試験合格前に監査法人に就職することについて

1. はじめに

最近、監査法人が「トレーニー採用」などの形で試験合格前の採用をしていることがあります。通常、公認会計士試験に合格した後に就職するケースが圧倒的に多いのですが、試験合格前に監査法人に就職し、監査業務などの経験を積みながら試験の合格を目指すルートも存在しているということなのです。

主だったものは、次のようなところでしょうか。

参考 監査トレーニー(中途・第二新卒)募集EY新日本有限責任監査法人 参考 公認会計士育成採用(JCPA)PwCあらた有限責任監査法人 新卒採用

複数の受講生から「この採用に応募した方が良いかどうか」という相談を複数いただいております。多くの場合、「働きながらの勉強で合格できるのか?」という不安があると思われます。そこで今回は、この点に関する私なりの見解を書いていきたいと思います。

2. 私の経験について

実は、私自身もこれと似たような形で監査法人にお世話になったことがあります。2006年当時、私は短答式に通過したものの、論文式は会計学の科目合格のみで最終合格をしておりませんでした。そんなとき、みすず監査法人(今は解散しています(;_:))が短答式合格者を「サブスタッフ」として採用していました。監査業務の補助者として働きながら、試験直前期には3ヶ月近くの休暇をいただけるというとてもありがたい機会でした。貴重なチャンスだと思って応募し、それからは監査業務を経験しながら試験勉強をさせていただくことになりました。

そして翌年、2007年度の試験は監査論のみ科目合格で、またしても最終合格ならず…。仕事をしながらの勉強が大変だったというより、大切な試験直前期に気持ちが萎えてしまっていたのが敗因でした。それに対し、サブスタッフとして入所していた同じ部署の同期半数以上は見事合格していました。合格していた人の多くは、限られた時間を有効活用するとともに、試験前休暇の約3ヶ月間フル稼働で取り組んでいた印象です。

さすがにその次の年(2008年)には合格しないと短答免除期間も終わってしまいますし、監査法人内での居所もなくなってしまいます。ここでようやく危機感にスイッチが入りました。企業法以外は答練で安定して偏差値60くらいをとれるようになり、苦手だった企業法も8月の試験直前ギリギリで十分戦えるレベルに仕上げることができました。そうして2008年度の試験でなんとか最終合格を果たすことができました(受験生の皆さんはもっと短期間での合格を目指してくださいね…^_^;)。

ちなみに2008年度、つまり入所2年目の時点で、サブスタッフとして入所した同じ部署の同期の累計7~8割くらいが最終合格していました。

私自身の話はさておき、受験生全体の合格率(論文式受験生の約35%前後)よりも高い合格率となっていたのは注目すべき点といえるでしょう。

 

3. 試験合格前に監査法人に就職することのメリット

勉強時間が減ってしまうにも関わらず、先に監査法人に就職した人の合格率が高いことがあるのは、次のような理由(メリット)によると考えられます。勉強時間が減ったかわりに勉強の密度を上げ、次のメリットを活かすことができれば、受験専念者に負けないだけの試験対策をすることができるといえます。

(1) 合格することが当たり前というマインドになる
(2) 良い意味での危機感が得られる
(3) 実務に関わることで、試験内容に対する理解を深めることができる

(1) 合格することが当たり前というマインドになる

監査法人以外の世界では公認会計士試験に最終合格する人は少数派です。受験指導校の中であっても、短答式前に挫折する人、短答式で不合格になる人もいるため、最終合格者(論文式合格者)というのは「選ばれし成功者」のように映りやすいものです。受験生のほとんどはその最終合格になるために一生懸命努力されているのですが、そこに辿り着くまでのハードルが高く感じてしまうこともあるものです。

それに対し、監査法人の世界では試験合格者の方が多数派になります。周りにいる先輩や同僚の多くは試験に通過している人たちばかりです。そんな中にいると、不思議と合格することは当たり前という考え方になることができます。合格した人達と一緒に仕事をする中で、合格者のマインドを自分にも取り込んでいくことができる感覚でしょうか。

また、試験に合格した人達ばかりとはいえ、試験合格後は専ら実務の世界だけで生きております。実務に関する能力や知識はとてつもなく高い人が多いのですが、試験に関する知識はかなり衰えています。マネージャークラスの人から「連結財務諸表を作るとき、子会社の配当に関する連結修正仕訳ってどうやるんだっけ?」「為替予約の振当処理って、これで良かったかな?」なんていう日商簿記1級の基本レベルに関することを問われたこともあるくらいです。

