短答に受からない原因の8割は、簿記の基礎にある

はじめに

短答は、簿記1級を合格、もしくは合格レベルとなってから受けるべき

会計士試験に受験資格はありません。そのため、多くの受験生は簿記2級を目途に会計士講座に進み、そのまま本試験を受験します。しかし、カリキュラムを一通りこなしただけでは、「合格が現実的になるレベル」と大きなギャップがあります。

そこで私は、簿記1級を合格、もしくは合格レベルとならない限り、短答式試験を受けるべきではない、と考えています。なぜなら、短答不合格者のほとんどが簿記1級レベルをマスターしていないこと、さらには簿記2級の範囲でさえ理解が不十分だからです。極論、非会計科目(監査論、企業法)は暗記科目です。もちろん根本の理解は必要ですが、会計科目ほど複雑ではなく、長期にわたる知識の蓄積量が少ないため、あとから挽回できるチャンスが豊富なのです。

短答合格に向けて、特に複数回すでに受験している受講生の皆さんに向けて、簿記の重要性を再認識するとともに、11月の簿記1級合格を目指すべき重要性をお伝えいたします。

 

1.簿記3級で、財務諸表の構造を理解する

まっさらな頭で、簿記3級テキストを眺めてみる

現在、短答合格を目指している人にとって、簿記3級の勉強ははるか昔のことでしょう。でも、思い返してみてください。財務諸表の種類・内容・意義、複式簿記の意味、仕訳の意味と必要性、財務諸表の利用方法など、簿記をゼロから学んだ過程です。

いま、目の前に簿記知識ゼロの自分を思い浮かべて、これらをわかりやすく説明できるでしょうか。実は、資格試験として簿記3級や2級を合格するのと、会計士になるために必要な簿記3級・2級の知識は大きく異なるのです。点数でいえば、70点が合格点として、会計士に求められる知識は100点プラスわかりやすく説明できるほどの理解となるでしょう。

簿記3級の大局的な知識は、会計士試験に直結する

前述の例でいえば、財務諸表は多くの利害関係者に対する利害調整機能と、情報提供機能を持っています。前者は会社法における剰余金の配当・債権者保護、税法による課税所得計算、政府による各種規制等、後者は投資家へのビジネス将来性予測の基礎情報、従業員その他利害関係者への業績報告等、会計士試験で問われる本質的な知識です。

会計士講座でどんどんと難しいことを学んでいくにつれ、根本的な部分を疎かにしがちになります。でも、応用論点は基礎があってこそ、身につくものです。ちょっと怪しいな、と思った方は、市販の簿記3級テキストをぜひ購入してみてください。講義を前提にして作成している予備校のテキストに比べ、読むだけで初心者が理解できるように工夫されている市販のテキストは、復習にぴったりです。短答合格のためには、簿記3級を120点分理解する。この意識で、たった1日でもぜひ3級の復習をしてみてください。

 

2.簿記2級で、ビジネスと会計の関係性を理解する

会計士に必要な簿記知識の基礎はここにある

簿記2級は、実践的な知識として、会計士試験において極めて重要です。2016年に試験範囲の大改訂があり、今後は連結会計や税効果会計も2級に含まれることとなりました。そのため、簿記2級には、現代の財務諸表を理解するために必要なほとんどの知識が詰め込まれていると言えます。そして、財務諸表の作成方法や利用方法の基礎を理解することができれば、若い年次が担当する監査手続(銀行確認状の送付、固定資産の実査、棚卸立会等)を十分行うことができます。実際にある監査法人では、非資格者の監査事務スタッフでも簿記2級を持っていれば手続を実施する、という社内規定があるほど、会計知識の担保として認められているのです。

改めて考えたい、ビジネスと会計の関係性

3級では簿記の基礎を町の商店レベルで学ぶのに対し、2級ではいわゆる「会社」全般を対象とした企業会計を学習範囲としています。ここで改めて企業会計の意義を振り返りましょう。企業会計は、会社のビジネスの成果を数値化するプロセスです。これをまとめたものを財務諸表といい、1年間の成果を表す損益計算書、年度末の財産状態を示す貸借対照表などが代表的です。

損益計算書には、大きく分けてモノを売って儲けた収益と、モノを売るためにかけた費用があります。今日の経営分析において最も重要なのが、この二者の関係でしょう。設備投資や人材投資、広告宣伝等も、すべては売上増加のためであり、経営者にはこれらの相関関係を様々な角度から検証し、最適な戦略を実行することが求められています。日本においては企業会計原則が制定されてから今日に至るまで、損益を重視する動態論(参考:「知っとく会計」http://kaikegaku.net/soron/dotaironsetairon.html)を採用しています。このため、年度末の財政状態を表す際に期間損益をベースに貸借対照表を作成することから、日本の財務諸表は損益計算書重視の会計情報であると考えられてきました。

