の知識が問われることもありますので、総合問題対策を含めた連結会計の対策はぜひしておきたいところです。
もちろん、一般的な総合問題が出題される可能性も十分にあります。2~3回程度の限られた数の問題を使う形でいいので、総合問題を解くための練習を積んでおきましょう!
(4) 会計学第1問について
会計学第1問は、ちょっとした理論問題が出題される傾向にあります。2回に1回かそれ以上の頻度で語句の穴埋めタイプが出題されているのですが、前回(第152回)が典型的な語句の穴埋めタイプだったので、別形式のものを第1予想に掲げました。
ただし、どのような形式であっても、通常、計算対策で登場する専門用語の知識とその理解があれば合格点を取ることが可能です。計算対策学習で登場する専門用語を疎かにしないように気を付けましょう。
(5) 会計学第2・3問について
基本的には、出題サイクルを踏まえて、出題可能性の高いテーマを掲げております。資産除去債務は第137回本試験(会計学第3問)、キャッシュ・フロー計算書は第140回(会計学第3問)、連結包括利益計算書は第138回本試験(会計学第2問)で出題されてから間が空いておりますので、必ず対策しておきたいところです。
ストック・オプションについては、商業簿記の総合問題に含めて出題されたことはあるのですが、会計学の個別問題としても出題しやすいテーマでもあります。いつか出るのではないかと思われる点を踏まえ、出題予想に含めました。
減損会計は第149回本試験(会計学第3問)で、税効果会計は第147回本試験(第2問)で出題されていますが、比較的簡単な問題だったので、改めてガッツリ出題される可能性もあると考えて第3予想にしました。商業簿記の総合問題に含めて出題される可能性もありますので、いずれにしても無視できない内容です。
3. 工業簿記・原価計算の出題予想
(1) 過去15回における工業簿記・原価計算の出題傾向
工業簿記 | 原価計算 | |
---|---|---|
第131回 | 実際組別総合原価計算 ・2工程(ケース加工部門と組立部門) ・材料費計算含む ・製造間接費の配賦計算 |
予算実績差異分析 |
第132回 | 問題1:標準原価計算 … 配合差異・歩留差異など 問題2:理論(穴埋め)…基準6(二) |
問題1・2:差額原価収益分析 問題3:設備投資の意思決定 |
第134回 | 標準原価計算 ・3工程 ・工程間に在庫有り |
設備投資の意思決定 |
第135回 | 第1問:仕掛品勘定の記入など 第2問:材料費(理論) 第3問:標準原価計算(理論) |
第1問:CVP分析 第2問:差額原価収益分析 |
第137回 | 第1問:原価計算基準前文(理論) 第2問:工程別組別実際総合原価計算 |
第1問:直接原価計算 第2問:直接原価計算(理論) |
第138回 | 第1問:標準原価計算 … 配合差異・歩留差異など 第2問:標準原価計算(理論) |
第1問:直接原価計算(理論) 第2問:直接原価計算 (予算編成的側面が中心) |
第140回 | 本社工場会計 ・費目別計算 ・各種差異の推定 ・工場損益、企業全体の損益の算定など |
設備投資の意思決定 |
第141回 | 第1問:費目別計算など 第2問:補助部門費の配賦(理論) |
第1問:CVP分析 第2問:事業部制 |
第143回 | 第1問:実際総合原価計算 第2問:原価差異の会計処理(理論) |
品質原価に関する差額原価収益分析 |
第144回 | 第1問:標準原価計算(理論) 第2問:標準原価計算 (原価差異の会計処理) |
第1問:設備投資の意思決定 第2問:差額原価収益分析(事業部間の内 部振替価格の検討を含む) |
第146回 | 第1問:部門別計算 第2問:部門別計算(理論) |
第1問:活動基準原価計算 第2問:価格決定など(正誤問題) 第3問:設備総合効率の分析 |
第147回 | 個別原価計算(ロット生産) 品質原価計算も含む |
第1問:連産品の原価計算 ・追加加工の意思決定 |
第149回 | 本社工場会計 | 第2問:CVP分析など 問題1:価格決定 問題2:原価要素の分類 |
第150回 | 実際組別総合原価計算 活動基準原価計算に関する語句穴埋め |
第1問:予算編成 第2問:受注可否の意思決定 |
第152回 | 第1問:実際工程別総合原価計算 第2問:外注加工(有償支給含む) |
予算編成など |
(2) 工業簿記・原価計算の個人的出題予想
第1予想 | 第2予想 | 第3予想 | |
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工業簿記 | 工程別標準原価計算 | 費目別計算など | 部門別計算 |
原価計算 | 設備投資の意思決定 | 予算実績差異分析 | 事業部制 (CVP分析も含む) |
(3) 工業簿記について
しばらく出題が途絶えている標準原価計算が大本命と考えられます。とくに、工程が複数に分かれているケースが出題サイクル的にぜひ対策しておきたいところです。このタイプの問題は第134回本試験や第128回本試験などで出題されています。
費目別計算と部門別計算は、そろそろ出題可能性を捨て切れない時期になってきました。工業簿記・原価計算全般の基礎にもなり、あらゆるテーマの問題を解くための実力を底上げしますので、これまで疎かにしていた方は、超直前期ですが改めて復習しておくことをおススメします。
(4) 原価計算について
設備投資の意思決定、予算実績差異分析が出題サイクル的に大本命です。予算関連の内容は直近2回で続きましたので、出題可能性は設備投資の意思決定の方が高いと考えています。ただし、直近2回で出題されたのは予算の「編成」に関する内容でした。予算の「統制」、つまり予算実績差異分析をメインとした問題は第131回本試験の後は出題されていません。決して無視できないところでしょう。
事業部制は、事業部別損益計算書の作成、ROIやRIなどの計算・活用、内部振替価格はもちろん、CVP分析の要素も盛り込んだ出題がしやすいテーマとなります。CVP分析、可能であればその前提となりうる直接原価計算も基本知識の漏れがないか確認しておきたいところです。
4. 本番まで残された時間で、何をやればよいか?
