1. はじめに
2019年6月9日(日)の第152回日商簿記検定まで、残り約2週間となりました。
本試験までにできることも絞られてくる頃かと思いますが、 テキストや問題集、答練、過去問など、取り組む教材はこなしきれないくらいあるのが通常です。 何をどれだけ学習すればいいのか迷っている方もいると思います。 そこで、私の出題予想(個人的なものである点をご了承ください)をもとに、本試験の成果に結び付く日商1級の学習メニュー(逆転合格プラン)を書いていきたいと思います。
2. 逆転合格プランの留意点
これから書いていく逆転合格プランは、とある受講生から学習相談を受けたことをきっかけに見い出したものです。 このプランのポイントは、出題予想をもとに最重要論点を絞り込み、その最重要論点をできるだけ過去問を通じて習得していくというものです。 これまでの学習が思うように捗っておらず、 残り期間で何をやればよいか困っている方を想定していますが、 学習に余裕がある方の最終チェックにもご活用いただけるかと思います。
ただし、あくまでも何をやればいいのか迷っている方を想定していますので、ご自身でやることが決まっている方はそちらを優先させてください。 「あれもやらなきゃ。これもやらなきゃ」とむやみに手を広げ過ぎないようにご注意ください。
このプランを実行する場合、次の3点にご留意ください。
- ① 市販のものでよいので、過去問題集(できれば過去14~15回分くらいが掲載されているもの)の利用をご用意ください。同一内容を扱った答練がある場合は、それで代用するのもアリです。
- ② 可能な限り出題予想テーマに対応する過去問を提示していきますので、まずはそれを解きましょう。解けなかった問題は、解答や解説を参照しつつ解けるようになるまで繰り返しましょう。
- ③ 「気になった内容」や「分からない内容」は、これまで利用してきたテキストや問題集にさかのぼって復習してください。関連する基礎・基本を大切にすることは、本試験での現場対応力につながります。
3. 商業簿記・会計学の対策について
(1) 過去15回における商業簿記・会計学の出題傾向
商業簿記 | 会計学 | |
第 |
決算整理後残高試算表の作成 | 第1問:理論(穴埋め) |
・売価還元法 | … 外貨換算会計 | |
・社債の抽選償還 | (為替予約、外貨建有価証券) | |
・税効果会計 など | 第2問:会計上の変更 | |
第3問:繰延税金資産の資産性(記述) | ||
第 |
連結財務諸表の作成 | 問1:理論(穴埋め) |
・子会社が3社 | … 正規の簿記の原則、長期前払費用、 | |
・一部売却 | C/F、持分法、為替予約 | |
・在外子会社の換算 | 問2:転換社債型新株予約権付社債 | |
・その他の包括利益 など | 問3:株式交換 | |
第 |
決算整理後残高試算表の作成 | 第1問:理論(誤りの指摘) |
・不渡手形の処理 | … 固定資産、減価償却、売上計上基準など | |
・長期貸付金の譲渡 | 第2問:有価証券 | |
・リース取引 | 第3問:負ののれん(記述問題) | |
・銀行勘定調整 など | ||
第 |
連結財務諸表の作成 | 第1問:理論(○×) |
・連結B/Sの作成が中心 | … 転換社債、資産除去債務、その他有価証券、 | |
・連結包括利益計算書の作成もあり | 自己株式処分差額、工事契約 | |
・事業分離含む | 第2問:減損会計 | |
(分離先企業が子会社となるケース) | 第3問:理論(穴埋め)…会計上の変更等 | |
第 |
損益勘定と繰越試算表の作成 | 第1問:理論(誤りの指摘) |
・割賦販売、未着品販売 | … 自己株式、繰延税金資産の回収可能性、 | |
・セール&リースバック取引 | 貸倒の見積り、資産除去債務 | |
・ソフト・ウェア など | 第2問:リース会計(借手&貸手) | |
第3問:理論(穴埋め)…純資産の部 | ||
第 |
本支店会計 | 第1問:理論(穴埋め) |
・在外支店 | … 持分法、退職給付、債権評価、税効果、 | |
・外貨建有価証券 | 包括利益 | |
・為替予約 など | 第2問:株式移転 | |
第3問:資産除去債務 | ||
第 |
決算整理後残高試算表の作成 | 第1問:理論(穴埋め) |
・為替予約 | … ヘッジ会計、正規の簿記の原則、 | |
・売価還元法 | 消費税、割賦販売の収益認識 | |
・貸倒引当金 | 第2問:連結包括利益計算書 | |
・リース取引(中途解約) など | 第3問:理論…減損会計(穴埋め) | |
第 |
