1. はじめに
2019年11月17日(日)の第153回日商簿記検定まで、残り僅かとなりました。残り日数が少ないことから、学習が間に合わなさそうと感じ、今回の合格をあきらめかけている方もいると思います。ですが、直前期は本試験が差し迫っていることによって普段より高い集中力を発揮することができます。数日単位であっても、できることを増やして得点力を伸ばすことは可能です。
この記事では、私の個人的出題予想を示すとともに、実戦対策上のアドバイスを書いていきたいと思います。
2. 第153回2級の全体的な出題予想
第1予想 | 第2予想 | 第3予想 | |
---|---|---|---|
第1問 | 仕訳問題 | ||
第2問 | 有価証券取引 | 連結会計 (連結精算表or連結財務諸表 の作成) |
商品売買取引 |
第3問 | 損益計算書 | 精算表 | 製造業会計 |
第4問 | 本社工場会計 | 製造原価報告書 | 個別原価計算 |
第5問 | 直接原価計算・CVP分析 | 組別総合原価計算 | 標準原価計算 |
3. 実戦対策にあたっての全体的なアドバイス
(1) 過去問や予想問題(答練)などを利用する際、まずは時間を図って、制限時間内でどれだけ点数が取れるか、ご自身の今の実力を明らかにしましょう!はじめは思うように解けなくても大丈夫です。むしろ、弱点・課題(伸びしろ)を明らかにすることが本試験に向けた効果的な対策の第一歩です。
(2) 「気になった内容」や「分からない内容」は、これまで利用してきたテキストや問題集にさかのぼって復習するようにしましょう。関連する基礎・基本を大切にすることは、本試験での現場対応力につながります。
4. 第1問について
第1問は、毎回仕訳問題が5つ出題されます。仕訳の知識は第2問以降のほとんどの問題でも必要となります。したがって、第1問はあえてヤマをはらないことが重要です。
そのため、テキストに載っている例題に加え、可能であれば問題集の仕訳問題を一通り解き直す(決算時に行う仕訳を含む)ことがおススメです。①スラスラ使えるようになった勘定科目は略字を使う、②頭の中で仕訳ができる取引は頭の中で考えるだけにして次に進むといったやり方をすれば、復習スピードが格段に速くなるので、そういったやり方も併用していただければと思います。
少しでも学習量を減らしたい、重要なところに絞って対策したい場合、「これだけは難しくて本試験までに習得は難しい」というものに限定してあきらめていくとよいでしょう。出題可能性が低いものから削るのではなく、正答可能性の低いものから削るのです。
5. 第2問について
第2問は、特定のテーマを対象とした勘定記入、株主資本等変動計算書、連結会計など、バラエティに富んだ出題がなされます。
過去10回の出題傾向は次のようになります。
第2問の出題内容 | 備考 | |
---|---|---|
第143回 | 固定資産取引に関する勘定記入など | 固定資産台帳の読取・記入もあり。ソフトウェアも登場。200%定率法なども含む。実務に近く、難易度は高め |
第144回 | 商品売買取引に関する勘定記入など | 売上原価対立法。商品が2種類あった。先入先出法による払出計算を伴うなど、計算量がかなり多い。 |
第145回 | 株主資本等変動計算書 | その他資本剰余金を財源とする配当含む |
第146回 | 現金および預金 | 現金の範囲、銀行勘定調整表に関する基本的な問題 |
第147回 | 問1 吸収合併 問2 連結会計 |
問1は合併に関する基本的な問題。 問2は連結会計に関する仕訳問題 |
第148回 | 有価証券取引に関する勘定記入など | 仕訳を丁寧に考えれば高得点が可能 |
第149回 | 商品売買取引など(輸入取引含む) | 売上原価対立法。外貨建取引に関する処理も問われている。計算量が多い。 |
第150回 | 固定資産取引に係る勘定記入など | 仕訳を丁寧に考えれば高得点が可能 |
第151回 | 株主資本等変動計算書 | その他資本剰余金を財源とする配当含む |
第152回 | 現金および預金 | 現金の範囲、銀行勘定調整表に関する基本的な問題 |
