財務諸表の「正しさ」を証明する仕事;会計監査の本質

目次

1.はじめに

戦後の証券民主化、ならびに資金需要の拡大のため、一般投資家を保護する会計監査制度がアメリカから輸入される形で導入されました。その際、会計監査資格者の名称について、「監査士」とする案が有力でしたが、結果として監査だけでなく会計の専門家であることを表現すべく、「会計士」という言葉が選ばれました。

今日、公認会計士の活躍できるフィールドは広がっています。それでも、原則として「会計監査をする専門家」であることには変わりありません。こうした背景を踏まえ、特に監査論を苦手とする多くの方へ、会計監査全体の概要を解説していきます。

2.会計監査とは、財務諸表を「正しい」と証明すること

会計監査を一言でいうと、財務諸表を正しいと証明することです。財務諸表の正しさとは、会社が行う事業活動の成果を、数値として適切に表しているかいるかどうかです。極端に言えば、儲かっている分だけ利益計上し、損した分だけ損失計上していればOKだということです。そのため、会計監査は単に帳簿を眺めるだけでなく、会社のビジネスを直に触れる仕事でもあります。

正しさを証明するため、監査証拠を収集する

財務諸表の正しさを証明するため、監査人は社内外から「監査証拠」を収集します。一般的に外部資料が推奨されているのは、クライアント自身の正しさをクライアント内部の資料で証明することは客観性・信頼性に欠けるからです。

監査証拠の例を挙げると、確認状はクライアントの帳簿残高が正しいことを証明するために外部から入手する監査証拠です(送付時:A社への売掛金100円、回答:クライアントへの買掛金100円)。また、棚卸資産の帳簿残高を確かめるため、工場の実地棚卸立会(在庫をカウントすること)の結果も、監査証拠です。

3.「正しさ」の意味は複数ある

勘定科目ごと、監査要点ごとに正しさを確かめる

財務諸表は各勘定科目によって構成されており、実際には監査人はこの勘定科目ベースで監査手続を実施します。勘定科目に計上された金額が正しいと証明するためには、その科目の性質に応じた視点から正しさを確認する必要があります。計上された金額が正確かどうか、期末残高に含まれる取引が実在したかどうか、当該取引は当期中に発生したかどうか、当該資産の権利は会社に帰属しているか、発生した取引のうち記帳されていないものはないか。これらは「監査要点」と呼ばれ、勘定科目ごとに各監査要点をクリアしていくことで、その勘定科目の「正しさ」を証明します。

全体として「正しい」と証明するための数値基準=重要性の基準値

会計監査の目的は、財務諸表への信頼付与です。具体的には、投資家や債権者、従業員や地域社会等の各利害関係者に対して、「全体として大きな誤りはない」という意見を表明することです。そのための基準値として、監査人は重要性の基準値を設定し、これを上回る誤りがなかった場合に「財務諸表が正しい」と判断します。実際には、重要性の基準値より2割程度小さく設定した「手続実施上の重要性」を用いて、各手続の判断基準にします。実務的には、原則として手続実施上の重要性を下回る勘定科目に手続を実施しません。逆に手続実施上の重要性を上回る誤りを発見した場合、監査意見に影響する重要な誤りとなるため、マネージャーやパートナーの判断を仰ぎながら慎重に結論を下すことになります。

4.会計監査サービスの質:適正意見の積み重ね

ニュースにならないこと=質が高い?

東芝の粉飾決算では、担当していた監査法人に厳しい目が向けられました。それ以前の粉飾決算事件の歴史を見ても、カネボウ粉飾による中央青山監査法人の解散、米国エンロン事件による世界的会計事務所アーサーアンダーセンの解散等、「監査の失敗」ばかり目立っています。逆に、どんなに高品質な監査を実施しても、世間に対しては監査報告書1枚を発行するので、文面も毎期ほぼ同じです。こうした背景から、監査は「成功」して当たり前というプレッシャーが常にあります。

適正意見を出せる財務諸表へ導くために監査をする

一方で、適正意見が付された財務諸表が必ずしも当初から「正しい」ものだったわけではありません。監査実務では、不正・誤謬の発見といった「批判的機能」もさることながら、適切な財務諸表作成への助言を与える「指導的機能」を発揮する機会が多いからです。特に、M&Aや減損、新規会計処理の開始など、大きな会計事象や複雑な会計処理に関しては必ず監査人との事前協議があります。会社が決定した会計処理方法に対し、「これならOK」という落としどころを会社と事前に協議したうえで決算を迎えるのです。このように、適正意見も多大な努力によって支えられています。質の高い会計監査サービスとは、適切な指導的機能と批判的機能を発揮したうえでの、「適正意見の積み重ね」なのではないでしょうか。

5.おわりに

6月現在、監査法人では3月決算が一段落しました。新人として初めて繁忙期を乗り越えて感じたのは、優先順位付けの大切さです。

(監査手続の主な流れ)
①テスト方針決定→②サンプリング→③資料依頼→④テスト実施→⑤不明点・追加情報のヒアリング→⑥調書への文書化→⑦調書レビュー(マネージャー等による調書チェック)→⑧調書レビューの指摘対応

監査手続を業務レベルで見ると上記のようになります。大事な点は、ボトルネックとなる自分以外の他者が作業をしている時間(黄色マーカー部分)を意識することです。特に、早い段階で十分な調書レビュー(⑦)を受けられると、調書の質とともに自身の監査スキルが向上します。そのため、監査実務においては、膨大なやるべき作業から重要な優先事項を整理し、正しい順序で作業を進めていくことが非常に重要だと実感しました。

「膨大な量」「限られた時間」というキーワードは試験勉強と同様です。裏を返せば、試験勉強でこうしたスキルを身に着ければ、必ず合格後の監査実務で役に立ちます。論文まで約2か月、短答まで約半年、いずれもあっという間です。1日1日を大切に、そして正しい優先順位をしっかりと意識して勉強を進めてみてください。

 

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