はじめに
前回は日商簿記1級の工業簿記・原価計算のうち、CVP分析や直接原価計算について、具体的な学習の進め方のコツをご紹介しました。今回も前回に引き続き、工業簿記・原価計算の学習を進めるうえでの、個別論点別の対策方法をご紹介したいと思います。
意思決定会計:各分析の目的を理解し、原価計算と区別して理解しよう
日商簿記1級で新たに学習する意思決定会計については、苦手とされる方は多いのではないでしょうか。
日商簿記1級では、日商簿記2級の応用として、まさに企業内部の管理会計を実践するための意思決定会計を学習することとなります。意思決定会計とは、端的に言えば、企業が抱える課題に対処するため、必要な情報を収集・分析し、その解決につながるような意思決定を行う会計と言えます。現実の企業活動の中では、より複雑かつ高度な技法等を用いて経営管理を実践し、事業の意思決定を行っていることが多いかと思いますが、日商簿記1級ではそのエッセンスとなるような意思決定会計の各種技法を学ぶことになる、と理解いただければよいのではないかと思います。
日商簿記1級で学習する意思決定会計の技法には、差額原価収益分析、価格決定方法に関する分析、最適プロダクト・ミックス、経済的発注量分析等の様々なものがありますが、初めて学習したときには、各技法の理解やその違いの把握に苦労するのではないでしょうか。
これらの技法はテキストを読んで頭で理解するのではなく、実際に手を動かして問題を解いてこそ身に付くもの、と捉えていただいた方が良いかと思いますので、積極的に問題演習を進めて理解を深めるようにしてみましょう。次からは、意思決定会計の主な技法について、その理解のためのポイントをご紹介したいと思います。
差額原価収益分析:新出の原価概念の正確な理解から始める
差額原価収益分析の目的は、複数の代替案から採用する一つの案を決定するために、当該代替案に関連する原価に着目して分析することです。したがって、学習を進めるにあたっては、まずは進出の原価概念である、増分原価、減分原価、機会原価、関連原価、無関連原価、埋没原価等の各原価概念が何を意味しているのか、理解するところから始めましょう。
上記の様に、類似する用語が複数登場する場合には、できる限りシンプルの言葉に置き換えて理解し、自分自身の経験と紐づけて覚えるのが効果的です。たとえば、機会原価を例にとって考えてみましょう。機会原価とは端的に言えば、ある選択をしなかったときに他の選択から獲得できたであろう最大の利益と表現することができます。そして、機会原価を自分自身の経験と紐づけて覚えるのであれば、カフェのアルバイトをしている自分が1時間だけ仕事を早く切り上げて遊びに行ったときに失う1時間分の時給と表現できるのではないでしょうか。
上記のような手順で新出のそれぞれの原価概念がざっくりと理解できたら、テキスト例題等の問題演習をしっかりと進めていきましょう。
価格決定方法に関する分析:具体的な製品をイメージしながら理解を深める
日商簿記1級では製品の販売価格の決定方法に関する分析について、新たに学習を進めることとなります。具体的には、製品にかかったコストに一定の利益を上乗せするコスト・ベースの価格決定方法や、市場価格に合わせて販売価格を決定するマーケット・ベースの価格決定方法等が挙げられます。
これらの価格決定方法は一見難しそうにも思えますが、具体的な製品をイメージすれば、理解は自ずと早く進むはずです。たとえば、スーパーで販売されているケーキが、そのケーキに係った材料費や労務費等のコストを基に決定されているのか、他のスーパーで販売されているケーキの価格を基に決定されているのか、というように考えてみればよいかと思います。ざっくりとしたイメージがつかめたら、実際の問題演習を通じて理解を深めていきましょう。
なお、コスト・ベースの価格決定方法については、全部原価・部分原価という概念を新たに学習することとなりますが、部分原価は直接原価計算で学習した変動費等に着目しています。このように直接原価計算は管理会計と紐づきやすい原価計算手法ですので、それぞれの論点を独立して学習するのではなく、論点を相互にリンクさせて覚えるようにしていきましょう。
最適プロダクト・ミックス
最適プロダクト・ミックスは、利益を最大化する製品の組み合わせを導き出すための分析技法です。具体的には、複数製品を販売している場合に、どの製品をどれだけ販売すれば最も多くの利益を確保できるのか明らかにするものです。
一見難しそうにも思える最適プロダクトミックスについては、実は作問パターンは限定的であり、共通の制約条件が1つだけなのか、2つ以上あるのかにより、計算方法が変化する程度かと思います。逆に言えば、テキストの例題等を通じて典型的な出題パターンを理解しておけば、日商簿記1級の本試験で出題されたとしてもある程度太刀打ちできるようになると思いますので、しっかりと問題演習をして計算方法を体に染み込ませましょう。
おわりに
今回は、日商簿記1級の工業簿記・原価計算について、論点別の具体的な対策方法をご説明しました。工業簿記・原価計算は学習を始めたばかりのときには、なかなか内容を掴めず苦労することもあるかもしれませんが、問題演習を進めることで計算方法が少しずつ身につきますので、コツコツと学習を頑張っていきましょう。