1. はじめに
私は普段、日商簿記検定や公認会計士試験の受験生を対象に受験指導をしています。日商簿記検定、公認会計士試験ともに、合格するためには問題集や答練などのアウトプット教材を用いて「問題を解く練習」をすることが欠かせません。問題集や答練は、私も含め色んな講師が「繰り返し復習すること」をアドバイスとして言っております。
この点について、受講生の方からは「何回解き直せばよいのですか?」「何回転すればよいのですか?」といったご質問を受けることがあります。
そこで、一般的に言われていることも勘案して、私なりの目安・アドバイスを整理してみたいと思います。
2. 繰り返すことの趣旨
何回転すればよいのかについては、本来は「十分に定着するまで」ということになります。何回転すれば十分に定着するかは、人それぞれですし、同じ人でも内容の得手不得手によっても変わってくるものです。
そして、「十分に定着」というのは、同じ内容が問われても悩むことなく高い精度で正答できる状態といえます。必死で時間をかけて思い出さないといけない状態や、理解(理解しているつもり?)はしていてもいざ解いてみるとミスが目立つようであれば、「十分に定着」しているとはいえません。
十分に定着していないと、本試験で「知っているはずなのに点数に結びつかない」といったことになりかねません。また、悩んで必死に思い出さないといけないレベルでは解答時間も足りなくなります。時間が足りなくなれば余裕がなくなり、ミスも増えるものです。
そのためには、「知らない・分からない」ものを「知った・分かった」状態にして、さらに同じレベル・内容の問題であれば「悩まずに高い精度で解ける」ようにすることが重要です。
3. 計算の目安は3回転?
計算分野については、3回転という話を色々なところで耳にします。私も受験生時代、ひとまず3回転というアドバイスを複数の先生から聞いていたので、それを目安に繰り返すようにしていました。
しかし、この3回転という目安だけが先行し、形式的に「3回解けばOK!」みたいになっている受験生も多く見かけます。試験は、合格点に達するだけの正答を制限時間内に獲得してこそ合格となります。3回解くというノルマを達成すれば合格できるものではありません。私自身、単に3回解いただけでは不安な問題もたくさんあったので、結果的に取り組んだ問題の大半は5~7回くらい解き直すことになりました。
目安がないとゴールが見えず、ひたすら苦しいものになってしまいますので、3回転を1つの目安にしてもいいと思います。しかし、ただ3回転をすればよいわけでなく、次のような点に気を付けていただければと思います。
(1) 自力で解き切って1回
まずは自力で解き切るようになることが必要です。単に解いただけで、正答に結び付けられなかったものは、そもそも「できるようになっていない問題」のままです。はじめは解答・解説やテキストを見ながらでよいので、自力で正答できるようになるまでの練習が必要です。
そして、自力で解けるようになったことをもって1回と数えるとよいでしょう。その1回できるようになった問題が、2回目、3回目もできてこそ、「十分に定着」したということができます。
まず1回目の「自力で解ける」に辿り着くためには、難易度に応じて次のように取り組むとよいでしょう。
① 解答・解説やテキストを見れば計算手順がわかるもの
→ 「その日、その場、その時間のうちに数回繰り返す」という方法が有効です。
私自身、簿記の退職給付会計の典型問題を初めてできるようになった時、次のようなことを、「その日、その場、その時間」でやりました。講義を聴いただけでは手がおぼつかなかったのですが、これをやることでスムーズに解ける感覚を得ることができ、また仕組みに対する理解も得ることができました。
- ⅰ まずは解答・解説やテキストを見ながら手を動かしてみて、
- ⅱ それができたら全く同じ問題をその場でまた解き直し、
- ⅲ それでもまだ手間取ったりするのであれば再度解き直し、
- ⅳ まだ不安が残るのであればダメ押しのもう1回!
② 解答・解説やテキストを見ながらやっても計算手順すら分からないもの
→ 例えば、連結会計や企業結合会計の超応用論点など、学習を進めていくと一筋縄では解き切れない内容にぶち当たることがあります。その場で時間をかけてもできないようなものは、「この部分が分からない・できない」ということ自体を頭の片隅に置いて一旦寝かせておいてもよいでしょう。先に進むと分かることもありますし、一通り進んで次の回転をする際に取り組めば分かることもあります。
なお、そのような問題ばかりが続く場合、前提となる基礎力が不足している可能性もあります。基礎力が不足しているのであれば、必要なところまでさかのぼって勉強し直すことをおススメします。
(2) 制限時間を設ける
「自力で解ける」だけではなく、それを「制限時間内にできる」ことも必要です。また、繰り返す度に早くできるようになると思いますので、制限時間も徐々に短くしていくことも大切です。
(3) 「繰り返す問題」と「解き捨ての問題」を使い分ける
答練の中には、細かすぎたり難しすぎる内容が含まれることもあります。非常識合格法を提唱しているクレアールであっても、「解答すべき問題の取捨選択」の練習となるよう、そのような問題をあえて含めることがあります。このような、捨て問となるような問題は、その場での取捨選択の練習が目的なので、無理に繰り返す必要はありません。
それに対し、基本的な知識を活用すれば解ける問題については、同じレベルに対応できるようにするため、十分に繰り返す必要があります。
このように、「繰り返す問題」と「解き捨ての問題」を区別することで、学習の効果性と効率性を高めることができます。
(4) 関連する基礎・基本を意識する
「繰り返す問題」には、それに関連した基礎・基本があるものです。単に与えられた問題のパターンを覚えるのではなく、どのような基礎・基本があるのか、その基礎・基本知識をどのように活用するのかを意識するようにしましょう。
4. 理論は頭の中で習慣化
計算科目が結局「単純に3回解いただけでOK」というのと同じく、理論も「3回やればOK」みたいなものとはなりません。「一言一句の暗記」は不要ですが、内容やキーワードを本試験で活用できるレベルにまで身に付けておく必要があります。
スピーチなどによって、キーワードを適切に使いこなし説明(論述)できるようになるまで繰り返しましょう。結果的に同じ内容を7~10回、あるいはそれ以上(数え切れないくらい)復習することになると思います。