貸借対照表は、財産の内容と資金調達元で構成されます。年度末の財政状態を計算することで、会社そのものの価値や規模、財産内容の詳細などが分かります。複式簿記の歴史を振り返っても、ほとんどの期間においてこの貸借対照表が財務諸表の中心でした。欧米においては企業買収を積極的に行ってきた事業環境から静態論(参考:「知っとく会計」http://kaikegaku.net/soron/dotaironsetairon.html)を採用し、特にIFRSや米国基準では「企業の値段」を表す貸借対照表を重視した会計情報を示しています。

 

3.簿記1級で、短答合格への進捗度80%

1級合格で、なぜ計算科目の8割が取れるのか

短答式試験の科目構成で特筆すべきは、200点満点の財務会計論と、計算問題のほぼすべてが1級範囲内の管理会計です。「会計士」試験であることから当然に会計科目の比率が高いのですが、中でもクレアールのカリキュラムでも強調されているとおり、1級合格を基礎とした計算科目習得が極めて重要です。改めてその理由をまとめると、以下の3点です。

  • ① 1級合格で、短答計算科目8割を稼げる
  • ② 一度習得した計算は、論文まで武器になる
  • ③ 計算の理解が理論習熟度を加速させる

②③については、「簿記1級の価値と公認会計士試験への有用性」で触れていますので、ここでは①について述べることとします。

簿記1級の価値と公認会計士試験への有用性

短答式試験における計算問題の難易度は、ほとんどが簿記1級レベルです。簿記の山田先生は、計算においては1級レベルである「A問題」を100%取り、「B問題」を半分以上取ることができれば合格できる、と常々おっしゃっていました。そして私自身の場合、実際の短答合格時にはそのとおりの結果になりました。

一方で「計算科目」には財務会計論と管理会計論の理論部分も含まれますが、意外にもこの理論部分が8割取得のカギになります。計算の基礎を身に着けたうえで答練や問題集を繰り返し解くと、理論問題の8~9割取得が現実的になるからです。具体的には、上記③の相乗効果によって問題演習の反復で、短答レベルの知識をほとんどカバーすることが可能になります。こうして計算7割強、理論8割強として、現実的な目標に計算科目8割取得を掲げられるのです。

監査論と企業法は、まとまった時間を確保する

非会計科目については簿記1級の範囲外のため、1級合格の利益を享受できないように思われます。しかし実際には、1級合格はこの2科目に対しても大きく貢献します。それは、一度取得すれば簡単に忘れない計算科目を仕上げると、監査論と企業法を重点的に学習するまとまった時間を確保できるからです。中には、非会計科目を直前の詰め込みでなんとかしようとする人もいますが、私は反対です。いずれの科目も一定のボリュームがあり、単なる暗記ではなく体系的な理解が必要だからです。このため私のおすすめは、1か月ずつ、科目集中期間を設けることです。特に企業法は、講義を聞いただけでは習得できず、全体的な理解をしたうえで肢別問題集を繰り返し解くことが非常に大切です。そしてこの繰り返し学習の際、せっかく同じ量をこなしても期間が開いてしまうと復習の効果が薄れてしまうことから、なるべくまとまった期間に何度も解くのが最も効率的なのです。まとめると、計算科目の習得はそれ自身の得点向上だけでなく、理論科目習得期間の確保に貢献するため、理論科目にも大きな影響を与えます。このため、短答合格の最優先事項として簿記1級合格を掲げ、まずこの目標の達成に全力を捧げていただきたいと思います。

おわりに

短答合格のカギは、たった一つの「覚悟」

私は、勉強に専念する浪人生活をはじめて約2年でようやく短答合格ができました。特に受験を決めたきっかけが就活失敗だったため、将来への不安や低い自己肯定感に悩むことも多く、必ずしも安定して学習を継続できたわけではありませんでした。それでも短答合格ができたのは、「覚悟」に他ならないと確信しています。というのも、初回の12月に10%不足、2回目の5月に3%不足して臨んだ3回目の短答試験を前に「受かっても落ちてもこれが最後」と決心し、不合格だったら会計士をあきらめる決意をしたのです。「これまで約2年間、自分のベストを尽くした。これで落ちたら、あきらめよう」と迎えた本試験当日、直前に追い込むどころか勉強量を減らしていたにもかかわらず、結果として高い集中力を発揮することができ、得点率8割・上位1%での合格ができました。

1回の試験には多くの時間、努力、情熱、周囲の協力など、多くの「資源」が費やされていています。こうした事実をしっかりと認識し、試験ごとに心理的なけじめをつけることはとても大切です。そして、本試験当日に覚悟を括って無心で臨むためには最善の準備が欠かせません。この準備の基礎として、私は簿記1級合格を強く推奨しているのです。1級合格は学習上の利点だけでなく、心理的にも非常に強い味方になります。道のりは長いですが、一歩ずつ着実に前進していきましょう。