前T/B残高の推定、決算整理 | 第1問:理論(穴埋め) |
・商品売買(会計方針の変更) | … 為替換算調整勘定、共有支配下の取引、 | |
・有価証券 | 退職給付、資本連結、後発事象 | |
・固定資産(リース、減損含む) | 第2問:分配可能額 | |
・ストック・オプション など | 第3問:連結C/F | |
第 |
決算整理後残高試算表の作成 | 第1問:理論(語句の関連性) |
・長期貸付金の売却(回収業務は残存) | … 取替法、退職給付引当金、 | |
・リース取引 | 株式報酬費用、自己株式 | |
・一般商品売買(原価率の推定含む) | 第2問:包括利益、現先取引、事業分離 | |
など | 第3問:連結P/L | |
第 |
損益計算書作成など | 第1問:理論(穴埋め) |
・代理店販売による手数料 | … 使用価値、時価ヘッジ、希薄化効果、 | |
・退職給付 | 移転損益、実績主義(四半期決算) | |
・リース取引 | 第2問:在外子会社の連結 | |
・税効果会計 など | 第3問:工事契約会計 | |
第 |
決算整理後残高試算表の作成 | 第1問:退職給付会計、圧縮記帳、 |
・商品売買(委託販売を含む) | 耐用年数の変更 | |
・為替予約の独立処理 | 第2問:連結貸借対照表の作成 | |
・固定資産、有価証券、新株予約権 など | (評価・換算差額等の取扱い含む) | |
第 |
損益計算書作成など(注記金額も一部出題) | 第1問:理論(穴埋め) |
・受注制作のソフトウェア | … 修正再表示、総合償却、償却原価法、 | |
・その他有価証券 | 直接法(C/F)、共用資産 | |
・退職給付 | 第2問:通貨オプションに係るヘッジ会計 | |
・税効果会計(評価性引当額含む) など | 第3問:事業分離(連結F/Sの作成含む) | |
第 |
本支店会計 | 第1問:正しい文章の選択 |
・国内支店と在外支店 | 第2問:税効果会計 | |
・商品売買は売上原価対立法 | 第3問:共同新設分割 | |
・セールアンドリースバック | (連結F/S上の取り扱いを含む) | |
・200%定率法など | ||
第 |
連結財務諸表の作成 | 第1問:理論(穴埋め) |
・B/S、P/L、S/S(利益剰余金のみ)、 | … 独立処理、区分法、評価・換算差額等、 | |
包括利益計算書 | トレーディング、見積現金購入価額 | |
・その他有価証券評価差額金あり | 第2問:退職給付会計 | |
第3問:吸収合併、のれんの減損 | ||
第 |
決算整理後残高試算表の作成 | 問題1:関連する語句の選択 |
・未着品販売 | 問題2:文章選択、語句と金額の穴埋め | |
・為替予約 | …商品の評価、リース取引、 | |
・事業承継 | 自己株式、税効果、連結 | |
・資産除去債務 など | 問題3:記述(財務報告の目的) |
(2) 商業簿記・会計学の個人的出題予想
第1予想 | 第2予想 | 第3予想 | |
商業簿記 | 損益計算書など | 決算整理後残高試算表 | 連結財務諸表 |
会計学 |
語句穴埋め | 誤りの指摘 | 〇×問題 |
会計学 |
キャッシュ・フロー計算書 (連結キャッシュ・フロー計算書を含む) |
リース会計 | 税効果会計 |
資産除去債務 | 連結包括利益計算書 | 持分法 |
商業簿記では、前回(第150回)の試験で決算整理後残高試算表が出題されました。同一形式での出題可能性は低くなりますが、 決算を伴う一般的な総合問題が出題される可能性は高いと考えられます。 したがって、決算整理後残高試算表を含め、一般総合問題の対策は必須といえます。
また、1級商業簿記では連結会計の総合問題が出題されることもよくあります。 前々回(149回)で出題されたばかりですが、今回出題されないとは言い切れません。 会計学で連結会計が出題されることもあり、連結会計は抜かすわけにはいかないのが実情です。
会計学は、出題サイクル的にそろそろと思われるものを出題予想に掲げました。
(3) 商業簿記の逆転合格プラン
第1予想から第3予想と同じテーマの過去問として、次の問題を使った練習をすると良いでしょう。
- ① 損益計算書など:第146回本試験(商業簿記)
- ② 決算整理後残高試算表:第144回本試験(商業簿記)
- ③ 連結財務諸表:第149本試験(商業簿記)、第134回本試験(商業簿記)、第131回本試験(商業簿記)。第134回は事業分離を含んだ応用ケースとなりますので、優先順位は下げていただいて大丈夫です。まずは第149回をしっかり解き、余力があるなら第131回、それでも物足りないなら第134回といった優先順位となります。最低限、第149回だけはしっかりと復習しておきましょう。
