2年目スタッフ目線で見る監査業務

私事ですが、監査法人で勤務して早くも2年目に入りました。今年の合格発表も間近に迫り、後輩が入社する日も近づいてきましたので、ここで1年間の監査業務の中で学んだことを、受験科目としての監査論に関連付けながらご紹介しようと考えました。

これから数回にわたってご紹介していきたいと思いますが、今回は第一弾ということで、基本論点の「監査調書」、「監査サンプリング」、「リスク・アプローチ」を取り上げます。受験生の皆さんが、監査論を少しでも立体的に学ぶことができればと思い執筆しましたので、勉強の合間にでもお気軽にお読みください。

目次

① 監査調書

監査を実施するうえで、非常に重要な役割を果たす監査調書ですが、皆さんはどのようなイメージを持たれていますでしょうか。「調書」というくらいなので、何か紙の資料で、バインダー等に綴られているものをイメージしませんか?もちろん、そのイメージも正解ですが、一方で、現在は電子媒体で保存されている監査調書も多いです。監査法人のシステム環境等によって媒体は異なりますが、私の場合は、電子調書システムを介して電子調書を作成しております。

監査人は、様々な取引、勘定残高、開示等に対して監査手続を実施し、財務諸表全体に対する意見を形成することになりますが、その基礎となるものが監査調書でした。つまり、種々の監査手続について、内容や実施時期、結論、監査人の判断等を記載し蓄積して、最終的にこれらを総括して意見を形成するのです。私も自分が担当した手続きに関する調書を作成していますが、1つ1つの調書が意見形成の基礎証拠になると考えると、改めて調書作成の際には細心の注意を払って丁寧に仕上げなければならないものと実感します。

また、継続監査の場合、前期調書を参照することがありますが、時折、非常に簡素な調書に出会うことがあります。もちろん、無駄なく簡潔にまとまっている分には問題ないのですが、監査手続の内容や判断の過程を十分に記載する必要がありますので、記載が不十分だと感じる場合は、当期調書の記載をより充実させるようにしています。

さらに、監査調書は、監査手続を実施したという証拠としての役割を果たし、経験豊富な監査人がこれを読んで実施した手続の内容から結論までを理解できるように記載しなければなりません。将来、監査調書を作成する際には、ぜひこのような視点でセルフレビューをしっかりと行ってから、本レビューへ回していただくと良いでしょう。

② 監査サンプリング

内部統制の運用評価手続、詳細テストを実施する際にサンプリングを行うことがあります。これは、検証対象である母集団の数が多く、全件テスト(精査)の実施では効率が悪くなる場合に、母集団から数件のサンプルを抽出してテストする(試査)方法です。

サンプリングの類型として、統計的サンプリングと非統計的サンプリングがあると学習されたと思いますが、主に監査の実務では非統計的サンプリングが利用されます。どちらの手法を採用するかは監査人の判断によりますが、統計的サンプリングは、統計学の理論にかなった厳格な無作為抽出方法によらなければならない等、条件を整備する手間が多く、コストパフォーマンスの観点から統計的サンプリングに準じた方法として非統計的サンプリングが採用されるケースが多いのです。

私自身も、普段の業務でサンプリングを行う機会がありますが、その際に時期や、金額、内容等をバランス良く抽出することを意識しておりますが、場合によってはテスト目的に合致しないサンプルを引いてしまうこともあります。たかがサンプリングと思ってしまいますが、適切なサンプル選定ができないと本題のテストに辿り着けませんので、サンプリングは監査において非常に重要な手続きなのだと言えます。なお、現在は、なるべく統計的サンプリングに近い手法でサンプリングが実施できるよう支援するデジタルツールが導入され、監査の現場でも利用が始まっていることから、そのようなツールを駆使して簡単にサンプリングができるようになる日も近いのではないかと感じているところです。

さらに、上述のサンプリングに加えて、監査の有効性を確保するために、特定項目抽出による試査という方法が利用される場合もあります。これは、監査人の判断で金額的重要性が高いものや誤謬を含む可能性が高い項目等、一定の条件に当てはまるものを意図的に抽出して検証する手続きで、単独もしくは、サンプリングと併せて利用されます。その際、テスト結果はあくまでも抽出した項目における虚偽表示の有無を立証するもので、母集団全体の虚偽表示を推定することはできない点に注意が必要です。つまり、重要なところのみをピックアップして検証を行い、それ以外は財務諸表全体に与える影響が軽微なので無視してしまおうというアプローチ方法で、実務でも残高確認の対象選定など様々な場面で利用されます。

③ リスク・アプローチ

最後は、監査を実施する際の肝である、リスク・アプローチについてお話しします。リスク・アプローチとは、監査手続をリスクの大きさによってコントロールする監査アプローチです。実務に入ると実感しますが、限られた人員で限られた時間の中で、十分且つ適切な監査証拠を入手し、財務諸表全体に対する意見を形成するに足る基礎を得るというのは、実は非常に大変なことで、それを達成するためには、効率的かつ効果的な監査の実施が必須になります。そして、効率的かつ効果的な監査を実現するために、適切なリスク・アプローチが要求されるのです。

では、リスク・アプローチにおいて監査人は何を重視するべきなのでしょうか。答えは、「リスクの識別と評価」です。実際の監査手続は、監査人によるリスク評価結果に基づき決定されるため、監査の成否はいかに適切なリスク評価ができるかどうかに懸かっています。リスク評価手続きは、監査計画時に実施されますが、監査が進行する中で新たな事象を発見することもありますので、その都度リスク評価の見直しを行いながら、リスクの高い項目に重点的に監査リソースを投入し、そうでない項目には緩い手続きを実施、又は手続きを実施しないことで効率的かつ効果的な監査を実現するのです。

今日では、COVID-19により経営成績が落ち込み基調の企業が多く、監査人としてより慎重なリスク評価が求められる場面が多いです。私はまだ経験がありませんが、所属する監査チームの主査が、監査計画においてマネジャーと相談しながら、かなりの時間を使ってリスクの識別と評価を行っている姿を見ております。計画に関与すると、監査の全体像を体系的に見ながら手続きを進めることができるので、私もスタッフ業務をしっかりと学んだ上で、なるべく早く主査業務を経験したいと思っております!

参考:クレアール監査論基礎講義テキストブック

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