「公認会計士の現状と将来性について」 堤 康さん

堤 康さん  太陽有限責任監査法人、公認会計士、シニアマネージャー
[プロフィール]公認会計士、2001年論文式試験に合格。2007年に旧中央青山監査法人より、グラントソントンのメンバーファームである太陽有限責任監査法人に移籍。現在は、国内監査グループに所属しており、上場企業の監査と上場準備会社へのアドバイザリーサービス業務を担当中。
目次

はじめに

 私自身は、2001年に公認会計士試験に合格した後、いわゆる大手監査法人に入所し、国内監査部門に配属されました。最初はクライアントに素材や部品のメーカーの多いグループにおりましたので、石油、セメント、機械などのメーカーの監査チームにアサインされることが多くありました。その後、3次試験(当時)に通過して公認会計士登録をした頃から、上場会社の主査をするようになりました。この頃は、四半期報告制度や内部統制報告制度がまだなく、証取法監査(今で言う金商法監査)といっても今に比べれば随分とゆっくりしていた気がします。

 その後、四半期報告制度や内部統制報告制度が導入される辺りで、少し目先を変えたいと思い、中堅の監査法人に移りました。これが現在の勤務先です。監査部門で何でもこなす中堅監査法人では、大手とはだいぶ働き方も変り、いい経験になっています。

 現在は事務所内ではシニアマネージャーとして、国内監査やIPO準備業務に従事しながら、アドバイザリー業務や企業の内部監査のアウトソーシングを受けたりしています。

 また、皆さんが合格したら通うことになる実務補習所の運営委員や会計士協会の倫理、教育関連の専門委員をしたりして、幸いにして結構忙しく過ごしています。

近頃の公認会計士の環境

 このところの監査基準や会計基準の国際化の大きな潮流の中で、監査業界における我々のフィールドは拡大傾向にあります。新しい基準や手続が導入されることで、フィールドが拡大していくのは当然の流れです。これに加え、アベノミクスや東京オリンピック招致の実現など、昨今の良い話題が景気を刺激することになり、我々のクライアントでありマーケットのプレーヤーである企業の投資姿勢や営業姿勢に大きな変化が現れています。プレーヤーが元気になると我々会計士の仕事も増えます。

 企業が事業展開や拡大をするにあたって買収という方法をとる場合、ターゲット会社のデューデリジェンスが必要になるケースが多くなります。デューデリジェンスとは、M&Aやその他の投資を行う検討段階で、事前に投資対象の企業の財務状況や法務のリスクマネジメントの状況、キャッシュフローの状況などを精査する作業です。

 このうち、財務デューデリジェンスの分野については一般的に会計士が担うことが多く、こうした分野において会計士が監査で培った専門的知識や経験が求められるとともに、大いに活きるため、経験を積んだ会計士には活躍の場が広がります。近年は景気の回復に伴い、こうした企業行動が活発化していますので、我々会計士が携わる案件の数も増加傾向にあります。

 また、最近の会計のボーダレス化も手伝ってか、海外展開に際して外国企業の買収という方法を選択する会社が増えているように思います。従来からグローバル企業が海外でのM&Aを行うというケースは普通にありましたが、最近は中堅クラスの企業も積極的にこうした海外投資を進めています。このため、クロスボーダーの案件も多くなっており、我々会計士のデューデリジェンス業務も、例えばネットワークファームの海外現地監査法人や税理士法人と協業で進めていくような業務が目に見えて増えています。

 こうした世の流れは、株式公開に関わる業務にも影響を与えています。少し前は株価の低迷や親子上場の是非から、上場企業数は1割くらい減ってしまっていました。これは、監査法人にとって法定監査業務が頭打ちになっていることを意味しかねません。

 しかしながら、最近では景気変動に応じた株価の上昇や先述の企業行動の変化の波に乗り、業績を伸ばした企業がIPOに目を向けています。実際、2009年にはやっと2ケタに乗せていた新規上場企業数も順調に伸びており、昨年まで5年連続で前年を上回り続けています。この流れはこの2年は特に顕著であるといってよいと思います。特徴的なのは、近年ではどちらかというと小型の上場が多いことです。この意味では国内ベンチャー企業がマーケットを賑やかにしていると言えるでしょう。

 また、日本取引所の登場で、日本の株式市場は、売買代金、上場企業時価総額でも世界3位、アジアではトップと言われています。日本での株式取引が増加することで、新規上場を目指そうという企業気運は、さらに高まると見られています。

 実際、最前線で活躍される証券会社の方とお話すると、「このところ忙しくて大変だ」といったような声をよく耳にします。こうした状況は、当然ながら上場準備予備軍を増やし、我々も将来の会計監査人としてこうした企業の上場支援と監査業務に携わることとなり、IPOに係る我々のラインは増加しています。

公認会計士の将来性について

 ざっとですが、最近の我々を取り巻く環境のうち身近なことについてお話しました。4、5年前は厳しかった我々の業界環境も、明らかに好転していると個人的には肌身で感じています。今まさに我々の活躍の場の「潮目」も変ろうとしていると思います。

 一時期は会計士受験についても先行きの明るくない時期はあったかに思われますし、大量合格時代に比べると難易度は上がったかに見えますが、依然として受験の門戸は広がった状態であることには変わりはないと思います。お話したとおり、我々の活躍できるフィールドは拡大しながら活発化していますし、少し先に見えてきた、IFRS導入への動きが現実的になれば、この傾向はさらに強まり、会計士として求められる場面はさらに増えていくことでしょう。

 今、私も現場に携わる一会計士として、「もう少し会計士が増えれば」と切実に感じています。これは、単なる個人的な感覚ではなく、業界として本当に多くの人材を必要としているのです。皆さんが受験勉強を一気に駆け抜け、職業的専門家たる会計人のフィールドでお会いできる事を、一人の先輩として楽しみにしています。

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