はじめに
前回までは、日商簿記1級の工業簿記・原価計算について、具体的な学習の進め方のコツをご紹介しました。今回は、工業簿記・原価計算の学習を進めるうえでの、個別論点別の対策方法をご紹介したいと思います。日商簿記1級では、日商簿記2級・3級で学んだ知識に加え、新規論点・応用論点が学習分野に含まれますので、主にそれらを中心として具体的な学習の進め方をご説明したいと思います。
原価の意義:支出原価や機会原価等の概念が新たに登場
日商簿記1級では、新たに支出原価や機会原価、管理可能費や管理不能費等の原価概念を学習することとなります。例えば機会原価とは、ある目的の遂行のために断念しなければならない利益等と表現することができますが、日商簿記1級対策上はこれらの原価概念は頭の中で理解しておく程度で十分ではないかと思います。その理由は、日商簿記1級の本試験においては、基本的に計算問題に重点が置かれており、これらの原価概念自体が真正面で問われる問題が出題される可能性は乏しいと考えられるからです。
余談ですが、今後皆様が学習する公認会計士講座では、これらの原価概念について、ただ理解するだけではなく、ある程度暗記したうえでアウトプット(論述)することが求められるようになります。ただし、そうなるのはまだ少し先の話ですので、日商簿記1級の学習段階では、計算問題メインで学習を進めるという方針で問題ないのではないかと思います。
部門費計算:応用論点である階梯式配賦法や複数基準配賦法が登場
日商簿記2級では部門費計算として直接配賦法と相互配賦法を学習しましたが、日商簿記1級では相互配賦法の応用論点として階梯式配賦法や複数基準配賦法を学習します。これらの計算法は慣れるまである程度時間がかかるため、何となく苦手意識を持つ受験生も多いのではないでしょうか(私も受験生時代は部門費計算が大の苦手でした)。
部門別計算は大きく分けて第1次集計から第3次集計までの段階を経て行われますが、一般的には以下の通り、集計の目的が異なります。
・第1次集計:各費目から各部門に原価を集計すること
・第2次集計:補助部門費を製造部門へ配賦すること
・第3次集計:製造部門費を各製品へ配賦すること
そして、このうち階梯式配賦法や複数基準配賦法は、第2次集計である補助部門費の製造部門への配賦方法として考案された計算方法であり、補助部門間の用役授受をどのように考えるかという観点に着目しています。具体的には、補助部門間の用役授受について、階梯式配賦法は一方向からのみ考慮する点、複数基準配賦法補助部門費を変動費と固定費に区別して配賦する点に特徴があります。それぞれ特徴は異なるものの、第2次集計である補助部門費の製造部門への配賦をどのように考えるか、という点に着目していることは共通しています。このように、類似しているため区別が付きづらい計算方法は、それぞれ何を目的にして考案された計算方法なのか理解することで、頭の中での整理ができるようになります。
余談ですが、短答式試験の管理会計論の計算問題の中には日商簿記1級レベルの計算能力があれば十分回答できるものもあり、その典型例として今回ご紹介した部門費計算が挙げられます。逆に言えば、部門費計算等の日商簿記1級レベルの計算問題が短答式試験で出題された場合、これらの問題は確実に正答することが求められます。このように、日商簿記1級の工業簿記・原価計算は会計士試験の短答式試験対策に直結しますので、決して疎かにすることなく一つ一つしっかりと学習していきましょう。
番外編:実際原価計算の流れは理解できていますか?
ところで、皆様は部門費計算を含む実際原価計算の流れはきちんと理解できていますでしょうか。
「原価計算基準」では、実際原価は次の①から③の順に計算することとされています。
①費目別計算:一定期間における原価要素を、費目別に分類測定する計算
②部門別計算:費目別計算で把握された原価要素を、原価部門別に分類集計する計算
③製品別計算:原価要素を一定の製品単位に集計し、製品ごとの製造原価を算定する計算
まずは「①費目別計算」でどんな原価要素が存在するのか把握し、「②部門別計算」で原価部門別に分類集計した後、「③製品別計算」で製品別に再集計することで製品当たりの原価を明らかにするというストーリーがあります。ここから、上記でご紹介した階梯式配賦法や複数基準配賦法は、実際原価計算の中でも「②部門別計算」の一つの手法であったことが改めてお分かりいただけるのではないかと思います。
既にこの計算順序を理解されている方からすれば「こんな当たり前のこと今更説明しないでよ」と思うかもしれません。しかし、この計算の流れが理解できていなければ、今後のテキスト等の問題演習でかなり苦労することとなりますので、腹落ちして理解できていない方は、これを機に改めて理解するようにしてみてください。
おわりに
今回は、日商簿記1級の工業簿記・原価計算について、論点別の具体的な対策方法をご説明しました。次回も今回に引き続き、論点別の具体的な対策方法をご説明しますので、乞うご期待ください。