はじめに
前回のVol.23.では、日商簿記1級の会計学・商業簿記のうち、固定資産の減損、繰延資産について、論点別の具体的な対策方法をご紹介しました。今回も前回に引き続き、主に日商簿記1級での新規論点・応用論点を取り上げ、それぞれの学習のコツをご紹介したいと思います。
リース取引
日商簿記2級では、リース取引のうちファイナンス・リース取引の借手側の処理(利子込法等)とオペレーティング・リース取引の借手側の処理を学習しました。一方で、日商簿記1級ではその派生論点として、ファイナンス・リース取引の借手側の処理(利息法等)やファイナンス・リース取引の貸手側の処理、オペレーティング・リース取引の借手側の処理を学習します。ただし、リース取引については、本ブログ記事の執筆時点2023年9月時点で会計基準改正に向けた公開草案が公表されていますので、基準改正後に本ブログ記事を閲覧される場合には、最新のテキストをもとに新たな会計基準に沿った学習を進めてください。本ブログ記事では、基準改正前のテキストの内容に沿い、学習のポイントを解説したいと思います。
まず学習を始めるときには、なぜ企業はリース取引を必要としているのか、改めて考えてみましょう。そもそも”リース”とは”賃貸借”を意味する用語であり、簡単に言えば、企業が必要とする機械等を企業の代わりにリース会社が購入し、一定期間にわたって一定のリース料を対価として企業に当該物件を賃貸することを指します。ここで企業が自ら機械等を自腹で購入せず、リース会社を介して賃貸されるのはなぜでしょうか。その理由は、たとえば、信用力が乏しい企業では自腹で機械等を購入する資金余力が乏しいため、信用力のあるリース会社の力を借りて機械等を使用するニーズがあることが挙げられます。また、リースによって、企業が資産管理の手間を省くことができるメリットも存在します。主にこれらの理由により、世の中の企業にはリース取引の需要があります。このような経済的実態を理解すれば、単に無心でリース取引の問題を解くだけではなく、リース取引の具体的なイメージを持って学習を進めることができるはずです。
次に、具体的な会計処理を学習する際には、リース取引の全体像を俯瞰し、ご自身が学習されているところが全体のどの部分に該当するのか、意識するようにしましょう。リース取引を効率的に学習するキーワードは”場合分け”です。具体的に言えば、リース取引とはフルペイアウトと契約解除不可の要件を満たすか否かにより、ファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引に大別されます。そして、ファイナンス・リース取引は一定の要件を満たすか否かにより、所有権移転型と所有権移転外型に大別されます。そして、それぞれ利息法・利子込法・定額法等の具体的な会計処理を使い分けます。また、リース取引の当事者が借手(企業)と貸手(リース会社)のいずれかであるかにより、会計処理も異なります。このように、リース取引を細分化したうえで、それぞれのケースごとに具体的な会計処理を学習するように心がけましょう。そうすれば、本試験で実際にリース取引が出題された際にも、具体的にどの会計処理を使うのか、瞬時に判断できるようになるはずです。
社債
社債は、日商簿記1級で学習する新規論点です。社債は民間の会社が発行する債券のことを指し、主に大規模な会社等が金融機関からの借入(=間接金融)によらず、投資家からの借入(=直接金融)によって資金調達をするときに利用されます。社債の計算問題では細かい計算が必要とされることから、ケアレスミスによって失点することが多く比較的リスキーですので、注意して慎重に問題を回答するようにしましょう。社債を効率的に学習する方法は、大きく分けて2点ありますので、それぞれご紹介したいと思います。
まず、社債の会計処理を学習する際には、リース取引と同様に、全体像を俯瞰し、ご自身が学習されているところが全体のどの部分に該当するのか、意識するようにしましょう。リース取引と同様に、社債を効率的に学習するキーワードは”場合分け”といえます。社債は、償還方法・償還金額・償却原価法の違いにより、会計処理が異なります。クレアールのテキストには、償還方法と償還金額がうまくまとめられたマトリクス表が掲載されていますので、ぜひ参考にしてください。また、償却原価法は定額法と利息法の場合で計算方法が異なりますので、実際のテキストの例題の問題演習を通じて、計算方法を体で覚えるようにしましょう。 また、社債の計算問題でのケアレスミスを少なくするためには、計算時の下書きを上手に書くことが効果的です。日商簿記1級では、日商簿記2級以上に細かく正確な計算が求められますので、計算時の下書きをいかにきれいに素早く書けるかどうかは非常に大切なポイントです。社債に限って言えば、おすすめの下書き方法は、長い右矢印を一本書き、短い縦線で均等に右矢印を区切り、各縦線の上に各期末日を記載するタイムライン形式で情報を整理することです。Google等で「社債 計算問題 下書き」等と画像検索すれば、似たような下書き方法を見つけることができますので、ぜひ試してみてください。
おわりに
今回は、日商簿記1級の会計学・商業簿記のうち、リース取引と社債について、具体的な対策方法をご説明しました。次回も今回に引き続き、論点別の具体的な対策方法をご説明しますので、乞うご期待ください。