【公認会計士・簿記検定受験対策】初級者は気をつけたい、簿記2級の落とし穴

目次

はじめに

丸暗記で簿記2級に合格した人は、真っ先にAIに取って代わられる

簿記2級は、会計の基礎知識を理解するための便利なツールです。簿記の根幹である複式簿記の仕組みや、会社がビジネスにおける様々な取引を、どのように数値化し、どのようにに財務諸表にまとめるのかを、体系的に理解することができます。ただ1点、大きな落とし穴があります。最初は会計知識を身につけようと思って始めた簿記の勉強が、次第に「仕訳問題の解答」ばかりに気が取られ、学習がつまらなくなってしまうことです。ほとんどの会計処理がシステム化され、今後はAIの活用からさらに自動化が進むと言われる現代会計において、丸暗記で取得した簿記検定ほど、真っ先に淘汰されるものはありません。会計の本質は、ビジネスを数値にまとめ上げる技術であり、ビジネスの成果を表す表現方法なのです。大切なことは、表現方法を理解して「ビジネスそのものを視る力」を養うことです。簿記検定の落とし穴に惑わされず、活きる会計知識を身につけましょう。

1. 会計は、見えないものを測る道具

お気に入りのレストランの味は、会計数値によって決まるか

会計は、ビジネスを描写する表現方法の一つです。裏を返せば、ビジネスの価値を表現する方法は、いくらでもあるのです。たとえば、お気に入りのレストランの魅力。このお店の価値を、あなたならどう表現するでしょうか。カリカリに炒めたベーコンが印象的な絶品のカルボナーラ、程よくおしゃれで、店員のサービスも行き届いて居心地のよい店内。こんな表現になるでしょうか。間違っても、月商〇〇百万円、営業利益率が業界水準の1.5倍、総資本回転率が〇〇…などとは、決して言わないでしょう。

会計数値は、ビジネスを支える

では、会計数値がレストランの魅力に無関係かというと、決してそんなことはありません。企業は、顧客から対価を得てサービスを提供し、得られた対価とかかった費用との差額=利益を分配することで、活動を継続することができます。「利益の分配」には、提供するサービスの質を高めるための「再投資」が含まれていることから、利益を計上している企業のサービスは、さらに良くなる傾向にあります。レストランの例でいうと、利益を継続的に計上できていれば、同じ価格でより良い質の材料を使った料理を提供したり、従業員により多くの賃金を支払うことで、既存従業員の士気向上や、優秀な料理人やウエイターの獲得も可能になるなど、利益によってお店をさらに魅力的にすることができるのです。

会計数値の魅力は、ビジネスの共通言語であること

「伊藤レポート2.0(持続的成長に向けた長期投資研究会報告書)」でおなじみの会計学者、伊藤邦雄先生は、著書の『新現代会計入門』で「会計とは、ビジネスの共通言語である」と述べています。「レストランの魅力」を語るには「味」「サービス」「雰囲気」といった、外食産業の言語を用います。ビジネスの価値を他業種と比べる場合には、外食産業の言語で比べることはできませんが、「売上高」「総資産」「営業利益率」のような、会計数値又は財務分析数値を使えば比較できます。会計数値は、あくまでビジネスの一端を表す指標でしかありません。でも、その幅広い活用法に、価値があるのです。

2. 複式簿記は、会計史上最高の技術

財政状態と経営成績を、同時に測定する

仕訳に対してアレルギーを持つ人は多いですが、そもそも仕訳に借方と貸方、2つの数字が並ぶのはなぜでしょうか。簿記2級学習者であれば、「複式簿記だから」という模範解答が思い浮かぶでしょう。ではなぜ、複式簿記が世界中のビジネスの現場で、今もなお採用され続けているのでしょうか。私が考える答えは、「会計の目的である財政状態と経営成績の測定を同時に達成し、かつ、貸借対照表(BS)と損益計算書(PL)が常に整合するという、不正防止システムを備えているから」です。

PLとBSは、常に繋がっている

複式簿記は、借方と貸方、言い換えればPLとBSが繋がっているから、簿記システム内で不整合が起きないのです。たとえば、会社がこれまで積み上げてきた利益を表すBS科目「利益剰余金」のホームポジション(プラス残高の場所)は貸方(資本の部)ですが、利益の源泉となるPL科目「売上高」のホームポジションも貸方。逆に、利益の減少要因であるPL項目「売上原価」のホームポジションは借方、利益剰余金のマイナス残高も借方です。

資産と負債の発生額の差が、利益

PLとBSの繋がりが利益に直結するのに対し、BS同士の仕訳はそうではありません。受取手形/売掛金という仕訳は、決算手段を変更する資産振替仕訳、現預金/長期借入金という仕訳は、同額の資産と負債の発生仕訳。BS同士の仕訳で「等価交換」をする時は、PL科目の出番はなく、損益は発生しません。逆に、振り替える際に少しでも差が生じてしまう場合、その差額が損益になるのです。現預金150/機械装置100、固定資産売却益50という仕訳は、資産の振替(現預金と機械装置)の差額を、50の利益として集計したものです。このように整理すると、利益は、純資産(資産―負債)の増加額に等しいことがわかります。

