1. はじめに
この記事がアップされる頃、2018年8月の公認会計士論文式試験の直前期真っ盛りかと思います。8月の論文式試験を控え、不安や危機感を感じている受験生に向けて、精神面に関する私なりのアドバイスを書いていきたいと思います。
2. 論文式直前期に生じる受験生の傾向
どんな試験でも、たいていの受験生は直前期になるほど必死になって頑張るイメージがあると思います。しかし、論文式のように科目が多く学習範囲が膨大にならざるを得ない試験になると、逆にエネルギーが萎えてしまう受験生も出てきます。
簡単な例を用いて、(1)日商簿記1級、(2)短答式試験を通過し、(3)論文式試験に辿り着いた人によくある(※)、それぞれの試験直前期を考えてみましょう
※ よくある例ではありますが、当然個人差はあります。
(1) 日商簿記1級直前期
日商2・3級に比べれば明らかに大変かもしれないが、次のような理由で合格最低点を超えるだけの対策はなんとかなる。
- 「商業簿記・会計学」と「工業簿記・原価計算」という実質2科目だけ
- 各専門学校の出題予想によって、ある程度重要な箇所に絞り込みができる
- 計算対策が多くを占めるので、予想問題や絞り込んだ基本問題などを解けるようにする作業が中心となる。しかも、絶望感を持つようなボリュームではない。
(2) 短答式直前期
財務会計論、管理会計論という2科目だけでも日商簿記1級に理論対策などをプラスしたボリュームになり、そこに監査論、企業法という理論科目が加わってかなり大変になる。そうすると4科目すべてを万全の状態にするのが難しくなり、1~2科目くらいは苦手科目が残った状態で直前期を迎えてしまうも、次のような理由で希望を捨てず、なんとか合格ラインに滑り込む。
- 財務会計論、管理会計論の計算には、日商簿記1級で出題されるものよりも易しい問題が含まれる。
- 財務会計論、管理会計論は日商簿記1級対策で身に付けた知識を活かすことができるので、4科目すべてをゼロから積み上げるわけではない
- 苦手科目(合格レベルに届いていない科目)が1~2科目あっても、1科目につき1ヶ月くらい集中的に取り組めば、それなりに伸びしろを埋めることができる
- マークシート形式なので、分からない問題でも一定の確率で正答できる可能性が見込める
(3) 論文式直前期
なんとか短答式試験を突破して論文式を受験するチャンスを得たものの、そこから最後まで諦めずに取り組める人と、論文対策のボリュームに気持ちが萎えてしまう人に分かれる傾向がある。
① 最後まで諦めずに取り組める人
租税法や選択科目といった学習が遅れがちな科目、苦手科目が残っているものの、次のように課題を明確化するなどしてベストを尽くす。
- 残りの期間、“一夜漬け”ならぬ“一ヶ月漬け”の感覚で学習が遅れている科目を合格に必要な最低レベルまで引き上げよう!
- 最低レベルまで引き上げればいいので、問題集・答練の全部をこなす必要はない。消化できる範囲だけを繰り返そう!
- 短答科目は、論文形式に対応できるような対策をすれば何とかなる!
※ ただし、会計学の理論は配点的にも他の受験生との差がつきやすいという意味でも軽視はできません。また、企業法の答案構成の練習も論文対策における重要な課題の1つとなります。
- 誰も満点は取れない試験なのだから、差がつかない部分には時間・エネルギーを割かなければよい(例:2017年度の会計学第5問で出題された間接保有の連結における応用パターンなど)
- 残り期間から逆算して、今月、今週、さらには今日やるべき課題を意識し、1つ1つこなしていくしかない!
- 人生のかかった試験、その最後の関門を突破するためのチャンスが迫っている。じゃあいつやるか?今でしょ!(このフレーズはもう古い?^_^;でも論文式が貴重なチャンスであることには変わりません!)
- 今年しかチャンスは残されていない。今が勝負時!
