はじめに
前回のVol.25.では、日商簿記1級の会計学・商業簿記のうち、税効果会計と会計上の変更及び誤謬の訂正について、論点別の具体的な対策方法をご紹介しました。今回も前回に引き続き、主に日商簿記1級での新規論点・応用論点を取り上げ、それぞれの学習のコツをご紹介したいと思います。
純資産会計(資本金・余剰金等)
日商簿記2級では、純資産会計について設立時・増資時の資本金・資本剰余金・資本準備金の会計処理や株主資本の計数変動等を学習しました。一方で、日商簿記1級では、新たに減資や税法上の積立金の処理や分配可能額の算定を学習します。余談ではありますが、減資や分配可能額の算定は昨今世の中の注目を集めることが多いトピックです。具体的には、新型コロナウイルス感染症によるパンデミックで業績が悪化した企業が法人税の支払金額を少なくするために減資を行ったり、会社法などで算定される分配可能額を超えた自己株買いや中間配当を実施した企業が新聞の一面に載ったりといったことが挙げられます。このように日商簿記1級の学習と世の中のできごとにはつながりがあることが多いです。ここでは、日商簿記1級で新たに学習する分配可能額に焦点を当てたいと思います。
分配可能額とは、株主と債権者の利害を調整するために、剰余金のうち分配が可能な上限額を定めたものです。詳しく説明すると、株主は会社に対して出資した金額以上の責任を負わない(=有限責任制)である一方、債権者は会社の純資産によって権利を保証されるにすぎないことから、会社財産を無制限に会社外部に流出し債権者の権利が損なわれないように、社外流出する純資産の上限を定めています。ただし、分配可能額の算定はかなり難解ですので、日商簿記1級の本試験問題で分配可能額が出題された場合は、限られた時間内で正答を導き出すのは困難な場合もあるでしょう。しかし、もちろん分配可能額は日商簿記1級の出題範囲に含まれているため、逃げずに学習する必要があります。
分配可能額の学習のコツは、一言で言えば”丸暗記”です。他の学習論点であればある程度会計処理の仕組みを理解すれば丸暗記なしで何とかなることも多いですが、分配可能額については気合を入れて丸暗記せざるを得ないかと思います。具体的には、分配可能額のうち、①配当の効力発生日における剰余金の額から控除すべき項目(自己株式の帳簿価額等)、②のれん等調整額、③資本等金額、④具体的な控除金額の導出方法をそれぞれ暗記する必要があります。クレアールのテキストには、①から④がまとめられた見開きのページが用意されていますので、それらをうまく活用し暗記に役立ててみてください。なお、ただ闇雲に暗記するのは困難ですので、テキストの例題演習と暗記を並行させることがおすすめの学習法です。
新株予約権・新株予約権付社債
新株予約権は、日商簿記1級で学習する新規論点です。新株予約権のうち企業の従業員や役員等に付与されるものは一般的にストック・オプションと呼ばれており、これまで耳にしたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。日商簿記1級では、主に新株予約権と新株予約権付社債の会計処理を学習しますので、ここではそれぞれの学習のコツをご紹介したいと思います。
まず新株予約権については、日商簿記1級では基本的に発行者側の会計処理を学習します。具体的に言えば、新株予約権を企業の従業員等や投資家等に対して発行する企業の会計処理が発行者側の会計処理に該当します。新株予約権の会計処理を理解するときのコツは、ストーリー仕立てで学習を進めることです。具体的には、①新株予約権の発行時、②権利行使時、③自己株式の処分時、④失効時を一気通貫で理解するようにしましょう。ストックオプションについては次回に学習のコツを記載しますので、ここでは説明を割愛します。
次に新株予約権付社債については、日商簿記1級では発行者側の会計処理を主に学習します。新株予約権付社債の発行者側の会計処理としては一括法と区分法のそれぞれが認められていますので、問題文の指示に沿って仕訳パターンを理解するようにしましょう。また、転換社債型新株予約権付社債とその他の新株予約権付社債で若干会計処理が異なりますので、その点にも留意が必要です。ただし、新株予約権と異なる点としては、社債の論点と同様に利息計算が必要とされることが挙げられます。社債の利息計算は正確で緻密な計算が求められますので、下書きを工夫したり時系列形式で各種計算を行ったりすることで、計算を間違えないようにしましょう。余談ですが、会計士試験短答式試験・論文式試験においては新株予約権付社債については取得者側の会計処理も学習する必要があるため、多少大変です。会計士試験では日商簿記1級以上に学習内容がパワーアップしますが、学習基礎となる土台は日商簿記1級でしっかり身に付けることができますので、今のうちから学習内容を深く理解するように心がけましょう。
おわりに
今回は、日商簿記1級の会計学・商業簿記のうち、純資産会計(資本金・剰余金等)と新株予約権・新株予約権付社債について、具体的な対策方法をご説明しました。次回も今回に引き続き、論点別の具体的な対策方法をご説明しますので、乞うご期待ください。