これらを通じて各形式に応じた総合問題の解答練習を行うだけでなく、気になった内容や分からない内容は、テキストや問題集にさかのぼって復習しましょう。また、現金預金、商品売買、貸倒引当金、有価証券、固定資産の減価償却、退職給付会計、外貨換算会計、ストックオプション、税効果会計など、商業簿記の総合問題に盛り込まれやすい典型論点について、可能な限りテキスト・問題集で一通りの基礎・基本を復習しておくことをお勧めします(これらは会計学で出題される可能性もあります)。
(4) 会計学の逆転合格プラン
① 第1問について
毎回ちょっとした語句穴埋めなどの理論問題が出題されますが、 通常、計算対策で登場する専門用語の知識とその理解があれば合格点を取ることが可能です。 計算対策学習で登場する専門用語を疎かにしないように気を付けましょう。
理論問題のため特別な対策としては、 最低限、次の内容を各自ご使用のテキストなどで確認しておくと良いでしょう。
- 企業会計原則の一般原則(原則名とそのニュアンス)
- 損益計算に関して、発生主義、実現主義、費用収益対応の原則、費用配分の原則といった専門用語とそのニュアンス
- 概念フレームワークにおける資産・負債・純資産・株主資本・包括利益・純利益・収益・費用の定義。
- 概念フレームワークで示された会計情報の質的特性(意思決定有用性、意思決定との関連性、信頼性、比較可能性、内的整合性といった用語とそのニュアンス)
② 第2・3問について
上記(2)に掲げた出題予想テーマについて、現在市販されている過去問題集でカバーできるのは次のとおりでしょうか。
- 連結キャッシュ・フロー計算書:第140回本試験(会計学第3問)
- 資産除去債務:第137回本試験(会計学第3問)
- リース会計:第135回本試験(会計学第2問)
- 連結包括利益計算書:第138回本試験(会計学第3問)。ただし、これが出題された当時は連結会計に関する基準改正が行われる前でした。利用する場合は、改訂が反映されたものを使うようにしましょう。内容も少し応用的となっていますので、無理に解かなくても大丈夫です。
- 税効果会計:第147回本試験(会計学第2問)。
- 持分法:持分法をメインとした問題は第122回に出ているのですが、市販の過去問題集では入手しづらいかと思います。
これらを解きつつ、関連する基礎・基本をテキスト・問題集で復習するようにしましょう。
4. 工業簿記・原価計算の対策について
(1) 過去15回における工業簿記・原価計算の出題傾向
工業簿記 | 原価計算 | |
第 |
実際工程別組別総合原価計算 | 設備投資の意思決定 |
・平均法 | ||
・非度外視法 | ||
・組別総合原価計算に関する穴埋め | ||
第 |
実際組別総合原価計算 | 予算実績差異分析 |
・2工程(ケース加工部門と組立部門) | ||
・材料費計算含む | ||
・製造間接費の配賦計算 | ||
第 |
問題1:標準原価計算 | 問題1・2:差額原価収益分析 |
… 配合差異・歩留差異など | 問題3:設備投資の意思決定 | |
問題2:理論(穴埋め)…基準6(二) | ||
第 |
標準原価計算 | 設備投資の意思決定 |
・3工程 | ||
・工程間に在庫有り | ||
第 |
第1問:仕掛品勘定の記入など | 第1問:CVP分析 |
第2問:材料費(理論) | 第2問:差額原価収益分析 | |
第3問:標準原価計算(理論) | ||
第 |
第1問:原価計算基準前文(理論) | 第1問:直接原価計算 |
第2問:工程別組別実際総合原価計算 | 第2問:直接原価計算(理論) | |
第 |
第1問:標準原価計算 | 第1問:直接原価計算(理論) |
… 配合差異・歩留差異など | 第2問:直接原価計算 | |
第2問:標準原価計算(理論) | (予算編成的側面が中心) | |
第 |
本社工場会計 | 設備投資の意思決定 |
・費目別計算 | ||
・各種差異の推定 | ||
・工場損益、企業全体の損益の算定など | ||
第 |
第1問:費目別計算など | 第1問:CVP分析 |
第2問:補助部門費の配賦(理論) | 第2問:事業部制 | |
第 |
第1問:実際総合原価計算 | 品質原価に関する差額原価収益分析 |
第2問:原価差異の会計処理(理論) | ||
第 |
第1問:標準原価計算(理論) | 第1問:設備投資の意思決定 |
第2問:標準原価計算 | 第2問:差額原価収益分析(事業部間の内 | |
(原価差異の会計処理) | 部振替価格の検討を含む) | |