第153回の予想 | ① 有価証券取引 ② 連結会計(連結精算表or連結財務諸表の作成) ③ 商品売買取引 |
(1) 第1予想の有価証券取引、第3予想の商品売買取引について
勘定記入などの形式で出題されることが多いのですが、丁寧に仕訳を行い、それを転記・集計すれば確実に解答できるものがほとんどです。
予想問題をお持ちでない方は、第148回および第149回本試験の第2問を使うことで良い練習ができると思います。
第149回の本試験では、先入先出法による商品の払出計算も並行して行う必要がありましたが、その計算方法自体は3級で学習した知識で対応可能です。多少時間はかかっても落ち着いて取り組めば、決してできないものではないはずです。
(2) 第2予想の連結会計について
連結会計の問題は、第3問で出題される可能性もあります。予想問題をお持ちでない方は、第148回および第151回本試験の第3問を使うことで良い練習ができると思います。ただし、第151回は当時難しすぎると騒がれた大変な問題です(^^;)。難易度・ボリュームともに日商簿記2級史上最強の問題と言ってもいいのではないかと思います。学習に余裕のない方は、まずは第148回レベルから取り組んでいきましょう。
なお、連結会計について、そもそも基礎的な部分から学習が間に合っていない方は、次のステップにしたがって、できる範囲で取り組んでみてください。
- ① テキスト例題に載っているような基本的な連結修正仕訳をできるようにする。
- ② 連結貸借対照表・連結損益計算書の8~9割以上を埋められるようにする。この段階では、「利益剰余金」については連結貸借対照表を埋めていった最後に貸借差額で計算し、正解すればラッキーという程度で大丈夫です。連結株主資本等変動計算書も後回しで大丈夫です。
- ③ 連結精算表の作成方法をマスターする。
- ④ 連結貸借対照表・連結損益計算書だけでなく、連結株主資本等変動計算書も作成できるようにする(連結精算表の作成方法が分かれば、ここまで習得できるようになります)。
6. 第3問について
第3問は決算を伴う総合問題が出題されます。第2問が特別に難しい場合を除き、基本的にこの第3問が最も解答時間を要することになります。
過去10回の出題傾向は次のようになります。
第3問の出題内容 | 備考 | |
---|---|---|
第143回 | 損益計算書 | 標準的な問題 |
第144回 | 精算表 | 標準的な問題 |
第145回 | 貸借対照表 | 標準的な問題(ボリュームは少々多め) |
第146回 | 精算表 | 標準的な問題 |
第147回 | 損益計算書 | 標準的な問題 |
第148回 | 連結精算表 | 連結貸借対照表と連結損益計算書のみの形式。株主資本等変動計算書が無いことに若干戸惑うが、レベルは基本的 |
第149回 | 本支店会計 | 本店の損益勘定を記入する問題 |
第150回 | 貸借対照表 | 標準的な問題 |
第151回 | 連結精算表 | 子会社2社、子会社間取引あり。 ボリュームは超特盛級(汗) |
第152回 | 貸借対照表 | 標準的な問題 |
第153回 の予想 |
① 損益計算書 ② 精算表 ③ 製造業会計 |
サイクル的には損益計算書か精算表の可能性が高いと思われます。ただし、貸借対照表、損益計算書、精算表のいずれが出題されても「決算整理を経た後の残高を求めていく」ことに変わりはありません。形式に惑わされず、1つ1つの決算整理を確実に行い、それを集計する練習をしておきましょう。
予想問題をお持ちでない方は、第147回本試験(第3問)によって損益計算書作成問題、第146回本試験(第3問)によって精算表作成問題の標準的なレベルのものを練習することができます。
製造業会計を題材とした問題については、今のところ過去の本試験で出題されてはおりません。しかし、2018年度以降新たに出題範囲に組み込まれたものでもあります。製造業会計の問題への対策としては、次の2つをしていただくことをおススメします。
