【夏季休業期間のお知らせ】

「社会人1年短期合格のススメ」 Vol.28.日商簿記1級対策 -商業簿記・会計学 論点別の対策ポイント⑧-

目次

はじめに

 前回のVol.27.では、日商簿記1級の会計学・商業簿記のうち、ストック・オプションについて、論点別の具体的な対策方法をご紹介しました。今回も前回に引き続き、主に日商簿記1級での新規論点・応用論点を取り上げ、それぞれの学習のコツをご紹介したいと思います。

自己株式・自己新株予約権

 自己株式・自己新株予約権は、日商簿記1級で学習する新規論点です。いずれも「自己」と名前が付いており非常に似通っていますが、会計処理はそれぞれ異なるため注意が必要です(私が日商簿記1級を学習していたときには、自己株式と自己新株予約権の区別がつかず苦労した経験があります…)。

まず、自己株式とは、自社が発行した株式を取得し保有する場合の当該株式のことです。なぜ自社が発行した株式をあえて自社で保有するのかというと、自己株式には様々なメリットがあるためです。たとえば、自己株式を保有していれば他の企業を買収する際の対価として利用することができますし、他にも自己株式の取得により市場に流通する発行済株式総数を減少させることで1株当たりの株式価値を高めることができます。上記のようなメリットをご理解いただければ、自己株式に対するイメージを持って学習できるのではないでしょうか。

次に、自己新株予約権とは、新株予約権を発行する会社が、自らが発行した新株予約権を取得した場合の当該新株予約権のことです。あくまで株式会社の株式の交付を受けることができることができる権利に過ぎないところが、自己株式とは異なる点です。たとえば、新株予約権の保有者が行使条件を充足できないケースや新株予約権の消却が必要となるケースにおいて、自己新株予約権が計上されることがあるようです。ただし、自己新株予約権は自己株式と比較して広く活用されているようには見受けられませんので、お目にかかる機会はなかなか無いかもしれません。

そして、自己株式・自己新株予約権の学習のコツは、それぞれの会計処理を会計理論とともに理解することです。「資本取引」と「損益取引」がキーワードです。「資本取引」とは株主との直接的な取引であり、企業の元手である資本金と資本剰余金等を直接増減させる取引のことです。一方で、「損益取引」とは資本を元手として行われる費用や収益が発生する取引であり、企業の儲けである利益を増減させる取引のことをいいます。

ここで、既存の株主から取得した株式であるという特徴を踏まえれば、自己株式は株主と直接行われる取引ですので「資本取引」に該当します。したがって、自己株式の処分や消却により生じた差額は株主資本の一種である”その他資本剰余金”で調整します。

一方で、自己新株予約権は株主と直接行われる取引ではありませんので、「損益取引」に該当します。したがって、自己新株予約権の処分や消却により生じた差額は”自己新株予約権処損(益)”や”自己新株予約権消却損(益)”として損益計算書上に計上します。

このように会計処理の背景となっている会計理論を理解することで、自己株式及び自己新株予約権の会計処理をスムーズに覚えることができるはずです。

余談ではありますが、自己株式と自己新株予約権の会計処理の比較は、会計士試験論文式試験の典型的な論点です。したがって、皆様が論文式試験を受験する際には、しっかりと論述ができるように会計理論をしっかりと暗記する必要があります。日商簿記1級では実際の会計処理方法や計算方法を重視して学習しますが、公認会計士試験短答式試験・論文式試験では会計処理の裏側に存在する会計理論も深く学習します。会計理論の理解・暗記は大変ですが、会計処理の背景やしくみを学ぶことは公認会計士の血肉になります。何となく公認会計士試験のイメージを持っていただけましたでしょうか。

1株当たり情報

 1株当たり情報は、日商簿記1級で学習する新規論点です。1株当たり情報とは、1株当たり純資産額、1株当たり当期純利益金額または当期純損失金額、潜在株式調整後1株当たり当期純利益金額を総称した用語です。1株当たり情報は、基本的に財務諸表の注記として開示されることが求められるものです。したがって、企業が期中で何かしらの会計処理を実際に実施するのではなく、開示書類に掲載する1株当たり情報を期末時に別途計算するものであるという点が、日商簿記1級の他の論点と異なる特徴です。正直なところ、日商簿記1級の本試験問題では1株当たり情報が大々的に出題されることは少ないかと思いますので学習の余裕がない方は学習を後回しにしても良いかもしれません。ただし、今後会計士試験の学習では1株当たり情報を必ず理解する必要があります。

1株当たり情報の学習のコツは、一言で言えば丸暗記です。
1株当たり当期純利益・潜在株式調整後1株当たり当期純利益・1株当たり純資産の算出式を頑張って丸暗記しましょう。ただし、潜在株式調整後1株当たり当期純利益については、ワラントや転換証券が存在するか否かにより、計算方法が異なります。したがって、潜在株式調整後1株当たり当期純利益は、テキストの例題を通じて計算方法を体で身に付けるようにするのが得策です。なお、日商簿記1級の本試験で十分合格点を取るという目的であれば、これ以上の対策は特段必要ないのではないかと思います。

おわりに

 今回は、日商簿記1級の会計学・商業簿記のうち、自己株式・自己新株予約権、及び1株当たり情報について、具体的な対策方法をご説明しました。次回も今回に引き続き、論点別の具体的な対策方法をご説明しますので、乞うご期待ください。

講座パンフレットやお得な割引情報などを無料でお届けします。
講座についてのご相談を受け付けております。お気軽にお問合せください。
講座のお申し込み案内ページです。講座をお申し込みの方はこちらからどうぞ。
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次