はじめに
前回のVol.29.では、日商簿記1級の会計学・商業簿記のうち、外貨換算会計について、ミスしやすい論点等の学習のポイントをご紹介しました。今回も前回に引き続き、主に日商簿記1級での新規論点・応用論点を取り上げ、それぞれの学習のコツをご紹介したいと思います。
連結会計
連結会計については、日商簿記2級では資本連結、非支配株主持分、のれん、連結会社間取引の処理、未実現損益の消去等の基本的な理解を深めます。そして、日商簿記1級ではその応用論点として、「子会社の支配獲得時の資産・負債の時価評価」、「支配獲得までの段階取得」、「子会社株式の追加取得・一部売却」などを学習します。
クレアールのテキストをご覧いただければお分かりの通り、商業簿記のテキスト全3冊のうち1冊の分量を割いて連結会計等の論点の解説がされており、学習量が多いことが特徴です。
連結会計の学習内容を効率的に進めるためには、まずは各会計処理の目的を理解することが重要です。日商簿記1級は日商簿記2級と異なり、理解に時間のかかる難易度の高い会計処理も取り扱うため、頭の中の整理が追い付かず混乱してしまうこともあるでしょう。その一方で、連結会計は日商簿記1級の本試験問題では必出分野と言っても過言ではありませんので、気を引き締めてしっかりと対策を進める必要があります。
ここからは、連結会計の各論点について、それぞれ学習のポイントをご紹介します。
(資本連結)
日商簿記1級の学習を進めている方は「資本連結」という言葉を目にしたことがあると思いますが、なぜ「資本連結」が必要なのか、きちんと理解されている方は少ないのではないでしょうか。
「資本連結」とは、具体的には支配獲得時の投資と資本の相殺消去仕訳を指すことが多いです。なぜこのような相殺消去仕訳が必要なのかというと、親会社と子会社の財務諸表をもとに連結財務諸表を作成するにあたっては、両者の個別財務諸表を単純合算しただけでは親会社の投資金額と子会社の資本金額が二重に計上されてしまうため、それらを相殺する必要があるからです。具体的には、親会社側の個別財務諸表では資産の部に子会社株式が計上されており、子会社側の個別財務諸表では純資産の部に親会社から受け入れた投資金額が資本金や資本剰余金等で計上されていますが、これらの金額が二重計上されることを避けるために必要となります。
そして、日商簿記1級の「資本連結」では、「子会社の支配獲得時の資産・負債の時価評価」、「支配獲得までの段階取得」、「子会社株式の追加取得・一部売却」を新たに学習します。いずれも日商簿記1級だけでなく会計士試験でも必ずマスターしておくべき重要論点ですので、焦らずしっかりと内容理解を深めるようにしましょう。
新たに学習するこれらの論点の中でも特に理解に時間を要するのは、「子会社株式の追加取得・一部売却」ではないでしょうか。この論点を効率よく理解するコツは、親会社と非支配株主が取引するという点に着目することです。親会社が子会社株式を追加取得したり売却する相手方は非支配株主(=親会社以外の株主)であることから、連結修正仕訳では当然に非支配株主持分を増減させる必要があります。テキストの例題を何度も解きながら、理解を深めてみてください。
また、日商簿記1級及び会計士試験では、連結2年度目以降の開始仕訳をスピーディに導くことが求められます。具体的には、親会社が子会社の支配を獲得した連結初年度の会計処理だけではなく、その翌年度以降の会計処理を素早く導き出す必要があるということです。連結2年度目の開始仕訳を導き出すためには、連結初年度に行ったすべての連結修正仕訳を開始仕訳に含める必要があり、初めのうちは慣れないことも多いと思います。しかし、一度身に付けてしまえば、複数年度の連結財務諸表数値の解答が求められた場合でも難なく対応することができるようになりますので、早めの段階でチャレンジしてみてください。
(連結会社間取引の処理)
「連結会社間取引の処理」については、基本的に日商簿記2級で学んだ知識が問われますので、これまでの学習内容を忘れないようメンテナンスをするように心がけてください。
また、これを機に「連結会社間取引の処理」の仕訳が必要となる理由をきちんと理解しておきましょう。 「連結会社間取引の処理」の仕訳とは、具体的には連結会社間の取引高もしくは債権債務を相殺消去することを指します。これらはあくまで内部的に生じたものであるため、連結会計上は相殺消去する必要があります。連結会社間で会計方針の統一がなされていない場合や未達取引が生じている場合には金額が一致しないこともありますが、まずは「連結会社間取引の処理」の仕訳が必要となる根本的な理由をざっくり理解しておきましょう。
(未実現損益の消去)
「未実現損益の消去」については、基本的に日商簿記2級で学んだ知識が問われますので、これまでの学習内容を忘れないようメンテナンスをするように心がけてください。
また、これを機に「未実現損益の消去」の仕訳が必要となる理由をきちんと理解しておきましょう。
「未実現損益の消去」の仕訳とは、具体的には連結会社間の取引から生じた未実現利益または未実現損失を消去することを指します。これらは「連結会社間取引の処理」と同様に、あくまで内部的に生じた利益又は損失であるため、連結会計上は消去する必要があります。日商簿記2級の復習となりますが、ダウンストリームの場合とアップストリームの場合ではそれぞれ会計処理が異なりますし、税効果会計を適用した場合や連結子会社間での取引が生じている場合には仕訳が複雑になります。テキストの練習問題や過去の本試験問題の学習を通じて十分に理解を深めるようにしましょう。
おわりに
今回は、日商簿記1級の会計学・商業簿記のうち、連結会計について学習のポイントをご紹介しました。
連結会計は分量も多く、苦手意識を持つ受験生も多いのではないかと思いますが、一つ一つ理解を深め、最終的には本試験で出題される総合問題に対応できる基礎能力を身に付けるようにしましょう。
次回も今回に引き続き、論点別の具体的な対策方法をご説明しますので、乞うご期待ください。