新人時代の心構えが、会計士キャリアを輝かせる

はじめに

心構え一つが、日常を明るくする

同じ年度の入社、同じ監査チームでの仕事でも、仕事に満足感を得る人と、ストレスを感じる人がいます。その違いは、「なぜ」その仕事をしているかという、心構えにあります。会計士資格がなくてもできるような雑用していても、会計監査の仕事の一環である限り「日本の資本市場を支えている」と、仕事を大きく捉える人。高難易度、大量の監査手続を任され、「今日もたくさん働かされて辛い」と、仕事を苦役と捉える人。両者は、数年も経てば、充実感に溢れる若手会計士と、顔色の悪い転職予備軍会計士とに、明暗が分かれます。実はこの分かれ道が、新人時代にあるのです。今、会計士を目指す受験生の皆さんは、どちらを選びたいでしょうか。私は、前者を目指す受験生の人たちに向けて、新人時代に持つべき3つの心構えをお伝えいたします。

1. プライドを捨て、誇りを持つ

会計士試験は、就職活動における適性検査に過ぎない

監査人として財務諸表監査に携わるためには公認会計士試験に合格する必要がありますが、試験合格は、財務諸表監査に必要な最低限度の知識を担保する指標に過ぎません。もっと言えば、高品質の監査をするためには、知識以外に必要なことが山ほどあるのです。

クライアントからの精神的独立性や資本市場を支える独占業務従事者としての職業倫理、被監査企業の属する業界やビジネスへの理解、クライアント関係者への傾聴力、不正や虚偽表示に対する洞察力、手続の立案と結果評価に必要な論理的思考力、監査チーム内外とのコミュニケーション能力、監査調書への明瞭な文書作成力。いずれも、それまでの人生で培ってきた要素や、監査人として働きだして初めて得られる能力ばかりです。だからこそ、新人会計士が真っ先に心に刻むべきことは、試験合格という成功体験をあっさり忘れ、「これからやっと本番が始まるのだ」という謙虚さを持つことです。

やる気ではなく、誇りを大切にしよう

誤解されがちな「モチベーション」という言葉の本来の意味は、気分によって左右される「やる気」ではなく、心の底から突き動かされる「使命感」です。使命感とは、誇りです。受験時代であれば、会計士キャリアに憧れを抱き、1日も早い合格を目指す自分の姿に、誇りを持つ。新人時代であれば、社会から会計専門家として期待される役割に、誇りを持つ。どんなに辛く苦しい瞬間が訪れたとしても、心の奥底に「誇り」という火を灯し続ける。これこそが、長期にわたって充実感を生み出す、真の意味での「モチベーション」です。

妄想力から、使命感を得る

仕事を使命と感じるか、命令と感じるかは、妄想力の世界です。私は受験生時代、100冊以上の自己啓発本を読み漁り、「将来は、社会貢献と収益性を両立した持続可能なビジネスを創る社長になる」という巨大な目標を見つけました。社長になる人は、どんな思考回路で、どんな習慣を持ち、どのような行動を起こすのだろう。徹底的に研究し実践した結果として、「毎日、社長気分」となる妄想力を手に入れました。この妄想力が、今、財務諸表監査という仕事に対する使命感に直結しています。

上場会社の有価証券報告書は100ページ以上と膨大ですが、私は自分が担当した範囲について、「何万人も利用する報告書のこの数値に、自分がお墨付きを与えたのだ」という達成感を感じます。同時に、自らが生産活動を行わない会計士は、企業統治の強化や適切な財務諸表作成への助言等、生産活動を行うクライアント企業へのサポートを通じ、間接的に社会に貢献しているという自負もあります。新人会計士がやることといえば、紙面の確認状を封筒に入れて郵便局に持っていく、固定資産の取得や売上取引の仕訳と請求書などの証憑とを突合するなど、単調な作業ばかりです。でも、確かな「妄想力」があれば、目に見える小さな仕事も、目に見えない大きな使命感につながるのです。

2. 強烈な個性を持つ、師匠を見つける

将来の充実感は、「今」の充実度に比例する

「いつか幸せになりたい」「もっと自由になりたい」という人がいます。そういう人たちは、一生幸せになれず、自由にもなれません。「今」というこの瞬間に、身近な幸せや自由を感じられない人は、将来どれだけ豊かになっても、「満たされた」と感じることができないからです。

「今」を充実させるためには、確かな「目標」が必要

毎日を惰性的に過ごしている人と、有意義に過ごしている人の差は、「人生の目標」の有無です。「幸せな家庭を手に入れたい」「専門家として絶大な信頼を置かれる存在になりたい」「憧れの高級車を乗り回したい」など、具体性は問わず、何か大きな希望や目標を持っているか否かで、毎日の過ごし方が大きく変化します。私の目標は、「一流の監査人になる」「合格モチベーターとして受験生の心に火を灯し続ける」「フェラーリオーナーになる」「青山のタワーマンションを現金一括購入する」などですが、容易なものから難易度の高いものまで、とにかく自分が叶えたいことを掲げています。こうした目標を書き連ねたノートを毎日眺めていると、次第に「並大抵の成果では、フェラーリに相応しい男になれない」と、毎日をいかに充実させ、自分の能力を高めるかという意識が頭に刷り込まれていきます。結果として、目標によって毎日訪れる「今」を、120%の充実度で過ごすことができています。

