1. はじめに
どの受験指導学校でも、公認会計士講座は膨大な講義が用意されています。非常識合格法を提唱するクレアールアカデミーであっても、トータルすると数百時間にわたることとなります。とくに働きながら受験勉強している方などは、講義を消化するだけで手一杯になることがあります。
そのため、受講生からは「講義って全部聴いた方がいいですか?(^_^;)」「講義を聴き終えていないんですけどどうしたらよいですか?( ;∀;)」といった相談を受けることがあります。
そこで今回は、講義を一通り聴くべきか否か、また、講義を聴かない場合の学習をどのようにするべきかを考えていきたいと思います。
2. 講義を聴く目的について
小さい頃からの学校教育を含め、多くの人には勉強に際して講義(授業)を受けるといった慣習があります。新しいことを学ぶ際、「わかっている人から教えてもらう」というのは、有効な手段の1つです。
しかし、講義を聴くことが必ず必要なのか、他に有効な手段は無いのかといったことは検討する余地がありそうです。そこで、講義を聴く目的からを掘り下げて考えてみたいと思います。
そもそも、資格試験対策講座の講義を聴く最終目的は、試験に合格することです。(なぜその試験の合格を目指すのかというより根本的な話はいったん置いておきます)。試験合格を最終目的とするならば、講義を聴くことの位置づけはどのようになるか、私なりの解釈は次のようになります。
試験合格が目的!
↓そのためには、
試験問題を解答するための知識、能力が必要
↓
知識や能力を身に付けるためには、次のような努力が必要
① テキストを読む
② 問題を解く練習をする
③ 暗記すべき事項を暗記する
↓しかし、
初学者にとっては、次のような壁がある
① テキストや問題集のうち、どこが重要なのかを判断することが困難
(テキストの中には、参考程度に載せている重要性の低い内容もあります)
② 自力でテキストを読んだり問題に取り掛かることが困難
③ 自力で①や②をするためには時間や労力がかかり、挫折しやすい
↓そこで、
講義を聴くことによって、
① テキストに書いてあることを分かるようにする
② 自力で問題に取り掛かれるようにする
③ できるならば、講義を聴きながら覚えるべきことを覚える
④ 各内容の重要性を把握する
↓ただし、
「講義を聴く」ことは、「初学者にとっての壁」を取り払うための手段に過ぎない!
その後の自習こそが知識や能力を身に付けるためには欠かせない!
3. 講義を聴くことは必須なのか?
講義が「初学者にとっての壁を取り払う手段」だとすれば、講義を聴くことは「学習のとっかかり」にすぎないともいえます。たとえ講義を聴いたとしても、その後の自習を通じて知識や能力をしっかり身に付けていく必要があるのです。
講義については、「初学者にとっての壁」を自力で解消することができるのであれば、聴かなくても大丈夫といえます。つまり、次のようなことができるのであれば、わざわざ講義を聴かなくとも問題はないといえます。
- ① 自力で重要な箇所とそうでない箇所の見極めができる。
- ② 自力でテキストの重要な部分を理解していくことができる。
- ③ はじめは間違いながらでもよいので、自力で問題に取り掛かり、解答・解説を見ながら自力で解けるようになるための練習ができる。
ただし、これを自力で乗り越えるのが難しいのであれば、講義を利用した方が学習期間全体でみた場合には効率的なことが多いといえます。このようなことを含め、講義を受けることには次のようなメリットもあるのです。
- ① 重要な部分と重要でない部分、覚えるべき部分と軽く流す程度でよい部分といった、学習の強弱に関する情報を得ることができる。
- ② 多くの人にとって、テキストなどの理解をスムーズにすることができる。
- ③ 簿記の問題を解くための下書き用紙の作り方など、教材資料を見るだけでは把握しにくいノウハウが得られることもある。
大学受験業界のように市販の参考書が充実した分野ならまだしも、公認会計士試験の受験業界については、正直なところ、講義を利用した方が得られる情報も充実していることが多いといえます。とくに上記①や③については、講義を受けないと得ることが難しい情報であったりします。
「初学者にとっての壁」を自力で解消できるのであれば講義を省略することも可能ですが、講義を受けることによるメリットが大きい現状があるのも事実です。
