前回の記事では、2026年12月(令和9年第Ⅰ回短答式試験)から導入される「英語出題」の背景について解説しました。配点は500点中50点程度と予測されていますが、合格ラインが数点で決まる会計士試験において、この1割をどう攻略するかが合否を分けるポイントになります。
出題傾向として最も警戒すべきは、単なる英語の読解ではなく、「IFRS(国際財務報告基準)特有の論点」が英語で問われるパターンです。導入経緯にもある通り、資本市場の国際化が背景にある以上、日本基準とIFRSの違いを英語で理解しておくことは必須といえます。
今回は、シリーズの「大枠編」として、試験で狙われやすく、かつ実務でも極めて重要なIFRSと日本基準の4つの大きな相違点について、概要を徹底解説します。
なぜ「違い」が英語で狙われるのか?
英語出題の目的は、会計士としての国際的なリテラシーを問うことにあります。そうなると、作成者側としては「日本基準独自の処理」と「国際標準(IFRS)の処理」の対比を問題にしたくなるのが試験の本質です。
特に以下の5項目は、会計理論の根幹に関わる部分であり、英語の専門用語とセットで学習効率が非常に高い論点です。
1.のれん(Goodwill)の取り扱い
最も有名で、かつインパクトが大きいのが「のれん」です。
- 日本基準:定期償却を行う(Amortization)
のれんを資産として計上した後、20年以内の合理的な期間で費用化していきます。保守主義の観点から、価値は少しずつ減っていくという考え方です。 - IFRS:非償却、減損テストのみ(Impairment-only approach)
IFRSではのれんを償却しません。その代わり、毎年「価値が下がっていないか」を厳格にチェックする減損テスト(Impairment test)を義務付けています。
2.減損損失(Impairment)
減損は認識の「ステップ」とその後の「減損損失の戻し入れ」の有無で大きな違いがあります。
・日本基準:兆候の有無、認識の2ステップで減損を認識し、減損の戻し入れは認められない。
・IFRS:減損の兆候ありで減損損失の測定を行う。代わりに減損の戻し入れ(Reversal of impairment loss)ができる(ただし、「のれん」の戻し入れはに禁止)
日本基準は兆候の有無、認識の「2ステップ」で減損損失の計上を慎重に検討しますが、IFRSは減損の兆候(Indication of impairment)が認められた場合、ダイレクトに回収可能価額(Recoverable amount)と比較します。そのため減損が発生しやすいですが、業績が回復すれば元に戻せる(戻入れができる)という柔軟性があります。
3.リース会計(Lease Accounting)
リースの処理は、IFRS16号の導入により劇的な差が生まれました。
- 日本基準:ファイナンス・リースとオペレーティング・リースを区分
「所有権移転外」などの条件に基づき、売買処理か賃貸借処理かを分けます。 - IFRS:使用権モデル(Right-of-Use model)による一元化
借り手側は、原則としてすべてのリースを資産(使用権資産)と負債(リース負債)としてバランスシートに計上します。「オフバランス(帳外)」処理が原則認められないのがIFRSの特徴です。
なお、日本基準も新リース会計基準が適用されることに伴い、この違いは解消されます。日本基準もIFRSに合わせる形で、使用権モデルに基づき、すべてのリースを使用権資産(Right-of-use (ROU) assets)とリース負債(Lease liabilities)を計上します。
4.研究開発費(Research and Development Costs)
「将来の収益」をどう捉えるかの思想の違いが出ます。
- 日本基準:すべて費用処理
研究開発費は発生時に全額費用として処理します(保守的な考え方)。 - IFRS:研究(Research)は費用、開発(Development)は条件付きで資産計上
一定の要件(技術的実現可能性など)を満たした「開発フェーズ」の支出については、無形資産(Intangible assets)として計上することが求められます。
開発費の資産計上(Capitalization of development costs)が認められるのがIFRSの特徴です。
5.金融商品のリサイクリング(Recycling)
少々高度な論点ですが、その他有価証券を時価評価した際に生じる「その他有価証券評価差額金」の売却時の処理方法に違いがあります。
- 日本基準:売却時に損益計算書を通す(リサイクリングあり)
その他有価証券などを売却した際、それまで純資産に計上されていた含み損益を、当期の利益として損益計算書(P/L)に振り替えます。 - IFRS:金融商品の種類により、リサイクリングを禁止
特に「その他の包括利益を通じて測定する資本性金融資産(FVTOCI)」については、売却しても利益をP/Lに振り替えること(Recycling)を認めない選択肢があります。
ポイントとして、売却時の損益がP/Lを通るのか、直接利益剰余金へ行くのかという違いがあります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。今回挙げた5つのポイントは、日本語の試験でも頻出の重要論点です。
英語出題への対策は、ゼロから英語を勉強することではありません。
1.日本語で論点の違いを完璧に理解する
2.その論点のキーワード(Goodwill, Impairment, ROU assets 等)を英語で紐付ける
この2ステップだけで得点能力は飛躍的に高まります。
「英語があるから会計士を諦める」のではなく、「英語もできる会計士になって市場価値を上げる」という攻めの姿勢で取り組んでいきましょう!