- ① 工業簿記の勘定体系(原価差異が生じる場合も含む)をしっかりと学習しておく。これは、第4問・第5問の工業簿記対策にもなります。
- ② 製造業会計を含んだ予想問題を最低1つは練習しておく。各専門学校が作成した予想問題をお持ちの方は、それを使って練習しておきましょう。仕掛品勘定や製造間接費勘定、製品勘定といった工業簿記特有の科目については、その動きをT字フォームなどで整理するといった下書き方法の模索もしてみてください。予想問題をお持ちでない方は、日本商工会議所から公表されているサンプル問題が良い練習用題材になると思います。市販教材や専門学校の予想問題についても、このサンプル問題を参考にして作成されていることが多くなっています。
7. 第4問について
第4問と第5問は、ともに工業簿記の問題となっています。第4問は一般的なテキストの前半に載っているテーマ、第5問は一般的なテキストの後半に載っているテーマが出題されやすくなっています。ただし、標準原価計算のように第4問と第5問の両方に頻出するテーマもあります。
過去10回における第4問の出題傾向は次のようになります。
第4問の出題内容 | 備考 | |
---|---|---|
第143回 | 個別原価計算 | 一部仕損あり。日付の読取を慎重に行う必要があった |
第144回 | 材料費など | 材料費の計算が中心であるが、製造間接費勘定、仕掛品勘定の記入まで問われていた |
第145回 | 製造間接費の部門別計算 | 基本的な問題 |
第146回 | 標準原価計算 | シングルプラン。月初・月末の仕掛品あり。材料を中心とした内容 |
第147回 | 本社工場会計 | 基本的な仕訳問題 |
第148回 | 個別原価計算 | 「プロジェクト別」という表現が用いられていたが、内容は個別原価計算に関する基本的な問題 |
第149回 | 直接原価計算 | 直接原価計算によった場合の仕掛品勘定および損益計算書 |
第150回 | 費目別計算など | 基本的な仕訳問題 |
第151回 | 部門別計算 | 補助部門費についても予定配賦を行う設定であったが、難易度は標準的 |
第152回 | 部門別計算 | 部門別計算に関する基本問題 |
第153回 の予想 |
① 本社工場会計 ② 製造原価報告書 ③ 個別原価計算 |
(1) 本社工場会計について
各自ご使用のテキストや問題集に載っているレベルで良いので、本社工場会計の問題を解く練習をしておきましょう。商業簿記で学習する本支店会計の基本的な理解、工業簿記における一連の処理(原価差異が生じるような場合も含む)が分かっていれば、それほど苦労することなく解けるようになるはずです。
予想問題を持っていないが実戦的な問題を解いておきたい方は、第147回本試験(第4問)が使えるかと思います。
(2) 製造原価報告書について
第137回(第4問)以降、出題されていない問題形式となります。いつ出題されてもおかしくはありません(そう言い続けて何回目になるだろうか…^^;)。ただし、各自ご使用のテキスト・問題集を使うだけでもある程度十分な対策になると思われます。
製造原価報告書は、仕掛品勘定に記入される内容をまとめ直したものということができます。工業簿記における一連の処理(原価差異が生じるような場合も含む)が分かっていれば、新たに覚えるべきことはほとんどありません。せいぜい、次のようなポイントに慣れるくらいでしょうか。
- ① 当月に投入した原価の合計を「当月総製造費用」、当月の完成品原価を「当月製品製造原価」として表示すること
- ② 当月製造費用を「材料費・労務費・経費といった三要素に分類して表示する方法」と「直接材料費・直接労務費・直接経費・製造間接費といった製品との関連による分類を加味して表示する方法」の2つがあること
(3) 個別原価計算について
出題サイクルを踏まえて第3予想としました。予想問題をお持ちでない方は、第143回本試験(第4問)を通じて実戦練習することをお勧めします。第148回本試験(第4問)でも出題されていますが、難易度は易しめです。
8. 第5問について
過去10回の出題傾向は次のようになります。
第5問の出題内容 | 備考 | |