しかし、だからといって一通りの講義を「全て」見なければいけないのかというとそうとは限りません。合格者を含め、受験指導校の全科目の講義全てを皆勤で受講した人を私はほとんど知りません。私が受験生のときも、受講しなかった(サボってしまった?)講義はそれなりにあります。とくに短答式試験が年2回になってからは、短答式に合格するまで租税法や選択科目、論文対策答練に手つかずの人が大半を占めるようになりました。そのため、短答式に合格した人が遅れを取り戻す形でそれらの講義・答練に取り組むものの、全てを受講する人の割合も限られてきます。
4. 講義をなるべく省略したい人へのアドバイス
次のような工夫をすることで、講義の視聴時間を短縮したり、視聴する講義を減らしていくことが可能です。
- (1) 映像講義は倍速で聴く
- (2) ご自身にとって視聴する必要のある講義のみを聴く
- (3) テキストの分からない部分は、辞書的なツールを活用する
(1) 映像講義は倍速で聴く
映像講義を利用している方であれば、倍速で視聴することをおススメします。クレアールアカデミーのWEB講義も倍速で視聴することができます。講義時間短縮はもちろん、速聴によって頭の回転を速める効果もあり、多くの受講生は講義を倍速で聴いているようです。
(2) ご自身にとって視聴する必要のある講義のみを聴く
①講義で扱う内容の重要性、②講義内容の理解可能性によって視聴すべき講義を選ぶとよいでしょう。つまり、重要且つ理解しにくい内容についてのみ講義を利用するスタイルです。また、その科目の性質をつかむまでは講義を視聴し、ある程度自力で進められる部分が出てきたら視聴する講義を厳選していくというのも良いでしょう。
① 講義で扱う内容の重要性については、全ての講義を視聴しなくとも、次のような工夫によって把握することができます。
- 本試験の出題実績を調べることにより、頻出の内容を把握する。
- 過去問自体を眺めることで、中身は分からなくとも、最終的に要求されるアウトプットの形を把握する。 → そうすることで、テキストを試験に直結する形で読むこともできます
- 計算科目であれば例題や問題集、理論科目であればスピーチ課題や確認テストで問われている内容が比較的重要であることが多くなっております。
② 講義内容の理解可能性については、次のように判断することができます。
- 板書ノート(またはスライド資料)を見て講義内容を推測する。]
- まずは自力でテキストを読んでみたり、計算科目であれば例題の解答を読んで理解できるかトライしてみる。
→ 講義を聴くことになったとしても、事前に集中して聴くべき部分を把握することができ、効果的な予習となります
(3) テキストの分からない部分は、調べるためのツールを活用する
学習範囲はテキストなどの配付された教材に絞り、むやみやたらに手を広げないことは大切です。しかし、絞り込んだテキストに書いてあることが分からなく、かつ、その内容が重要と考えられる場合、テキスト以外のツールを活用して分からない部分を調べた方が早いこともあります。
調べるためのツールとしては、次のようなものがあります。
- ① 原文を調べる
財務会計論であれば会計法規集、監査論であれば監査法規集、法律科目(企業法と民法)や租税法であれば根拠となる法律条文といった形で、公認会計士試験の科目はテキスト内容の根拠となる原文が存在していることが多くなっております。
原文は、それ自体を読んでいくのはテキストより大変です。しかし、テキストでは理解できなかったことが、その根拠となる原文やその周辺を見れば理解できることも多くあります。
- ② インターネットでググってみる
- ③ 受験指導校の質問制度を利用する
- ④ 信頼できる基本書を辞書として使う
必ず用意する必要はありませんが、市販の基本書が疑問点解決に役立つこともあります。
短答科目について、私のお勧めする基本書は次のとおりです。
- ⅰ 財務会計論
- 桜井久勝『財務会計講義』中央経済社
- 佐藤信彦他『スタンダードテキスト 財務会計論Ⅰ(基本論点編)』『スタンダードテキスト 財務会計論Ⅱ(応用論点編)』中央経済社
- ⅱ 管理会計論
- 岡本清『原価計算』国元書房
- 山本浩司他『スタンダードテキスト 管理会計論』中央経済社
- ⅲ 監査論
- 盛田善弘他『スタンダードテキスト 監査論』中央経済社
- ⅳ 企業法
- 岡伸浩『会社法』弘文堂
5. 最後に
講義を聴くことは手段であって、目的ではありません。講義を聴くことは手段の1つであると認識し、より良い手段を模索することは決して間違ったことではありません。また、ベストな学習スタイルも人それぞれ異なるものです。
講義を聴くスタイルが合う人もいれば、講義を省略するスタイルが合う人もいます。みなさんなりに学習方法を模索する姿勢を大切にしていただければと思います。