複式簿記だから、不正が起きにくい

日々の仕訳計上した取引は全て集計され、BSとPLへと集約されます。各仕訳の貸借は必ず一致し、当然、BS、PLの貸借も必ず一致する仕組みになっています。これらは、帳簿上の不正を防止する働きがあります。たとえば、不正に利益を上げようとして、取引が存在しないのに「借方なし/貸方売上」という仕訳を切る。そうすると、PLの利益額とBSの純資産変動額にズレが生じ、BSの貸借が不一致になることから、簡単に見破ることができます。もう一歩進んで、「売掛金/売上」という仕訳を切ると、一見、BSPLは整合するように見えます。でも、相手の存在しない「売掛金」が回収されることは一生ないため、BS残高や売掛金補助元帳に永遠に残り続けることから、BSや補助元帳を数年比較すれば、これも見破れる仕組みになっています。ただし、こうした不正防止システムは、あくまで帳簿内部に限られます。負債の簿外計上や第三者と共謀して行なう「循環取引」、損失を連結外子会社に付け替える「飛ばし」などを防止するには、コーポレートガバナンスや内部統制の整備など、別の不正防止システムが肝要になってきます。適切な会計報告を行なうためには、そのための組織を構築することが不可欠です。会計士受験生に限らず簿記2級学習者も、これらについて少しでも知っておくと、会計への視野が広がり、日々の学習が楽しくなることでしょう。

3.財務諸表の意義を知る

PLは、期間限定利益の計算結果

ビジネスにおいて、利益は事業を継続するために欠かせない燃料です。たくさんのお客さんに愛されるお店も、損益が赤字であればいつか必ず倒産します。企業活動は、適正利益を継続的に計上して、初めて成り立つものなのです。

損益計算は、実は現金収支さえ記録しておけば簡単に計算することができます。現金収支計算は、単式簿記の世界です。文化祭の露店の決算などはその一例で、会計知識が皆無の学生でも、利益計算は容易にできます。もっとも、露店で利益が必ず出るのは小売業の売上原価の大半を占める「人件費」を加味しないためです。「利益が打ち上げの飲み代になった」というのも、会計上の正確な解釈は、「一日働いた給料として、飲み代をもらった」ということになるのです。

複式簿記によって作成されるPLは、期間限定利益が計算できるという点が、強みです。売上時に現金収支を伴わない「掛け売り」などの取引、長期にわたって使用する大型設備の費用を、現金支出年度ではなく、使用期間にわたって均等計上する仕組み。こうした会計処理は、BSとPLを同時に処理することが可能な複式簿記だけができるのです。

BSは、PLを繋ぐ「連結環」

我が国の会計史においては、「企業価値は、収益力にあり」との観点から、PL数値を重視してきました。ここで重要なキーワードは、「取得原価会計」です。これはごく当たり前の考え方で、「利益を計算するためには、買った値段(=取得原価)を記録し、売った値段(=収益)との差額のみを利益とする」というものです。この取得原価会計に基づいてBSを作成すると、資産と負債には、取得原価(=過去に支払った金額)のみが計上されます。この取得原価を上回る対価を稼得できれば、利益となり、下回れば損失となる、非常に明瞭なシステムなのです。

PLを主としてみたとき、BSは、PLを繋ぐ連結環です。たとえば、期首BS資本100→PL利益30→期末BS資本130。まずPLに焦点を当て、企業の収益力を測る。そのうえで、BSが利益に応じてどれだけ変化するか(資産・負債のバランスが変化し、純額30の変動となる)をみて、企業の規模や財務の安全性を確かめる。シンプルに財務諸表の繋がりをみることは、個々の取引仕訳が大分類としてどういった意味を持つのかへの理解を助けます。財務諸表に対し、PLは当期にどれだけ稼いだか、BSは稼いだ結果としてどれだけ資産・負債が積み上がったかを表すもの。難しく考えず、財務諸表をざっくりと理解しましょう。

連結会計は、現代経営のダイナミズム

連結財務諸表が作られるのは、企業が連結グループ単位で動いているからです。親会社は事業戦略や主力事業を行い、子会社Aは〇〇製品の製造、子会社Bは〇〇製品の販売、子会社Cはグループ会社の輸送事業を担うなど。各社はグループ全体の利益のために事業活動を行うため、局所的に赤字を計上したり、単一の会社だけでは成り立たない事業も存在します。こうした事情を加味して、ビジネスの動向を有意義に表現するのが、連結財務諸表なのです。

連結会計は、連結財務諸表を作成するため必要な会計理論です。連結会計とはその名の通り、グループ企業の財務諸表を「連結する」、すなわち単純に合算していく作業です。唯一の論点は、グループ内取引をどう相殺するかです。大まかな方法は、売上・仕入取引の総額の消去、売掛金と買掛金、貸付金と借入金などの債権債務の消去、そしてグループ内取引によって生じた期末在庫に含まれる利益額の消去です。細かい話は、置いておきましょう。全体像として、①単純合算する、②グループ内取引を消去するのが、連結会計なのです。連結会計を大まかに理解し、現代のダイナミックな連結グループ経営に触れましょう。

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