はじめに
計画の成否は、「軌道修正力」で決まる
ひとり旅の醍醐味は、現地での様々な「想定外」にあります。首都から200km離れた目的地に向かうため、現地人しか乗らない高速バスに乗ったものの、代金の支払い方法がわからない。残り30km地点の町で日が暮れてしまい、お湯の出ないオンボロモーテルに宿泊する。飲み屋で仲良くなった店員に交渉し、翌日トライシクルで現地まで送ってもらう。現地オススメの屋台で一緒に昼食をとり、フィリピンの田舎町の文化を知る。最後に、目的地での絶景に感動する。
これは私が初めての海外ひとり旅としてフィリピンに行った時の実体験です。出発前はあれこれと様々な計画をし、頭の中でシミュレーションを重ねました。その時点でとても楽しんでいましたが、いざ現地に向かうと全然想定通りに行きません。でも、この「想定外」こそ、ひとり旅の醍醐味だったのです。ひとり旅を楽しむには、想定外を前向きに捉え、状況に応じて行動を変えていくことが大切だと知りました。
資格試験において合格する学習計画とは、目的地に向かって前進するための地図です。地図がなくても正しい方向に進めば合格するし、逆に誤った地図を手にしていてはどれだけ前進しても合格しません。大切なことは、今進んでいる道が目的地に向かっているのか否かです。
そもそも、日常の学習に気が乗らない人は、合格の先にある目的地、すなわち資格取得後の職業や人生に魅力を感じていない可能性があります。学習習熟度が計画通りに行かない人は、努力の方向性に問題があります。合格後にやる気の出ない日々を送っている人は、合格の先にある目的地を見失っています。いずれの場合も、「軌道修正」がキーワードです。まず、現状を把握し、自分がどこにいるのかを確かめる。その上で、目的地までの距離や方向を確かめる。場合によっては、目的地そのものを変えてしまう。そんな「軌道修正力」が、合格に不可欠なのです。
1. 目標を、「軌道修正」する
日々の活力は、大目標に支えられる
公認会計士試験は、合格までに平均3年以上かかる長丁場です。受講生からの相談で最も多いのも、長期の学習で生じる「勉強のやる気が上がらない」という悩みです。もちろん、3年もある学習期間の中でやる気の波があるのは仕方がありません。でも、それが頻繁に起こるとしたら、自分の意志力を疑う前に、資格取得を決意した時に掲げた大目標を思い返してみてください。たとえば会計士試験に合格して専門家キャリアを極める、高給取りとして豊かな生活をする、キャリアの選択肢を増やす、海外で働く機会を得る、など。資格取得を通じて職業を選ぶ目的は、自身の「幸福の追求」に集約されます。受講生の皆さんは、「今より幸せになるために、資格合格を目指している」はずなのです。
大目標を、自分で選ぶ
幸せの価値観は多様であり、日々変化していくものです。でも、多くの人は「世間の幸福観」によって自分の幸せを定義しがちです。「お金はたくさん稼いだ方が幸せになれる」「育児と仕事を両立することが幸せ」「下積みや努力は、後に必ず幸せを運ぶ」など。自分の資格受験における大目標が「他人の幸福観」によって決められた人は、勉強が長続きしません。なぜなら、それは自分の「やりたいこと」ではなく、「やらされている」ことだからです。
資格試験は、任意です。任意の試験に膨大な時間と労力をかけるためには、自分が心の底から望む大目標が必要です。今もし学習モチベーションで悩んでいるのなら、資格合格で得たいもの、資格合格をどのように役立てたいかをノートに50個ずつ書き出しましょう。心の底に眠っている「好き」を集めれば、資格合格と自身の幸福観を結びつけ、強力な日々の学習モチベーションにすることができます。大目標をメンテナンスし、日々の活力を高めましょう。
2. 計画を、「軌道修正」する
成果は、戦略の精度で決まる
私が所属する監査法人では合格前の受験生をアシスタント職員として採用しており、彼らに対して学習指導する機会があります。前年に合格できなかった人の原因は、①勉強不足、②努力の方向性誤りの2点です。①については先述の「目標を軌道修正する」を通じて、日々の勉強量を増やしていけば問題ありませんが、問題は②です。合格者と同程度勉強しているのに、不合格だったというパターンです。これを防ぐには、学習戦略を考える必要があります。
