公認会計士試験委員特別インタビュー 田中建二さん

公認会計士試験委員特別インタビュー。

田中 建二さん  公認会計士元試験委員、明治大学専門職大学院 会計専門職研究科教授
[プロフィール] 1947年埼玉県に生まれる。1976 年早稲田大学大学院商学研究科博士課程満期退学。1975 年日本大学経済学部助手。その後、専任講師、助教授、教授を経て、2004 年早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授、2007 年明治大学専門職大学院会計専門職研究科教授、現在に至る。公認会計士試験委員、税理士試験委員、企業会計審議会臨時委員などを歴任。日本簿記学会理事、経営行動研究学会理事。
[主な著書] 「オフバランス取引の会計」(単著、同文舘出版、1991年)、「時価会計入門」(単著、中央経済社、1999年)、「金融リスクの会計」(編著、東京経済情報出版、2003年)、「時価会計と減損」(共著、中央経済社、2004年)、「金融商品会計」(単著、新世社、2007年)、「財務会計入門」(単著、中央経済社、2011年)、「企業会計と法制度(体系現代会計学)」(共著、中央経済社、2011年)
目次

危機こそチャンス

 公認会計士に対する社会の期待の高まりに応えるため、公認会計士試験の受験者や合格者の数を増やすように試験制度が改革されてから約8年が経ちました。当初は、内部統制報告制度の導入など新たな業務が生じたため、増加した合格者も順調に監査業界に就職することができましたが、その後の世界的な金融危機の影響もあって、数年前までは合格しても必ずしもすべての人が監査法人に就職できるとは限らない状況となりました。

 そのため、公認会計士試験の受験者や合格者の数も減少しています。公認会計士を目指す人にとってまさに受難の時代となりましたが、こうした苦しいときこそかえって公認会計士を目指すチャンスなのです。公認会計士を志望するライバルも少なくなるでしょうし、公認会計士にとって危機的な状況がこのままずっと続くとはとても考えられません。「いまだ降り止まなかった雨はない」のです。

 今後は、伝統的な会計監査の業務だけでなく、さまざまな新しい領域で活躍される公認会計士が増えていくことでしょう。みなさんも将来幅広く活躍するために、受験勉強の段階から、会計学や監査論といった会計関係の科目だけでなく、周辺諸学の学習にも積極的に取り組みましょう。とかく受験勉強をしていると、受験科目だけに関心が集中しがちですが、いつも広い視野と旺盛な好奇心を忘れずに、さまざまなことに関心を持ち続けましょう。そうすれば、自ずと道は開けてくるものです。

 若いうちは修行のつもりで、より困難な道を選択することも、長い人生にとってみればとても良い経験となるでしょう。あのときは苦しかったけれども公認会計士試験に挑戦して良かったと思えるときがきっと来ることでしょう。

 2013年11月1日の日本経済新聞の1面に「大手監査法人、4年ぶり、会計士採用1000人超す」という記事が掲載されました。合格者の就職状況は大きく好転しています。公認会計士を目指す人にチャンス到来です。

細則主義から原則主義へ

 これまで日本では、会計基準を実務に適用するさいの指針となるような細かいルール(適用指針や実務指針)を示すという細則主義(rule-based approach)に基づいてきました。たとえば、リース会計基準を例に取り上げると、リース取引をファイナンス・リースとみるか、それともオペレーティング・リースとみるか、それを識別するための基準として90 %ルールや75 %ルールのような数値基準が用いられています。このような具体的な数値基準は、単純明快ですので適用するのはそれだけ容易です。

 しかし、もしファイナンス・リースとみなされたくないならば、少しでもその数値を下回ればよいということになり、かえって基準を回避する抜け道を教えているようなものであると批判されています。また、詳細すぎる基準は、基準の文言に従ってさえいればそれでよいという態度を助長することにもなりかねません。

 これに対して、国際財務報告基準は、原理・原則を定めるだけで具体的な適用指針は最小限にとどめるという原則主義(principle-based approach) に基づいています。原則主義の定義は必ずしもはっきりしませんが、一般に、次のような特徴をもつといわれています。

 すなわち、①原則が明確に示されていること、②概念フレームワークに基づいていること、③例外がほとんど無いこと、④適用指針が最小限であること、などです。

 原則主義では、原則的な基準のみが定められるので、その基準を解釈し実務に適用するさいには、具体的な指針に頼ることはできず、これまで以上に専門的な判断を下すことが必要となります。原則的な基準だけでは適用が難しい場合には、基準の文言よりもむしろ基準の精神に則って判断することが求められます。

 日本でも、将来、国際財務報告基準が適用されるようになるでしょうから、今のうちから、学習するさいには単に会計基準の文言を憶えるのではなく、会計基準の基礎にある目的・理念・考え方をしっかりと理解するよう心掛けましょう。そうすることによって、いかなる状況においても的確に対応しうる専門家としての判断力が養われることになります。

高い志の公認会計士を目指して

 公認会計士という名称は、米国のCertified Public Accountant(CPA)という用語からきています。日本では、「公けに認められた会計士」という意味ですが、米国では、直訳すると「認められた公共会計士」ということになります。公共会計士(Public Accountant)の意味は、必ずしもはっきりしませんが、ここでは、単に私的な利益を追求するのではなく、「公共の利益に貢献する会計士」と解釈してみましょう。

 公認会計士は、しばしば「資本市場の番人」とも呼ばれます。資本市場は国を支える基本的な仕組みの1 つです。資本市場は、資金の効率的な配分を通じて実体経済を発展させることに寄与しますが、それだけではありません。

 最近の資本市場では、個人で直接投資をする個人投資家よりもむしろ、年金基金、保険、投資信託などの機関投資家がかなりの割合を占めています。これらの機関投資家の背後には、年金受給者、保険契約者、老後資金をはじめとする将来のために資金を委ねる一般の国民が存在します。すなわち、国民全体が間接的に資本市場に投資をしていることになります。国民の財産を預かっている資本市場を守り、健全に発展させていくことが公共の利益に貢献していることになるのです。

 公認会計士は、その主要業務である会計監査という仕事を通じて資本市場の健全な発展に寄与しているという意味において、公共の利益に貢献しているのです。公認会計士は、長年にわたる監査業務による貢献によって、社会から「信頼」という無形の資産を与えられています。監査以外の業務を行う場合にも、公認会計士に対する社会の信頼に応えるために高い職業倫理が求められます。みなさんも、社会に貢献するという高い志をもって公認会計士を目指してください。

 広い視野と、いかなる状況にも対応しうる専門家としての判断力と、高い倫理観、これら三拍子そろった公認会計士、それが明日のあなたの姿です。

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