目標を桁違いに高くすれば、怖いものがなくなる

私の心の師匠の一人は、スティーブ・ジョブズです。Appleの創業者として、MacやiPhoneなど、世界を感動させる製品を世に送り出してきたイノベーターです。彼の魅力は、強烈な個性です。溢れる情熱と天才的な感性で、人々を魅了し続ける反面、納得いかないことに対しては異常なまでに怒り罵倒するという、極端な二面性を持っていました。私がこのことから学んだのは、少々の弱みがあっても、圧倒的な魅力がある人間になれば、周囲や世の中にとって感動を生み出す貴重な存在になれるということです。そしてジョブズの存在は、私の仕事における品質基準にもなりました。簡単な監査手続は、瞬時に完了する。昨年の監査調書に不備があれば、クライアントへの質問や監査・会計基準の参照により、完璧かつ簡潔な調書に修正する。難しい科目であれば、主査のサポートを借りながら、最速で理解・習得する。仮にこれらが未達成でも、通常の品質基準は当然にクリアしているものです。「昨日の自分が、最大のライバル」と心に誓い、自分だけの桁違いに高い目標を追い続ける。この心構えが、「今」を充実させ、「将来」を輝かせるのです。

3. 仕事を、「好き」で埋め尽くす

日常の「好き」と「嫌い」に敏感になろう

受験生の皆さんは、「好き嫌い」について、どのような印象を持っていますか。子供の頃には、「食べ物の好き嫌いはやめなさい」としつけられ、大人になってからは「我慢が美徳」という固定観念に縛られる。その結果、「人生とはこういうものだ」と我慢が習慣化してしまった人は、 いつの間にか増殖した「嫌い」が周囲に溢れています。反対に、「好き嫌い」を肯定的に捉え、「好き」に全力を注ぐ習慣がある人は、幸福度が高いうえにそれらを周囲に伝染させ、好循環を生み出します。さらに、好きなことに没頭していくと、「好き」を見つける技術が磨かれ、日常の中にある「好き」を数えるスキルが身につきます。

「好き」を追求すると、「好き」が集まる

「熱し易く冷め易い」という言葉がぴったり当てはまる私は、様々なことに手を出しては辞めてを繰り返してきました。先日、記事のテーマにしたミニ四駆もその一つですし、音楽では「あいみょん」、珍しいところでは「メイド喫茶」にハマったこともあります。「好き」に敏感になると、「好き」を見つける感性が磨かれます。普段、暗い印象でネガティブな発言が多い先輩から、彼自身の「好き」な話を掘り下げ、たっぷりと話してもらう技術。人は、好きなことについて話している姿が一番美しいです。苦手な先輩が心から楽しそうに話している姿は、自分の気になった小さな「嫌い」を吹き飛ばしてくれました。

ミニ四駆から学ぶ、トライ&エラー精神

「好き嫌い」で選んだ道には、責任感が生まれる

責任感は、仕事を充実させ、その道で成功を収めるために欠かせない要素です。責任感は、「自分で選んだ感」に大きく左右されます。「自分で選んだ感」のある人は、「目標のために今の仕事がある」「上司に恩返しをするために邁進する」「憧れの腕時計を手に入れるために働く」など、動機が自分の内にあります。反対に、「誰かにやらされている感」がある人は、仕事をつまらなそうにやります。「生活するために働いている」「上司の命令だからやっている」「高賃金だから辛い仕事を我慢している」など、動機が自分の外にあるのです。

動機が自分の内にある人は、「仕事=自分ごと」として、自然と仕事に対して責任感を持ちます。そして責任感は、信頼を生みます。この信頼こそ、右も左も分からない新人時代に最も大切な財産です。能力やスキルがない時こそ、「好き」から生まれる責任感を大切にし、信頼を積み上げていきましょう。

おわりに

「好き」を中心にすると、すべてが上手くいく

自分の好きなことで、自分の能力を活かし、人の役に立つ。これが、私の考える理想の仕事像です。「好き」と仕事について、ジョブズはスタンフォード大学卒業式でのスピーチで、以下のように語りました。

仕事は人生の一大事です。やりがいを感じることができるただ一つの方法は、すばらしい仕事だと心底思えることをやることです。そして偉大なことをやり抜くただ一つの道は、仕事を愛することでしょう。好きなことがまだ見つからないなら、探し続けてください。決して立ち止まってはいけない。本当にやりたいことが見つかった時には、不思議と自分でもすぐに分かるはずです。

一発で自分の天職を見つけることは難しくても、目の前の「好き」に敏感になり、少しずつ「好き」の世界を広げていくことは誰にでもできます。受験生の皆さんが新人会計士となった時、そこにはどんな「好き」が待っているでしょうか。将来と今は常に繋がっています。今、目の前にある会計士受験生活の中で、一つでも多くの「好き」を見つける。この積み重ねが、将来の会計士キャリアを輝かせるのです。