この時期、「範囲が広いので、焦っているけど何をどこからやればよいか迷ってしまう(泣)」というのが日商1級受験生あるあるの1つでないかと思います。そんな場合は、次のポイントを意識して対策すべきことを絞りこんでみてください。なお、本試験がもうすぐそこまで差し迫っているので、ご自身の中で何をやるべきか明確になっている方はそのまま決めたことをやり切りましょう!
- ① テキストの目次などを利用して、どんな学習テーマがあったか俯瞰する。
- ② この記事も含め、各専門学校の出題予想などから重要論点をぼんやりとでもいいので思い出せるようにする。
- ③ テキストを前から順にめくっていき、「重要だけど不安な内容」について、例題レベルからでよいので復習していく(少なくとも例題レベルの計算についてはできるようにしていく)。要は、「重要なテーマの基礎・基本」をなるべく万遍なく抑えていく。
- ④ 上記③において、「手を動かして練習するもの」「頭の中で計算・処理を思い出していくだけのもの」「軽く読んで流すもの」「完全無視するもの」といった感じで内容に応じて取り組んでいく度合に強弱をつける。
- ⑤ 出題可能性が高く、実戦レベルの問題を解いておかないと不安なものについてのみ、予想問題や過去問からチョイスして練習する。
この時期になると、不安な気持ちがあるためか、むやみやたらに予想問題を入手して解きまくるものの、復習が不十分のまま本番を迎える受験生もよく見かけます。新しい問題を入手して、たくさんの予想問題を一生懸命こなしているため、ものすごく勉強した気にはなるでしょう。しかし、中途半端に大量の問題を食い散らかすだけでは、本番で使える知識・スキルがしっかりと身に付かないものです。消化不良になるくらいなら、実戦問題は1つや2つといったごく最小限の数に絞り込んだ方がよっぽどマシです。
5. 実戦問題を1つや2つといったごく最小限の数に絞り込んだら…
商・会・工・原のそれぞれについて、市販の過去問題集によって入手できる範囲で、実戦練習に使っていただきたい問題をごく最小限(1つか2つ)に絞ってみたいと思います。本当に何をしてよいか分からず、学習進度に不安のある方、それなりに対策をしてきたつもりだけど改めて「重要かつ基本的」な部分を固めておきたい方は参考にしてみてください。
科目 | 絞り込んだ過去問 | コメント |
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商業簿記 | 第149回_商業簿記 | 連結財務諸表を作成する総合問題です。レベル・形式ともにオーソドックスで、繰り返し復習して完璧に解けるようにしたい良問です。 |
第150回_商業簿記 | 決算整理後残高試算表のオーソドックスな問題です。繰り返し復習して完璧に解けるようにしたい良問です。 | |
会計学 | 第140回_会計学第3問 | 連結キャッシュ・フロー計算書の問題です。個別キャッシュ・フロー計算書と似たような解き方が通用します。 |
工業簿記 | 第134回_工業簿記 | 工程別標準原価計算の問題です。テキストや問題集で見ることが少ない工程間在庫があったり、工程が3つに分かれている点が特徴です。落ち着いて生産データを整理するところから取り組んでみてください。 |
原価計算 | 第132回_原価計算_問題3 | 設備投資の意思決定です。「差額キャッシュ・フロー」を用いた計算の確認に使えます。 |
第134回_原価計算 | これも設備投資の意思決定ですが、基本的な良問として確実に解けるようにしたい問題です。 |
6. 最後に
日商1級は、基本的に満点を取らせないための「ビックリする問題」が本試験で必ずといっていいくらい盛り込まれます。ですが、それが取れなくても合格点を取ることは可能です。テキスト例題でも取り扱うような基本知識を組み合わせ・活用すれば解ける範囲を取りこぼさないことが重要です。
過去に出題されたビックリ問題や、それを踏まえて作成された各専門学校の予想問題(超難問)に振り回されるのではなく、「当り前に解けるべき問題を本当に当り前に解けるようにする」ことを意識しつつ、最後までベストを尽くしていただければと思います。