学習戦略はアウトプット思考、学習計画はインプット思考
学習戦略は、最終合格をゴールとして「何をいつ、どのレベルまで習得する」というアウトプットの予定です。学習計画は、戦略を達成するために「何をいつ、どれくらいの量をやる」というインプットの予定です。努力しても成果が出ない人は、前者の学習戦略に問題があります。
私の会計士受験においては、学習計画はボロボロだったものの、学習戦略には長けていました。過去問を早い段階から解き始め、本試験のレベル感を体得する。答練では常に難易度ランクを意識し、直近の本試験の感覚を参考に、ときには講師がつけたランクを修正し、自分の中で「このランクだけできれば、合格する」という指標の精度を高める。私の学習計画は、Aランクでできなかった問題を中心に「重要度順に勉強する」というシンプルなものでした。これで合格できたのは、日々の学習で問題の重要度の見極めと、「何をいつ、どのレベルまで習得する」というアウトプットベースの学習戦略を重視したからです。まず、アウトプットを基準に予定を考え、その達成手段としてインプット計画を立てましょう。
学習計画には、優しさを
『合格に不可欠な3つの役割:リーダー、マネージャー、プレーヤー』では、合格ビジョン、学習計画、タスク管理という合格に必要な3つの要素を、役職に例えて述べました。学習計画は、ついつい無理しがちなものです。計画通りに進まなくて落ち込むことなどはよくあることです。無理と我慢は、継続を妨げる最大の敵です。学習計画でつまずいている場合は、「どうやったら自分が心地よく前進できるか」を考えましょう。自分のペースで前進できるようになれば、スピードは後からついてくるはずです。焦らず、無理せず、等身大の自分に自信を持って前進していきましょう。
3. 日常を、「軌道修正」する
やる気の波は、必ずある
学習計画に悩む人のほとんどは、インプット側である日々の学習習慣に問題を抱えています。たとえば、平日は仕事や学校の後、毎日3時間勉強するという計画があるにも関わらず、1時間程度しかできない、あるいは全く勉強できない日が続いてしまう。こうした話はよくあることです。ですが、これらに対する姿勢によって、その後の明暗が大きく分かれます。
継続するには、「機会損失」を捨てる
短期合格する人は、肯定的に捉えます。時間がない中「ゼロではなく」1時間できた、やる気の波の底が3日間「で」済んだ。反対に受験が長期化している人は、1時間「しか」できなかった、勉強できない日が3日「も」続いてしまったと、否定的に捉えてしまうのです。計画の不達成に対して必要以上に自分を責めることは、日々の学習モチベーションを支える自尊心を下げることに繋がり、悪循環に陥ってしまいます。それを防ぐには、「~だったら○時間多く勉強できたはず」というタラレバ、すなわち機会損失の考え方を捨てることです。常にゼロベースで、昨日の自分と比較する。ほんの少しでも進めば前進、立ち止まっても明日への備えとして肯定的に捉える癖がつけば、自己肯定感が向上し、結果として日々のやる気の波が上昇するのです。
「明日の自分」への優しさが、今日の努力
私たちは無意識のうちに、「今日の自分」中心主義になり、「明日の自分」を軽視しがちです。「今日は疲れたから、残りは明日まとめてやろう」「最近やる気が出ずに勉強が進まないけど、直前期の追い込みでなんとかなるだろう」「今日ぐらい夜更かししても、明日の勉強に問題ないはず」など。実際は、「明日は明日でやることがある中で昨日の分までやる」「ただでさえ切羽詰まる直前期に基礎期の積み残しをやる」「普段でも集中するために工夫を要するのに日中から睡魔が襲う」なのです。考えればわかることですが、「明日の自分」はいずれ「今日の自分」になります。
『与える努力が、報われる』では、「与える」意識が合格を近づけるという話をしました。受験生がまず与えられる相手は、「明日の自分」です。「明日の自分」に優しくすることを心がけていれば、体調や学習環境に少しずつプラスが積み重なっていきます。これが3年間続けば、まさに雲泥の差です。やる気の波に沿って着実に前へ進む人と、いつまでもやる気が上がらないモチベーション難民に、分かれるのです。「明日の自分」への優しさが、今日の努力。優しさをベースに、今日のあと一歩を積み重ねていきましょう。