公認会計士試験は何が難しいのか?

1. はじめに

公認会計士試験は、一般に「難しい」とされている試験です。しかし、「難しい」といっても何が難しいのかあやふやにしたまま、世間的なイメージのまま、ぼんやり「難しい」と思い込んでいる人もたくさんいるのではないでしょうか?
そこで、これから公認会計士試験にチャレンジしようか検討中の方にも参考になるよう、その「難しさ」を掘り下げていきたいと思います。現在学習中の方も、改めて何が学習の課題となるのかを明確にし、今後の合格戦略を考える出発点にしていただければ幸いです。

2. 「難しい」とは?

大まかに「難しい」という場合、次のような要素があるかと思います。

  • ① 内容が複雑
  • ② 学習範囲が広い
  • ③ 暗記すべき量が多い
  • ④ 出題される問題の量が多い(相対的に解答時間が足りない)
  • ⑤ 実技的な要素があり、その水準が高い
  • ⑥ 倍率が高い(合格率が低い)

②と③は似ていそうですが、「取り組むべき教材の量」と「その中で覚えるべき項目の量」は必ずしも比例しているわけではないので、区別してみました。④もボリューム的な要素ですが、試験問題自体の時間制約として区別させていただきました。
一般に難しいとされる試験の場合であっても、上記①~⑥の全てが揃った試験はなかなか無いと思われます。

数学のような理系分野の科目であれば①が突出していそうですが、理系出身者の話によれば暗記量は少ないため勉強しやすいそうです。

②や③が突出していそうな医師国家試験も、合格率は9割前後あるそうです。ただ、大学の医学部に入るところからしてハードルが高く、当然実技的な要素も身に付けなければいけないでしょうし、医師になるまでのトータルを考えると①~⑥のほとんどの要素を段階的にクリアしていかなければならなそうですね(・_・;)。

司法試験など法律系の試験は、②③が高そうですが、個人的には⑥も他の試験に比べると突出しているイメージです(司法書士、行政書士、社会保険労務士、弁理士など、合格率が10~5%を下回る試験がザラにあります)。

歌手、アイドル、俳優、芸人などの芸能人を目指す場合には圧倒的な⑤と⑥が求められそうですね。性格や言動、容姿、運なども影響するでしょう。具体的な数字を調べたわけではないのですが、⑥については難関国家試験顔負けであろうことは想像に難くないと思います。

このように、分野が違えば必要とされる能力や素養も異なるため、その試験や選抜の難しさも異なるものとなってきます。

3. 公認会計士試験の「難しさ」

では、公認会計士試験の難しさはどこにあるのでしょうか?上記2.の①~⑥に照らし掘り下げてみたいと思います。

① 内容の複雑性

公認会計士試験を目指すためには簿記の仕組みを掴んでおくことが必須です。簿記の仕組みを掴めないままでいると、学習量が成果に結び付きにくく、非常に苦労します。

簿記の仕組みは、最初は複雑なよう見えるかもしれません。しかし、数学などの理系分野に比べれば圧倒的にシンプルだと思います。「ごく最低限の暗記」と「十分な練習」を積んでいく中で、仕組みを掴もうと意識すれば簡単に掴むことができます。

したがって、ちょっとしたハードルはあるものの、他の試験に比べると内容の複雑性は低いといえるのではないかと思います。

② 学習範囲の広さ

公認会計士試験は、短答式試験4科目、論文式試験5科目あります。しかも、短答式試験のうち財務会計論は、計算部分と理論部分のそれぞれを異なるテキストでインプットするのが一般的です。2005年度以前は「簿記」「財務諸表論」というそれぞれ独立した科目になっていたので、財務会計論だけでも実質2科目分あるということもできます。また、短答式試験の財務会計論と管理会計論は、論文式試験では会計学という1科目になりますので、論文式試験は実質6科目分あります(財務会計論の計算と理論を分けて考えるならば実質7科目分)。

全科目通して使用する教材(テキスト、問題集、答練など)を集めると、両手で抱えきれないくらいのボリュームになります。非常識合格法のコンセプトのもと、量が絞られていると評判のクレアールのテキストだけでも、大まかに次のような冊数になります(選択科目は経営学を前提としています)。

科目 テキストの冊数
内訳 合計
財務会計論 計算(簿記) 3級テキスト:1冊 10冊
2級商簿テキスト:1冊
1級商会テキスト:3冊
基礎講義テキスト:2冊
基本連結テキスト:1冊
応用連結テキスト:1冊
企業結合会計テキスト:1冊
理論(財務諸表論) 基礎講義テキスト:1冊 3冊
応用講義テキスト:1冊
論文対策テキスト:1冊
管理会計論 2級工簿テキスト:1冊 5冊
1級工原テキスト:2冊
基礎講義テキスト:1冊
論文対策テキスト:1冊
監査論 基礎講義テキスト:1冊 1冊
企業法 基礎講義テキスト:2冊 3冊
論文対策テキスト:1冊
租税法 論文マスターテキスト:2冊 3冊
直前対策テキスト:1冊
経営学 経営管理論 論文マスターテキスト:1冊 4冊
直前テキスト:1冊
財務管理論 論文マスターテキスト:1冊
直前テキスト:1冊
全科目合計 29冊