第 |
第1問:部門別計算 | 第1問:活動基準原価計算 |
第2問:部門別計算(理論) | 第2問:価格決定など(正誤問題) | |
第3問:設備総合効率の分析 | ||
第 |
個別原価計算(ロット生産) | 第1問:連産品の原価計算 |
品質原価計算も含む | ・追加加工の意思決定 | |
第2問:CVP分析など | ||
第 |
本社工場会計 | 問題1:価格決定 |
問題2:原価要素の分類 | ||
第 |
実際組別総合原価計算 | 第1問:予算編成 |
活動基準原価計算に関する語句穴埋め | 第2問:受注可否の意思決定 | |
(2) 工業簿記・原価計算の個人的出題予想
第1予想 | 第2予想 | 第3予想 | |
工業簿記 | 工程別標準原価計算 | 費目別計算など | 部門別計算 |
原価計算 | 設備投資の意思決定 | 予算実績差異分析 | 事業部制 (CVP分析も含む) |
工業簿記では、しばらく出題が途絶えている標準原価計算が大本命と考えられます。とくに、工程が複数に分かれているケースが出題サイクル的にぜひ対策しておきたいところです。
工業簿記の第2・3予想は、費目別計算、部門別計算です。これらは、工業簿記・原価計算全般の基礎になるため復習しておいていただきたく、出題予想に加えさせていただきました。出題サイクル的にはもう少し後な気もしますが、今回出題されてもおかしくはない感じです。
原価計算は、設備投資の意思決定、予算実績差異分析が出題サイクル的に大本命です。第3予想の事業部制は、事業部別損益計算書の作成、ROIやRIなどの計算・活用、内部振替価格はもちろん、CVP分析の要素も盛り込んだ出題がしやすいテーマとなります。CVP分析、可能であればその前提となりうる直接原価計算も対策しておきたいところです。
(3) 工業簿記の逆転合格プラン
第1予想から第3予想と同じテーマの過去問として、次の問題を使った練習をすると良いでしょう。
もちろん、「気になった内容」や「分からない内容」は、テキストや問題集にさかのぼって復習しましょう。
- ① 工程別標準原価計算:第134回本試験(工業簿記)
- ② 費目別計算など本試験(工業簿記)。費目別計算だけでなく、工業簿記に関する処理の一巡を復習するきっかけとして活用していただきたい問題です。
- ③ 部門別計算:第146回本試験(工業簿記)。ただし、問5については補助部門用役の自家消費を計算に反映させる応用的な内容となっています。また、第146回の本試験のみでは部門別計算の一部しか復習ができないので、テキスト・問題集などで部門別計算に関する問題は一通り復習しておきたいところです。
(4) 原価計算の逆転合格プラン
第1予想から第3予想と同じテーマの過去問として、次の問題を使った練習をすると良いでしょう。 もちろん、「気になった内容」や「分からない内容」は、テキストや問題集にさかのぼって復習しましょう。
- ① 設備投資の意思決定:第144回本試験(原価計算の第1問)、第140回本試験(原価計算)、第129回本試験(原価計算)。第129回は市販の過去問題集で入手することが難しいのですが、持っている方は優先的に解くことをお勧めします(内容・難易度ともに1級対策として最適な問題となっています)。第140回は難易度が非常に高いですが、設備投資の意思決定に対する理解を深めるには非常に役立つ問題です(歯が立たない場合は無理をしなくても大丈夫です)。
- ② 予算実績差異分析:第131回本試験(原価計算)。市販の過去問題集で入手できない場合は、テキスト・問題集などで一通りの基礎を復習するようにしましょう。
- ③ 事業部制(CVP分析を含む):第135回本試験(原価計算の第1問・第2問)、第138回本試験(原価計算の第2問)、第141回本試験(原価計算)、第144回本試験(原価計算の第2問)、第147回本試験(原価計算の第2問)など、関連する内容が部分的に散りばめられて出題されています。ただし、必要な対策をまとまった形で行うには、テキスト・問題集などで関連するテーマを一通り復習することをお勧めします。
5. 最後に
ここまで紹介してきた内容を少ないとみるか、多いとみるかは、人それぞれかと思います。しかし、合格を狙うために最低限これだけはやっておきたいという内容でもあります。直前期は本試験が差し迫っていることによる締切効果もあり、これまでよりもハイペースかつ深く学習を進めることができる時期です。
最後まで諦めず取り組めば、決してこなせない量ではないと思います。 本試験まで残りわずかな日数しかありませんが、日商1級を受験する方の健闘を祈っております。