---|---|---|
第143回 | 標準原価計算 | パーシャルプラン。月初・月末の仕掛品なし。 基礎的な問題 |
第144回 | 単純総合原価計算 | 複数材料あり(うち1つは平均的に投入)。正常仕損に評価額あり |
第145回 | 直接原価計算 | 直接原価計算による損益計算書を作成する問題。 一部金額の推定あり |
第146回 | 単純総合原価計算 | 工程途中で発生(発生点不明)した仕損あり |
第147回 | 標準原価計算 | パーシャルプラン。月初・月末の仕掛品あり。仕掛品勘定と損益計算書作成のみ |
第148回 | 組別総合原価計算 | 工程途中で発生(発生点不明)した仕損あり |
第149回 | 工程別総合原価計算 | 工程途中で発生(発生点不明)した仕損あり。正常仕損に評価額あり |
第150回 | CVP分析 | 標準的な問題 |
第151回 | 等級別総合原価計算 | 完成品総合原価を各等級製品に按分する方法。工程途中で発生(発生点不明)した仕損あり |
第152回 | 標準原価計算 | 製品が複数あり、予算を前提にした計算も盛り込まれていた。しかし、難易度は高くない |
第153回 の予想 |
① 直接原価計算・CVP分析 ② 組別総合原価計算 ③ 標準原価計算 |
(1) 直接原価計算・CVP分析について
直接原価計算による損益計算書作成、固定費調整、CVP分析の一通りを復習しておいていただきたいところです。各自ご使用のテキスト・問題集を使うだけでもある程度十分な対策になると思われます。
予想問題を持っていないが実戦的な問題を解いておきたい方は、第145回本試験(第5問)、第149回本試験(第4問)が使えるかと思います。
(2) 組別総合原価計算について
実際総合原価計算に関する内容は頻出のため、ある程度の対策はしておきたいところです。単純、等級別、組別、工程別といろんな切り口で出題されうるところですが、出題サイクルを考えると組別総合あたりの可能性が高いように思われます。組別といっても、製品の種類が複数あり、それらに共通してかかるコストを製品の種類ごとに振り分ける(組間接費の配賦を行う)点に特徴があるだけです。まずは、平均法と先入先出法のそれぞれによる完成品原価と月末仕掛品原価の計算、仕損・減損がある場合の取扱いといった実際総合原価計算のあらゆるテーマに共通する内容をしっかりと復習するようにしましょう。
なお、予想問題を持っていないが実戦的な問題を解いておきたい方は、第148回本試験(第5問)が使えるかと思います。
(3) 標準原価計算について
前回(第152回)で出題されたばかりなので、今回の出題可能性は少し下がります。しかし、前回の問題はアッサリと終わってしまうタイプの問題だった点、第4問で部門別計算が第151・152回で連続して出題された点を踏まえると、標準原価計算を完全に捨てることは危険です。万全を期したい方は、各自ご使用のテキスト・問題集を通じて、基本的な内容を復習しておきましょう。復習ポイントとしては、次の2点を意識するとよいでしょう。
- ① パーシャルプランとシングルプランのそれぞれによる仕掛品勘定記入ができるか?
- ② 直接材料費、直接労務費、製造間接費の差異分析ができるか?
9. 最後に
合格率12.7%というかなり低い合格率となってしまった第151回本試験のときであっても、合格した受講生で関わりのあった人たちは皆、特別な教材を使って勉強していたわけではありませんし、特別に優秀だったわけでもありません。通常のカリキュラムで提供しているテキスト・問題集・答練を使い、直前期でも「大丈夫かな?^^;」と思うレベルの質問をしていたり、決して優秀とはいえない点数もとったりしていました。
彼らに共通している点があるとすれば、次の2点です。
- ① 最後まであきらめずに取り組んだこと
- ② 本試験では、難しい問題は後回しにして、基本的な知識で解答できる箇所から優先して解いていったこと
世間的な合格率は低くとも、この2つを兼ね備えている方の合格率は相当高いのではないかと思います。少しでも参考になれば幸いです。