はじめに
前回は日商簿記1級の工業簿記・原価計算のうち、原価の意義や部門費計算の具体的な学習の進め方のコツをご紹介しました。今回も前回に引き続き、工業簿記・原価計算の学習上の個別論点別の対策方法をご紹介したいと思います。
CVP分析:指標や数式の意味や関係性に着目しよう
原価・営業量・利益関係の分析として、日商簿記1級ではさらにCVP分析をさらに深く学習することとなります。
CVP分析とは、原価(Cost)と売上(Volume)、利益(Profit)の頭文字を取って名付けられた分析手法であり、前述の三者の関係性を分析する手法です。具体的には、原価(Cost)が変動費と固定費に分類できる点に着目し、両者の性質を利用して売上(Volume)の変化に対して原価(Cost)や利益(Profit)がどのように変化するのか分析します。
CVP分析を早期にマスターするコツは、登場する指標や数式の意味や関係性をきちんと理解し、例題を通じて計算のしくみを理解することです。例えば、CVP分析では、「貢献利益(率)」「変動費(率)」「損益分岐点(比率)」「安全余裕額(安全余裕率)」等、指標や数式が数多く登場します。ここでたとえば、貢献利益とは、一言でいえば”売上高のうち固定費を回収し利益の獲得に必要な利益”と表現できます。加えて、他の指標との関係性は、「売上高 – 変動費」と「固定費 + 営業利益」のいずれでも表現できます。このように、新しく登場した指標や数式については、まず腹落ちするまで理解したうえで、他の指標との関係性を整理するようにしてみてください。
また、日商簿記1級では多品種製品のCVP分析を学習しますが、問題文をよく読んで「販売量が一定の場合」なのか「売上高構成割合が一定の場合」なのか、間違えないようにしましょう。計算過程自体は比較的シンプルですが、問題文を読み違えれば安易なケアレスミスにつながってしまいますので、十分留意ください。
余談ですが、アルファベットの文字列や略称が登場したときには、それらが何を意味しているのか、必ず理解するようにしましょう。既にご存知の通り、CVP分析のCVPとは、原価(Cost)と売上(Volume)、利益(Profit)のことを意味しています。このように、それぞれのアルファベットの意味を理解しておけば、その意味する内容を瞬時に思い出すことができます。一方で、よく中身を理解せず盲目的にアルファベットの文字列を暗記するだけでは、効率的に知識を身に付けることはできません。将来的に会計士として顧客(クライアント)からこれらについて質問されたとき等に、アルファベットの意味するところをきちんと答えることができなければ恥をかいてしまいますので、地道ではありますが、アルファベットの文字列や略称等については、コツコツと確認していきましょう。
直接原価計算:計算手法の意義や目的を再度理解し、CVP分析とセットで覚えよう
直接原価計算については、日商簿記2級ではその意義と目的や計算方法、固定費調整の方法を学習しました。日商簿記1級ではそのステップアップとして、直接標準原価計算等の応用論点を学習することとなります。
私が日商簿記1級の受験生だったときには、直接原価計算は他と比較して何となく実態が掴みづらい原価計算手法と感じていたため、苦手意識を持っていました。同様に、直接原価計算に対してぼんやりとした苦手意識を持っている方も多いのではないでしょうか。
日商簿記1級で直接原価計算を学習するにあたっては、その意義や目的を改めて理解するようにしましょう。端的にいえば、直接原価計算とは原価を変動費と固定費に分類し、それらの性質に着目して損益計算を行う計算手法です。そして、直接原価計算は変動費のみを原価とするため売上高と原価の関係性が明瞭となり、利益改善につながりやすいという特徴があります。前述のCVP分析と相性の良い原価計算手法であるため、セットで覚えるようにしましょう。
そして、日商簿記1級で新たに学習する直接標準原価計算は、直接原価計算で用いる変動費に原価標準を設定する複雑な計算手法となることから、苦手意識を持つ方も増えると思います。ここで、いち早くマスターするための近道は、繰り返しテキストの問題演習を進めて計算過程自体を体で理解してしまうことだと思います。ただし、直接標準原価計算でも、固定費調整は実際直接原価計算を行う場合と同様ですので、注意して学習を進めるようにしましょう。
原価予測の方法:相対的な重要度は低いため、時間のない人は後回し
原価予測の方法として、日商簿記2級では費目別精査法や高低点法を学習しましたが、日商簿記1級ではさらにスキャッター・チャート法や回帰分析法を学習することとなります。
スキャッター・チャート法や回帰分析法は、他の学習論点と比較した際にどうしても重要度は低くなると考えられることから、本試験問題で頻出論点とはなりづらいのではないかと思われます。したがって、学習時間に余裕がある方以外は、スキップして他の学習論点に時間を割くのが効率的な学習と言えるかもしれません。
ただし、今後皆様が学習を進める公認会計士試験の短答式試験及び論文式試験では、これらはもちろん学習範囲に含まれていますので、その計算過程や計算手法のメリット・デメリットを理解する必要があります。これらの論点はどちらかといえば、計算問題が出題されるというよりも、計算手法自体のメリット・デメリットが理論問題として問われるケースも十分に考えられます。
おわりに
今回は、日商簿記1級の工業簿記・原価計算について、論点別の具体的な対策方法をご説明しました。次回も今回に引き続き、論点別の具体的な対策方法をご説明しますので、乞うご期待ください。