また、これだけでなく、問題集や答練など、他の教材も存在しますので、「取り組むべき教材の量」は凄いことになります(・_・;)。試験科目についても、会計を軸としつつ、監査、法律、税金、経営(ファイナンスを含む)と多岐にわたっています。

この記事の結論になってしまいますが、公認会計士試験の難しさは、「学習範囲の広さ」という要素にあるのではないかと思います。

③ 暗記すべき量の多さ

学習範囲が広いということは、その分覚えるべきことは多くなると思うかもしれません。
しかし、公認会計士試験で求められる暗記は、「単なる文字情報の暗記」ではありません。「意味のあること」を「判断、説明できる」ように暗記すればいいのです。「てにをは」も含めた単純な条文暗記みたいなものはほとんど必要ありません。意味のあることを、試験に対応する形で引き出せるようにすればいいのです。コツを掴めば、暗記負担の悩みは解消していくのではないかと思います。このあたりについては、上記②も含めて、別の機会に対処法を書いていければと思います。

④ 出題される問題量の多さ(相対的な解答時間の不足度合い)

こちらは、科目によって異なります。短答式試験の企業法、論文式試験の経営学などは、時間が余る傾向にありますので、十分に見直し時間を確保することができます。一方、管理会計論(短答・論文ともに)や租税法(論文式試験)については、全ての問題を時間内に解き切ることはほぼ不可能な量になっています。

]このように、科目によっては問題の量が多く、解答時間が不足することになります。しかし、解答時間の不足感は多くの合格者にとっても同じです。また、論文式試験は素点ではなく偏差値をもとに合否が判定される相対試験です。したがって、問題量の多さが合格可能性を下げるわけではありません。全ての問題を解き切る必要はなく、むしろ問題の取捨選択がポイントとなります。

ただし、この話は下記⑤に書いている「ある程度の解答スピード」を身に付けていることが前提となります。

⑤ 実技的な要素と水準の高さ

計算科目を中心に、ある程度の練習を積み、「内容を理解・定着」させることに加え、「ある程度の解答スピード」を身に付けていくことが必要となります。これは一種の実技的な要素といえるかと思います。

「内容を理解・定着」させることについては、上記①で書いたとおり、1つ1つの計算が特別に複雑であったり高度なわけではございません。適切に学習を続けていくことで、なんとかなる範囲だと思われます。

解答スピードについては、こちらの記事を参照していただければと思います。公認会計士試験の合格に必要な解答スピードは、決して簡単に身に付くレベルではなく、日々効果的な練習を積み上げていく必要があり、その大変さは、公認会計士試験が難しいと言われる要素の一部になっているかと思います。ただし、それは超人的なものではなく、練習を積みさえすれば、なんとかなる範囲だと思われます

⑥ 倍率の高さ(合格率の低さ)

ここ5年間くらいの公認会計士試験の合格者率は、短答式試験が願書提出者の10%前後、論文式試験が論文式受験者の35%前後で推移しています。短答式は年2回ありますので、そのどちらかに合格すればよいため、「短答式も含めた願書提出者」に対する最終合格者の割合は10%強で推移しています。詳細なデータは、公認会計士・監査審査会HPにおいて、各年度の合格発表時に公表されています。

参考 公認会計士・監査審査会ホームページ公認会計士・監査審査会

10人挑戦して1人受かるくらいの試験なので、決して楽な試験ではないと思います。しかし、合格率が低いからといっても、「他人との競争」が激しいわけではございません。どちらかというと、「自分との戦い」に勝つことが大変だということができます。

理由は、上記②に示した「学習範囲の広さ」にあります。「合格するためにやるべきこと」が分かっていても、その量をこなすことができないまま本試験を迎える人は、相当な割合でいることと思われます。2013年度以降、公認会計士・監査審査会HPでは短答式試験合格発表時に「得点階層分布表」が公表されているのですが、得点比率50%以上の人(要は半分以上正答できている人)の割合が2~3割くらいとなっています。個別事情は様々あると思いますが、各専門学校のカリキュラムを通じて明らかにされる「合格するためにやるべきこと」(ある程度の理解や定着を含む)がこなしきれているならば、少なくとも得点比率50%以上は獲得できるはずです。これを下回っている方の多くは、「本当はやるべきだったけど放置してしまった課題」が残っているのではないでしょうか?

大変ではありますが、「学習範囲の広さ」という課題を克服するだけで、合格を争う土俵に上がることができるものだと思います。切磋琢磨するライバルはいても良いと思いますが、他人を蹴落としてまで上にのし上がる必要は全然ありません。受験生の方は、自分との戦いに集中し、まずは一通りのカリキュラムをこなしきることをマイルストーン(通過点となる目標)にしていただければと思います。