そうすると、こんなことが分からなくなる人でも合格できたんだということで、「自分にも合格はできるんじゃないか」と思うことができます。灘高校や開成高校の人達が、「あんな先輩でも東大に入れたのだから、自分たちでも東大に入れるはずだ」と自然に思うことができるのと似たような感じでしょうか。

(2) 良い意味での危機感が得られる

受験に専念している人の中には「いつになったら合格できるかな?」という不安と闘っている方もいると思いますが、監査法人に入ってしまえばもう「合格するしかあり得ない」状況となります。合格に対する切迫感、危機感が一段上がりますので、それを良い方向に活かすことができれば、「いつになったら合格できるかな?」という不安に引きずられて学習の生産性を落としている場合ではなくなります。

(3) 実務に関わることで、試験内容に対する理解を深めることができる

監査業務では、実際に行われた取引内容を把握したり、企業がおかれたリアルな状況を把握することになります。また、具体的な処理や表示の適切性を考えるうえで会計監査六法などの原文を調べることになります。また、実査や棚卸立会、確認状による確認、分析的手続などの監査手続を実際に行うことになりますし、それらを行っていく年間スケジュールも意識することとなります。

このような業務を経験していけば、試験に関する様々な知識をリアルなものとして考えることができ、理解を深めることができます。どの科目にもプラスの影響があるのは間違いないですが、その中でも特に監査論を具体的かつリアルに考えることができるのはとてつもないメリットがあります。

 

4. 試験合格前に監査法人に就職することのデメリット

監査法人に就職することは、試験対策上次のようなデメリットも生じてきます。これは監査法人に限らず社会人受験生全般と共通する部分が多くなります。ただし、監査法人のトレーニー採用などの場合には、試験前休暇などによってデメリットが軽減されていることが通常です。

(1) 勉強に割ける時間・エネルギーに制約が生じる
(2) 恵まれた環境に甘えてしまうorプレッシャーに負ける可能性もある
(3) ある程度の知識がないと仕事自体の効率が下がってしまう

(1) 勉強に割ける時間・エネルギーに制約が生じる

日中は仕事に追われることとなりますので、まとまった勉強時間がとれるのは早朝か夜になります。日中の仕事で疲れてしまうと、夜の勉強はサボっちゃおう…なんてことにもなりかねません。早起きして早朝の頭がクリアなうちに密度の高い勉強をする、スキマ時間を有効活用するなどといった工夫を習慣づける必要があります。

(2) 恵まれた環境に甘えてしまうorプレッシャーに負ける可能性もある

ひとまずの収入を得ることができます。また、正社員として採用された場合、試験に落ちてもなんとか生活はできます。そんな中、今年落ちても来年まで短答免除期間が残っているという状況なんかがあると、つい甘えた考えに負けてしまう可能性があります。私が入所1年目で試験に落ちたのは、これが一番の原因でした。

逆に、合格しないと監査法人内での居場所がなくなるのではというプレッシャーを感じる人もいるはずです。ただし、合格しないとその後の生活、ひいては人生が大きく変わってしまうというプレッシャーは誰しも同じです。合格前に就職をした人だけの特別なものではありません。むしろ、上記3.(2)で書いたようにプレッシャーを良い方向に活かすことができれば、デメリットではなくメリットになります。

(3) ある程度の知識がないと仕事自体の効率が下がってしまう

募集している業務内容によっても異なるのですが、勘定科目の分担を割り当てられる形で監査業務を行う場合、当然ですが一定の専門知識が必要になります。簿記が壊滅的に苦手、監査論のことを全く知らないといった場合、仕事内容を理解することが困難となります。個人的には、少なくとも短答合格レベルの知識・理解が必要なのではと思います。

ただし、特別な専門知識を要しない業務を行うものとして募集していることもあります。当然ですが募集内容はしっかり調べるようにしましょう。

 

5. 最後に

私自身、試験合格前に採用していただいたことで公認会計士を目指すという道をあきらめずにすみました。試験合格前の監査法人就職には、デメリットよりもメリットの方が大きかったように思います。

ただし、各人の状況や募集内容などによって応募した方が良いかどうかは変わってきます。また、実際に就職することとなった場合には、その後の取り組み方次第でチャンスをものにできるかどうかが変わってくることも忘れないでください。