会計監査を経験して感じた受験勉強とのギャップ

目次

1.はじめに

合格後はじめての期末監査を経験し、多くの点で受験勉強とのギャップを感じました。たとえば、監査論は論文6科目のうちの1科目でしかないのにも関わらず、実際の監査現場では圧倒的に監査の知識が求められます。特に新人が担当する監査手続では、現預金や固定資産など求められる会計知識は簿記2級程度です。監査知識はというと、各法人のグローバル監査マニュアル(EY, KPMG, Deloitte, PwC等)に従って手続を行うため、そのマニュアルの膨大さに圧倒されました。基本的に国際監査基準(ISA、監査基準委員会報告とほぼ同じ内容)をベースにしており、受験で習った知識もあるものの、実際に手続を立案することは非常に難しく感じました。このように、私が感じた試験勉強と監査実務のギャップを受験生の皆さんにご紹介し、少しでも会計監査に興味を持っていただくとともに、ご自身の会計士キャリアを考える参考にしていただけたらと思います。

2.会計より、監査の知識

新人は、期末実証手続がメイン

監査は年間を通じて行われており、監査計画から期中監査、内部統制の整備評価等を経て、期末監査へ臨みます。また、監査はリスクアプローチに基づいて行われるため、期中に行ったリスク評価をもとに、実証手続の時期・種類・範囲を決定します。しかし、新人が担当するのは入所時期の影響から、基本的に期末の実証手続がメインです。そのため、目の前に与えられたタスク(銀行確認状の送付及び文書化、固定資産の増減表作成など)ばかりに気をとられがちで、全体を俯瞰するのが難しいと感じました。先輩に話を聞くと、例年、新人は前期監査調書に従って当期監査を終え、手続をやっていくうちに理解を深めていくという形が多いようです。いずれにしても、比較的リスクの低い手続でも、従う基準や求められる品質は他の先輩と同様であることに驚き、そして知識の足りなさに大きな焦りを感じました。

実務で監査知識を習得する

もう一つ感じたのが、実務知識は実務で培う、という点です。私は合格後、12月に正式に監査法人に入所し12月決算の会社を3社経験しましたが、期末監査1社目の現場と3社目では気持ちの余裕が全く違いました。なぜなら新人が担当する科目は基本的に変わらないため、一つの会社を終えるごとに疑問が解消し、また次の会社では復習&さらなる理解を深めることができるからです。そこで大切だと感じたのが、手続の意味をしっかりと考えることです。過年度調書はあくまで参考情報でしかなく、当期の手続は担当者である自分自身が考えるほかありません。適切な手続及びその文書化を行うためには、手続がなぜ行われるのか、何を立証したいのかを明確にする必要があるからです。たとえば銀行確認状は、ブランクで送付し、残高の実在性及び正確性の確認だけでなくデリバティブ契約や担保資産等、銀行との取引の網羅性も立証します。その意味で、一定量の座学をおさえておき、それを実務で試していくのが一番の近道なのではないかと考えました。

3.監査サービスという商品

目に見えない、「信頼付与」というサービス

会計監査サービスは、監査法人が提供する商品です。受験生時代、会計士の仕事はプロフェッショナルである、という点に私は憧れを抱いていました。実際に監査現場に行ってみると、無条件でクライアントから尊敬されるわけではない、という当たり前の事実に打ちのめされました。財務諸表監査は財務諸表に信頼を付す、という目に見えない価値の提供です。信頼を付す監査人自体が信頼に足る人物でなければ監査の意義を揺るがしてしまうことから、私は会計士として最も大切な点は信頼感だと改めて実感しました。

信頼を得るためには、コミュニケーションが重要

新人がクライアントとコミュニケーションとる機会といえば、自分の担当する手続における不明点を経理担当者に質問することです。たとえば、売上取引テストでは、選んだ何件かの売上取引の外部証憑(注文書・検収書等)と帳簿上の売上取引金額を突合しますが、そこで不一致項目があった場合は担当者に質問して原因を調査します。

ここで大切なのは、①不一致の内容②あるべき金額(帳簿と証憑どちらが正しいか)③回答内容・差異原因の評価(説明が合理的か、必要に応じて根拠資料を入手できるか)というように、問題を整理して質問及び応対をすることです。私も1社目に行った会社ではたくさん質問し、たくさん失敗しました。しかし徐々にコツをつかみ、事前に要点をまとめるなどの工夫を重ねた結果、往査終盤では経理担当者から日常業務の会計上の相談を受けるような関係を構築できました。このように、クライアントから信頼を得るためにはスムーズなコミュニケーションが欠かせないことを実感することができました。

4.会計監査は、チームワークがすべて

財務諸表項目ごとに、手続が割り当てられる

財務諸表監査では、勘定科目ごとに手続を割り当てられます。一般的に、新人はリスクが低いとされるBS科目(現預金、固定資産、純資産)、PL科目では販管費などを担当します。その上の年次(2~4年目)は売掛金、売上、棚卸資産、退職給付など、シニアになると税金といったように、各年次で役割分担をします。主査はこれら現場スタッフのサポート及び進捗管理を行い、意見日までの期間内に手続を完了させることが求められます。このように監査は分業制のため、誰かひとりでも遅れが生じると主査をはじめとする先輩がカバーすることとなり、遅れの大きさによっては多大な負担となってしまいます。そのため、チームワークであるとともに、「期日に終わらせる」というプレッシャーも、期末監査を経て非常に強く感じました。

監査報告書は、監査チーム全員で成り立っている

財務諸表監査の最終成果物は監査報告書1枚であり、サインするのはパートナーのみです。しかしその裏には、膨大な量の手続とプロフェッショナルである会計士の検討の積み重ねがあることを、実際の監査現場で目の当たりにして驚きました。スタッフが手続を実施し、主査が現場管理する、マネージャーが監査全体の舵取りをし、パートナーが最終決定を行いサインするこの一連の役割が1枚の紙に詰まっていると考えると、自分の仕事をとても誇りに思いました。

5.おわりに

はじめての期末監査を終えて、思うこと・感じたことを中心に述べてきました。私は、監査はとても面白い仕事だと思っています。財務諸表に信頼を与えるという目に見えない価値の提供、社会のインフラとして公共性の高い仕事、プロフェッショナルとして高い倫理観と専門性が求められること。これらを誇りに思うとともに、自分の成長と比例して社会に貢献できると考えると将来に向けてとてもワクワクします。受験生の皆さんも、会計士を目指すからにはぜひ会計監査に興味を持ってみてください。そして実務に関して疑問を持ったら、身近な合格者や先輩にぜひ質問してみてください。それらを通じ、会計監査の実務と「今」の受験勉強が少しずつ近づいていくのではないかと考えています。それでは、一人でも多くの受験生の皆さんとの、来年の期末監査を楽しみにしています。

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