② 論文対策のボリュームに気持ちが萎えてしまう人
- いったん短答式が終わった時点でホッしてしまい、エンジンをかけるのが遅れてしまった
- 租税法や選択科目など、ほとんど1から積み上げなきゃいけない科目が残っている…
- 企業法の論文対策もしなくては…
- 未受講の答練・講義が溜まっている…
- やることが多すぎてどこから手を付けていいやら…
- まだ短答免除期間が来年もあるし…
3. 危機感を感じている人は1歩リードしている
上記2(3)②のような人、実はそれなりにいるのではないでしょうか?頭の中では「このままだとヤバイ」ということがわかっていつつも、やることが多すぎてどこから手を付けていいか迷うとともに、それだけのボリュームをこなしきれる自信がない(努力が無駄になる怖さ)、さらに「来年がある」などという甘えからなかなかエネルギーを発揮できない人が論文式直前期には出てきます。そんな人たちは、正直なところ、危機感から目を背けている状態といえます。私自身、不合格だった年度はそんな状態でした(^_^;)そんなときは、自習室に行くのも億劫で、自然と学習環境から足が遠のいてしまいがちです。
そもそも、やるべきことの多い試験ですから、不安があるのは当然です。また、合格者も含めほとんどの受験生は全科目万全の対策ができずに本試験を迎えることになります。そんな中、「最後まで諦めずに取り組んでいる人」と「気持ちが萎えてしまっている人」とでは、直前期における学習の生産性は全く違ってきます。この時期における学習の生産性は合否に大きな影響を及ぼします。
危機感を感じることは決してマイナスではありません。むしろ、その危機感に向き合うことで最後まで諦めずに取り組むことができるのです。今、危機感を感じている人は、そのことをプラスに捉えてください!危機感は最後まで諦めずに取り組むための強力な原動力となります。
私自身、合格した年は短答免除期間の最後の年で、このチャンスを逃すと公認会計士となる人生をあきらめなければならないような岐路に立たされていました。しかし、そのおかげで危機感と向き合うことができ、今まで生きていた中で一番勉強に集中して取り組むことができました。勉強に集中して取り組むと、これまで苦手にしていた問題がどんどん解けるようになってきました。そうすると、「本試験に向けた怖さ」よりも「できなかったことができるようになる充実感」が圧倒的に上回る状態となりました。
4. 気持ちが萎えてしまっている人へ
この記事を見ている人の中には、過去の私のように気持ちが萎えてしまっている人もいると思います。厳しいことを言いますと、そのような人はすでに今年の合格をあきらめてしまっていませんでしょうか?たぶん、今年の試験に向けて「危機感を持て!」と言われても、そんなことは頭では分かっているという人も多いはずです。
そんな人に向けて、少しでも前進につながるアドバイスを私なりに考えてみました。
① 今年は無理だけど来年の試験で合格を目指すという人は、来年の試験で合格するために今年の試験対策でベストを尽くしましょう!
1年は早いです。来年の試験も油断するとあっという間に到来します。今年の試験を頑張ることは、直近の本試験問題がどのような内容・レベルなのかを肌で感じ取ることにつながります。点数もフィードバックされますから、自分の実力を把握することにもつながります。また、本試験会場での雰囲気や注意点を把握することもできます。そのような最高の環境で過去問演習をできるわけですから、その貴重な機会を活かすためにも、今年の試験対策をすることは無駄にはなりません。
② 論文式試験にチャレンジできる機会が貴重であることを改めて考えてみましょう。スポーツでいうところのオリンピックやワールドカップほどではないかもしれませんが、論文式試験の会場で3日間の受験をする権利が得られる人は限られています。また、受験勉強をしていくにあたっては家族をはじめとして誰かしらの協力・応援をしてもらっている人も多いはずです。この貴重な機会をあきらめてしまったら、これまで頑張ってきた自分や協力・応援してくれた人に対して申し訳ない気持ちを持つことになります。
③ どうせ誰も完璧な対策はできません。基礎・基本を中心に、できることだけでも取り組んでみましょう。普段はかなり難しい内容に取り組んでいる受験生も、本試験では基礎的な部分で失点したりするものです(だからこそ非常識合格法が有効なのですが)。テキストの基本的な例題に取り組むだけでも、それが思わぬ成果につながります。